第2話 光の御柱(ヒカリノミハシラ)

視点は主人公、第三者です。


AM4:57 やたらと長い階段の先にあるビカラ神社。

階段数は500段を軽く超える難所の一つで

運動系の部活でよくトレーニングに使われている。


因みに都市で一番長く険しい階段である。

オレにとっては、決意と覚悟を試すために駆け上るのだが、普段なら間違いなくこんな所を駆け上る何んて願い下げだ。


でも、この階段を光の御柱(ヒカリノミハシラ)が現れる前に登りきることは願掛けも兼ねているので

逃げるわけにはいかない。


オレが、今から挑む事に比べればしんどくてつらいだけで死ぬわけじゃない。

のだが、改めて下から上を見るともう心が折れかけである。


でも、これは決意を現実のモノにする為にもやらないという選択肢はない。

オレは、気合を入れ直し上を向く。


この一歩を踏み出して覚悟を心に刻むのだ。


何だろ、スポ根(スポーツ根性)モノみたいだと、思いながら階段を駆け上がる。

階段は、暗く足元が見にくいので小さなLEDライトをネックレスのように下げ足元を照らす。

一段一段が狭く急な階段をペース配分を考えて上る。


目標(ゴール)は遠いでも、やり遂げないと兄姉替わりの二人に大見え切っているし、

情けない所見せるわけにはいかない。


と言っても二人ともいないが、やってもいない事をできたと言ってもすぐにばれるのでやらないわけにはいかない。


もちろん、そんなつもりもない。


たとえ、辛くても踏み出す力を緩めない。

額には汗がにじみ、着ているTシャツもべたつく。


今は、中間地点くらいまで来て息も荒くなり苦しくなる。

足も重みを増し、階段を上るために足が上げにくくなる。


でも、止まらない、止めたくない。


今は、苦しいだけだ。

オレは、ここで歩みを止めてしまうほうがコワい。


ココで止まれば、楽になるだろうがそれはあきらめることを意味する。

それだけはイヤだ、絶対に嫌だ。


悪夢を振り洗うために、決意したんだ。


覚悟を決めたんだ、それを無駄にすることなんてできない。




頑固者だ、意地っぱりと言われてもいい。

オレにだって譲れないものくらいある。



登れば、進めば息苦しくなり、汗がにじむ。

歩みを止めずに進む、階段をのぼりながらオレは何やってんだろ、なんて考えてしまう。


人一倍しんどくい思いして、通すだけの覚悟なのか。

そんな思いが頭をよぎる。


それでも止まるつもりはない。

止まらなければ、しんどくい思いは続くがゴールも近づく。


顔を上げて上を見れば、階段の頂上にある鳥居が視界に入る。


それが、そこまでいけば目標に届く。


その思いが折れそうな気持ちを奮い立たせる。

さらに、逃げたくない、あきらめたくないという思いも後押しする。



その意地を張ることでオレは階段の頂上にある鳥居をくぐる。


階段を踏みしめるりながらくじけそうな気持ちを目指す目標(鳥居)を想像しながら

そして、自分の目で見据えながら目をそらすことなく。


それは(鳥居)、ゴールテープでありフラッグ。

息苦しさに負けるか、オレの意地がねじ伏せるかのせめぎあいだったが、






ココは権太(頑固者)のオレに軍配が上がったようだ。

目標(鳥居)にたどり着いた。






それも時間内に





目標(鳥居)をくぐり抜けたその瞬間、苦しいはずなのに「ゴール」と力なくつぶやいてしまった。

ほとんど無意識に。






これもオレの権太(頑固者)ぶりのなせる業か、それとも負けん気が出来ることか。






んな事、わからんわ!!!






今はごちゃ混ぜだ、たどり着いたのに嬉しくない。






嬉しいはずなのに息苦しいわっ。






足が重いわ、動きたくないわ。





なんて思う。








だからこそ、何であんなことつぶやいたか







答えを考える間もなく、








くぐったタイミングで膝をつき、両手を地面につけ四つんばになり、

地面を見る。

肩で息をして、足りない空気を必死で体に取り込もうとする。

額からのにじみ出る汗が地面へと吸い込まれ、汗で濡れたTシャツが気持ち悪く感じる。





周囲を確認したいところだけど、今はそれどころじゃ無いくらい息苦しい。

とにかく息を整えることに精いっぱいだ。

何も考えられないくらい、頭をよぎるのは何やってんだろオレ、くらいだ。


こんなに苦しい思いして目的地にたどり着いて、

今度は汗で濡れたTシャツの気持ち悪さと息苦しさに襲われる。



これが気持ちいいなんて思える選手にはなれないとは感じれる。

悪態をつきたくて仕方がないが、今はホントにそれどころじゃ無いくらい息苦しくてたまらない。






階段を駆け上がる。





単純で簡単な行為。





だからこそ単純でカンタンな行動なのだがだからこそ人となりが出る。





自分に負けるか、勝つかだ。






いや違うね、そんな事じゃない。




意地を張り、それを押し通せるか否かだ。




彼は、最初の10分は駆け上っていた。

ゆっくりとしたペースでだが・・・。

今は、歩くスピードで踏みあがる足に手を置き、頂上を見据え、階段を上っていた。

足取りはゆっくりだが力強く、瞳にはしっかりとした強い意志を感じる。



少年の名は、久野 マコト(ヒサノ マコト)。薬師高校一年である。

短髪、中肉中背。絵にかいたような普通の少年である。

マコトは階段を上りきったところで「ゴール」とかすれそうな声で呟き、

その場で振り返りながら座り込む。





なぜ呟いたか、理由は簡単だ。




自身の意地を通した、通すことが出来たからだ。






やってやった、どうだ。





と、いう気持ちの表れなのだ。




要は、意地っ張りの負けん気が強い人間の言葉なのだ。





彼は、振り返り座り込む。




神社の玉砂利が冷たく彼を冷やす。



その心地よい冷たさが彼を冷静な思考に引き戻す。




肩で息をしながら今しがたのぼってきた階段を見下ろし満足そうにしている。

そこから見える景色は、町を一望できた。







町の中央には湖があり、その中央近くに島がある。







島までは橋がかけられており、島自体が大きな神社になっている。

いや、神社というには大きい。




神宮というほうが正しい。





まだ、朝も早いせいか周囲は薄暗く町はまだ眠りについているように見える。

マコトは、呼吸が落ち着いたのか、鳥居の向こうを見据えながら立ち上がり、

左手の腕時計を見ると「まだか」と呟く。




一呼吸ついてマコトは神社の中に進む。





そして、入口近くにあるお手水で顔を洗う。





普通に見れば、罰当たりのマナー違反である。




清めるという意味では正解となる。




何ともめんどくさいことだ。






そんな事どうでもいいという感じの彼は、さっぱりしたのか





改めて鳥居の所まで戻り、腰に手を置き湖を見据える。




何かをお目当てを待つような好奇心いっぱいの眼をして見ていると

ザッザッザッと割と短い間隔で砂利を踏みしめる音が聞こえる。





マコトの後ろから音は近付くように大きくなってくる。

マコトは音に気が付き、後ろを振り向くと

そこに竹ぼうき片手に巫女さんが近づいてくるのが見えた。

まだ薄暗く顔はよく見えないが「なにしてんのよ」と若い女の声で

怒鳴りつけてきた。




「光の御柱(ヒカリノミハシラ)が出るのを待ってんの」

マコトは、怯えることもなく答える。


その返答を聞くと力強く砂利を踏みしめるがする。




それも早足で、人影は手に竹ぼうきらしきものを持ち

怒り肩でマコトに迫る。





雪駄で歩きなれいてないのか息を切らせながら

巫女さんがマコトの元まで来ると





「そんなの来年でも見れるでしょ。今回は諦めて帰ってよ、お願い」

マコトの背中を両手で押しながら神社の入り口に向う。

巫女さんにマコトは、押し出されまいと抵抗する。





「そんなわけにはいかない。僕にとっては今日は特別な日なんだ。

何の理由もなく次回にするなんてできない」

とはっきりと答え振り返る。






そこには、マコトの知っている巫女姿の女子の顔があった。

ショートカットで少しマコトより背が低い元気印のような女子である。





「安村」、「久野」とお互いの名を呼び合う。

「安村、何巫女さんのコスプレしてんだよ」





マコトは、巫女姿の安村 ミコ(ヤスムラ ミコ)に問いかける。

「コスプレじゃない。ここが私の家なんです。




家の仕事を手伝うとなると巫女さんにならないと不自然でしょ」

ミコは、キツイ口調で答える。




「ここがお前の家だったの、知らなかったよ。すまん、悪いこと言った。」

マコトはミコに頭を下げる。




「そう、まあいいわ。とりあえず、階段のところまで行ってほしいんだけど」

と、ミコは再びマコトの背中を両手で押し始める。




「だから、なんでだよ」

マコトは、再び抵抗するように振り返る。




「何でもよ」

と、ミコは再度、マコトの背中を両手で押し始める。





「俺はここで光の御柱(ヒカリノミハシラ)をみたいんだよ」

マコトは、再度、抵抗するように振り返る。






「階段で見ればいいでしょ。神社の中にあんたがいられるとこまるのよ」

ミコは、声を荒げつつ言う。





「神社の中に居て何が困るんだよ」

マコトもつられて声を荒げる。




「アンタ、まさか刻印の儀のこと知ってんのね」

ミコは、睨みつけるような顔で問いかける。





「刻印の儀?何の事だよ。わけのわからないことを言って。

こっちにとっては大事な日なんだ」

マコトは言い返す。

マコトにとって年に一度起こる町の怪奇現象である光の御柱(ヒカリノミハシラ)を

見ることは大切なことである。




自分の力で町の一番高い所から光の御柱(ヒカリノミハシラ)を見ることはとても大切で

大事なことでもある。





だから、譲れないし、引けない。





何の理由もなく、ただ帰れでは済ませられない。





「何がどう大事か知らないけど、何も今日でなくてもいいでしょ。来年もあるんだし」

ミコも引かない、いや引けないのだ。

だからこそ何としてもマコトを帰らせようとする。




マコトもミコも引けない理由があるため、二人の押し問答はひたすら続く。

二人が言い合いをしている間に湖の中央にある神社がうっすらと光りだす。




その光は、地面からゆっくりと上に伸び始める。




街で年に一度、朝日が上るときに起きる現象。湖の中央にある神社に光の柱が現れる。





一般的には漁船の光が空気中の氷の粒に反射する自然現象なのだが、

この街で起こる現象は、反射する光もなければ氷の粒もない。



お偉い学者さんの話では、この都市の形に意味があるのかもしれないと言っていた。

理解できない神秘的な何かが解明されれば、法則が理解されれば謎は謎ではなくなり



新たな学問になる。


人が今までそうしてきたように。

蓄積された経験は経験則になり、複数の経験則は知識となり、知識は法則になり、


法則は学問になる。




今は、光の御柱(ヒカリノミハシラ)と呼ばれるその現象の原因も分からない。




神秘的なモノで済ますのが一番わかりやすいのだ。




昔からの起きる神秘的な現象でいいのだ。




昔から起きる神秘的な現象(アンティーク)が町の名物となっている。





それでいいのだ。






光の柱が現れきったところでマコトは、ミコを払いのけ

光の御柱(ヒカリノミハシラ)に見入る。




だが、その光は毎年見る者とは異なる。



神社から光の柱までかなりの距離がある。

だが、今はまるで目の前に光の柱があるように見える。


遠くにある柱は枝のように細い線のように見えるのだが、今は巨大な大木のように見えるのだ。



そんな違和感に気が付かないまま二人は、柱を見る。



ミコは、落胆気味にマコトの後ろから見つめる。

すると光の御柱(ヒカリノミハシラ)から自分たちのに向って光が向かってくる。


大きな大木から光がまぶしさを増す。



それに対して思わず、二人は目を背ける。




光の御柱(ヒカリノミハシラ)から出る光は、12本現れ、

湖を・・・いや街を囲むように聳え立つ山の頂に鎮座する12神社の鳥居に向って放たれる。

それは光が門たる鳥居に向かって走る何かの儀式のようにも見られる。




ミコが目を開くとそこにはもう光の御柱(ヒカリノミハシラ)はなく

満足そうに鳥居から湖を見据え佇む少年(マコト)の姿が、朝日に照らされていた。




「さて、帰るわ。」と言い残すとマコトは簡単に手を振り、階段を駆け下りていく。

ミコは、慌ててマコトを止めようとするが間に合わない。





今日、学校でマコトを何が何でもとっ捕まえて

大事な話をしなければならないと固く自分の心に誓う。




そう、先ほど二人で参加してしまった儀式【刻印の儀】について。


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