第1話:まだ寝ていると信じて

「おかえりなさいませ、宇尾火月様」


 知らない男の人に名前を呼ばれた、気がした。

 とりあえずマップを開く。現在地は、


「火月様」


 また呼ばれた、珍しい、同名なんて居るんだな。


「宇尾火月様、貴方ですよ」


「人違いかと…」


「ここには貴方しか居ませんが?」


 周囲を見渡す。おいおい、誰もいないじゃあないか。

 念のためマップを見る。


「いや、ここどこだよ」


 明らかに地図が変わっていた。知らない建物、道、地名。

 前のような面影はあるが、全てが全くの別物となっている。


「どうやってここに辿り着いたんだっけ、とりあえず電話すr「火月様、お客様がお見えですので早く行きますよ」え?」


 すると強引に引っ張られ、自分の部屋?へと連れて行かれた。

 意味が分からないので抵抗できずに…。


「は?なんでらいが居るんだよ」


「あ、やっほ」


 こいつは四天王唯一の女子、泉道頼せんどうらい。黒髪のボブで、背丈は160後半と女子の中では高い方、発育も普通。だが、顔は良い。いわゆる隠れ美少女というもやつだろう。


「やっほじゃないんだよ、なんでここにいんの?」


「いや、気づいたらここに居て?」


「こちらの方は私をt「ストーップ!」失礼しました」


 よく分からないが、頼が関わっているんだろう。俺は察しがいいからな。ここの間取りは全く知らないけど。


「なんでストップ?というか、あなたはどちら様で?」


「今日から火月様の執事をさせていただきます、ディオでございます」


 ディオ…様。ザ・○ールドでもしてくるんだろうか。それにしては老けている。

 とても落ち着いていてダンディな感じ、イケおじだな。

 それにしても…


「ハッハッハ、純日本人ですよ。ディオは執事の時の名前でございます。本名は違いますよ、教えられませんけどね」


 えぇ、心読めるのかこの人。本名は教えられない?スパイか?


「あはは、そうなんですね」


 怖くなってきてしっかり反応できなかった。

 だが、何より大切なことをまだ聞いていなかった。


「あの、俺こことは別のアパートに住んでたんですけど、そのアパートはどこに?」


 「アパートとはなんでしょうか?」


「え、俺の前まで住んでた、大家さんが立前さんの、『立前アパート』って言うんですけど」


 ピンと来ていないようだった。


「頼は分かるよな?来たことあったし」


「えーと、何の話かな?ずっとここじゃないの?」


 頼も分かっていなかった。忘れられたのか『立前アパート』、無念。

 しかし、二人とも分からないということはホントになくなったのだろう。


「火月様、ここのマンションは『マンションTATEMAE』と言うのですが」


「え?」


 意味がわからなかった。

 立前の発音が良くなっただけかと思ったら、10階建ぐらいのとても高そうなマンションになっている。

 そして、アパートの部屋は1番右の角部屋、201だった。そして、今の部屋は。


「ここ、何号室とかって分かります?」


「201でございます」


 もう意味がわからなかった。ここはあのアパートだというのだろうか。現実が飲み込めない。

 一日、ましてや半日でここまで様変わりするなんて聞いたことがない。

 そして、マンションに入る前に見たマップでは、全くの別物に変わっていた。


「これは夢だ、絶対夢だろ、まだ寝てるだけだろ」


そう信じて、頬を叩きながら202の隣人の元に急ぎ会いに行った。


______________________________________________________________________


次回、頼視点。




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