第6話 襲撃

 今日も森でゴブリンを倒す。


 でも何だか今日は気が乗らないな……またあの美味い飯が食べたいと思ってしまう。


 それに……二人はこれからどうなるのだろうか。


 ダークゴブリンはゴブリン族の中でも最高峰に強い魔物だし、それが群れて襲ってくるなんて考えられない。


 となると……やはり誰かから仕向けられたってことよな。


 ――――と思った時だった。


 後ろから一瞬殺気を感じて体を捻ってその場から飛び跳ねて距離を取ると、丁度俺の足があったところに短剣二本が地面に突き刺さった。


 やはり……来たか。


「ちっ」


 舌打ちの音から、木の陰からさっき俺に美女二人を聞いてきた目付きの悪い男がいた。


「今度は何の用だ?」


「……あの二人について知っていることを全て吐け」


「俺よりお前の方が詳しいのではないか?」


 彼は答えるよりも先にショートソードを取り出した。


 約1メートルの刀身に対し、ショーちソードは半分ほどの50センチ。軽さもさることながら細さも売りの一つで身軽さを優先した武器である。


 ただ、彼が持つショートソードの刀身は若干紫色を帯びている。


「毒属性剣か……」


「ほぉ……剣を見る目はあるらしいな」


「まだ見習いだけど、一応鍛冶師の端くれだからな」


「……鍛冶師が冒険者ごっことはな」


 次の瞬間、男の体がブレると同時にとんでもない速度で俺に近付いてきた。


 世界がまるでスローモーションになったかと錯覚するくらい速い。


 仕方ないっ……使うしかないか! 死ぬくらいならっ!




 ――――と思った時に、ヒューッと風が吹くと同時に目の前に燃えるような赤い髪がふわっと広がり、俺を狙っていた男を鞘で・・殴り飛ばす。




「なっ!?」


「え!?」


 飛ばされた男だったが、木にぶつかる前に体を回転させて着地する。


「グレン殿」


「リ、リサさん!? どうして……」


「話はあとだ。それよりも――――また剣を貸してもらえないだろうか」


 フランベルジュは鞘から抜かない。人を斬るための武器じゃないから……という意味もあるだろうけど、今のフランベルジュでは誰にも勝てないとわかっているんだ。


「はい。どうぞ」


 俺はスキル【武具倉庫】を使い、中に入っている剣を取り出して彼女に渡した。


 向こうの男は「ちっ……」と舌打ちをして、今度はリサさんを襲った。


 剣を抜いた彼女は男を迎え撃つ。


 カーンカーンと剣がぶつかる音が何度か響く。


「そいつ、隠し短剣を持ってます!」


 戦いの最中に俺を狙って投げ込まれた短剣だったが、投げられた瞬間にリサさんの華麗な剣捌きで叩き落とされた。


「――――ストライク!」


 男の体からオーラが放たれ、今までよりも強烈な一撃をリサさんに叩き込む。


 リサさんは素早く剣を後ろに構える。


「――――円月斬」


 男が間合いに入ったギリギリで彼女の剣が男の剣ごと斬りつけ叩き折った。


 わざと男を斬らず、一気に距離を詰めて腹部に強烈なパンチを叩き込む。


 にぶい音がとても痛そうだ。


「ぐはっ……くそ……」


「お前にはいろいろ聞きたいことがある。このまま――――っ!?」


 リサさんが捕縛しようとした瞬間、ニヤリと笑った男は――――全身から力が抜けたようにその場で気を失った。


 いや……これは……。


 リサさんはアイテムボックスから大きな袋を取り出し、男を袋の中に入れた。


 その際に素早く彼の装備品を剥がしていた。


「リサさん。助けてくだ――――」


「グレン殿。巻き込んでしまい申し訳ない。こいつは……ソフィを狙った輩だ。その話もちゃんとしよう」


「……わかりました」


「またギルドまで一緒に来てもらえるか?」


「ええ」


 もう二度と会うこともないと思ったリサさんとまた冒険者ギルドに向かった。


 今度は表ではなく裏の入口から入っていく。


 さっきの部屋とは違う最上階にある部屋に入るとすぐにソフィアさんが両手を握り締め俺達を見ていた。


「グレン様……! ご無事でよかったです」


 俺を心配する……ということは、襲われるって知っていたのか。となると……。


「ガルシア殿。こちらの男だ」


「うむ。受け取った。では俺はこいつの身辺を調査しよう」


 男の亡骸が入った袋を受け取ったギルドマスターは外に出て、ソフィアさんとリサさんと三人だけとなった。


 ソファに座ったが、以前のようなワクワクした気持ちにはなれない。どちらかというと――――複雑な気持ちになっている。


「グレン殿。この度は……私達の事情に巻き込んでしまい申し訳なかった」


「いえ。リサではなく……私です」


「つまりお二人は俺が襲われるとわかっていたんですね?」


 二人は肯定するように頷いた。


「グレン様。改めて自己紹介させてください。私――――ソフィア・フォン・ディレアスと申します」


 そう話しながら、貴族令嬢らしい気品あふれる挨拶を披露してくれる。


「ディレアス……? もしかして……ディアレス辺境伯様……?」


「ディアレス辺境伯は私の父になります」


「えええええ!?」


 思わずその場で立ち上がり、目の前の金色に輝く髪を持つ美少女を見つめる。


 辺境伯といえば、その国で王様に次ぐ権力者……いや、場合によっては王よりも権力持つとも言われている。


 ここヘルマディア国は俺が生まれて育った国の隣国ではあるが、ディアレス辺境伯の名前くらいは聞いたことがある。


 王の娘を姫と呼ぶように、辺境伯の娘も姫と扱われ、国の姫とも同格と見られるのが定石。


 つまり……俺の前にいるのはお姫様だ!?


「あ、あ……あ! ひ、跪かないと!」


「グレン様。いえ。その必要はございません。私が名乗ったのは、この一件を早めに理解してもらいたいからです。ですから……どうかそのまましてください」


 ソフィアさんは……少し寂しそうな表情でそう話した。


 姫……という立場は……きっと俺が想像する以上に大変なんだろうな。


「わかり……ました。代わりに……後から無礼討ちとかはやめてくださいね?」


 一瞬ポカーンとした表情を浮かべたソフィアさんは、すぐに笑顔になり「もちろんです! グレン様は私がそんな悪い人に見えるんですか?」と可愛らしく言ってくれた。


 護衛でもあるリサさんがソフィアさんの後ろに立ったままだったのも気になったので、彼女にもソファに座ってもらった。


「では説明させていただきます。昨日……私達が襲われたはある人が仕組んだものと思われます。まだ確証がないため……このような言い方になりますが、ほぼ間違いないと思っております」


 やはり……か。というか姫様って命まで狙われるのか……。


 何だかさっきの俺のくだらない怒りはどうでもよくなってきたな。


「理由は……何ですか?」


「それは……」


 困ったように言葉を濁らせたソフィアさんは、少しだけ顔を赤らめて俺から視線を外して続けた。


「実は…………とある方から……プロポーズをされておりまして……それをお断りしたんです」


 おふ。思っていたのと全然違う感じか。


「ん? 断ったくらいで……暗殺?」


「グレン殿。まだ暗殺とは決まっていないが……相手も高い地位の者で、面子メンツの問題もある。断られた相手が別の相手と結婚するとなると……」


「自分の方が劣っている……と?」


「ああ。その通りだ」


「…………」


 何というか。心底――――怒りが沸き上がる。


 要はプライドが許さないから、相手を消した方がいいって考え方になったってことだよな……?


「グレン様……?」


「……なんて身勝手な相手なんだ……まだ確証はなくとも…………そんな人のプロポーズは受けなくて正解だったと思います」


「グレン様……そう言ってくださると嬉しいです。あの後、私達と一緒にいたグレン様が襲われそうだという話になり、リサにお願いして後を付けてもらったんです」


「なるほど……じゃあ、逆に守ってくださったんですね」


「本来ならもっと早く保護するべきでしたが……私達もまだ確証が得られず、グレン様にどう説明していいものかと悩んでしまってこのようなことになってしまいました」


「わかりました。事情は理解しました。あの時にそう言われても信ぴょう性がなくて俺も信じにくかったと思います」


「これで納得していただけたのなら幸いです。そこで……一つ相談なのですが……」


「はい」


「もしよろしければ――――このまま私達と一緒にディレアス領地まで来ていただけませんか?」


「ディアレス領!?」


「このまま残られてもいわれのない誤解でグレン様が何らかの被害を受けてしまうのではないかと……ディアレス領でしたら安全は確保できると思います。もしグレン様さえよろしければ、屋敷などもご用意しましょう」


「そこまではしなくても……それに俺は…………どこかに定住するつもりはないんです」


「そう……でしたか」


「ただもうこれ以上この街にいるのは難しそうですね。そろそろレベルも上がってきて次の狩場に行く予定でしたから、迷惑でなければご一緒させてください」


 そう話すとソフィアさんは満面の笑みを浮かべて大きく頷いて「はい! ぜひ!」と答えてくれた。


 もう二人と会うことなんてないと思っていたけど……まだしばらく一緒に旅ができそうだ。





――【あとがき】――

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