第5話 到着

 暗い森の中に日差しが差し込む温もりに目を覚ました。


 丁度タイミングを同じくしてリサさんとソフィアさんも眠そうな顔で起き上がる。


 2~3メートルは離れているとはいえ、これほど至近距離で美少女が二人も寝ていただなんてな……。


 異世界の人々は前世よりも綺麗で可愛い人が多いけど、二人はその中でもとびっくりに美人だ。


 朝から必要以上に胸の高鳴りが聞こえた。


「おはよう……ございます……グレン様ぁ……」


 ソフィアさんはどうやら朝に弱いようだ。


 リサさんはというと、ものの数秒でキリっとした顔になり、俺が貸した剣の柄を何度も掴みながら慣れようとしていた。


 眠そうな目をこすりながら朝食を準備するソフィアさんを少し手伝う。


 野宿だというのに、ソフィアさんからとてもいい匂いがする。


 作ってくれた朝食をご馳走になって、街に戻ることになった頃はすっかり日の光が朝を示していた。


「あら? リサ~また剣を借りたの?」


「うむ。フランベルジュではまた強い魔物には対応できないからな。街に着くまでお願いしたんだ」


「へぇ~あれ? でも……」


「ん?」


「昨日そんな話……いつしたのかな? 私が寝てから二人っきりで?」


「「っ!?」」


「そっか~」


「た、たまたま目を覚ましただけだ。二人っきりとかではない」


「ふう~ん。そんなことにしておくね?」


 昨日とは打って変わり、今度はソフィアさんの方が一枚上手うわてだったな。


 先頭はリサさんが歩き、俺とソフィアさんが追いかける。


 どうやら昨晩の魔法でソフィアさんは大した魔法は使えないというので、何かあっあら俺が全力で守ることにしたけど、まともな・・・・・剣を手にしたリサさんの前では、ゴブリンなど視界に入った瞬間にその場で倒れ込んでいた。


「ふふっ」


 歩いていると、隣のソフィアさんの笑う声が聞こえた。


「リサがあんなに楽しそうに剣を振るうのは久しぶりに見ました」


「楽しそうに?」


「はい。フランベルジュを受け継いでからの彼女は……いつも難しい顔をしていたんですけどね。これもグレン様のおかげですね!」


「え!? お、俺はただ剣を貸しただけで……」


「ふふっ。ああ見えてリサってすごく頑固者なんですよ~?」


 あ。それは見ていればわかる。


「ずっと剣を探していたけど、結局手に合う剣がなかったり、フランベルジュがあるからって全部断っていたんです。あんなにも生き生きとした顔になる剣は、最初にフランベルジュを握ったときくらいです」


「なるほど……二人とも昔からの仲なんですね?」


「はい! リサとは幼い頃からずっと一緒なんですよ!」


 前で戦っているリサさんの剣の筋は、美しいのたった一言でしか表現できない。


 見るものにはただ踊っているかのような、戦っているのを忘れてしまうほどに綺麗な剣捌きは、彼女が昔から剣をどれだけ振るってきたのかがわかる。


「昔からとても剣術が好きで……」


「お母さんが憧れだって昨晩おっしゃってましたね」


「あら、もうそこまで話してたんですか~? むぅ……私のことは全然話してないのに……」


 いやいや……偶然だから。


「ふふっ。でもここでグレン様と出会えて本当によかった。リサの友人として、彼女がまた楽しそうに剣を振る姿を見せてくれてありがとうございます」


 ただ剣を貸しただけで……ここまで言われるなんて……な。


 あの人達とは……大違いだな。


 旅路はリサさんが殆ど魔物を倒してくれたが、俺のレベルのことも考えて時には俺が戦ったりした。


 初めて戦ったところを見せると「お世辞にも強いとは言えないが、才がないにも関わらずとても良い動きをしている」とリサさんから評価までしてもらえた。


 こう……ストレートに思ったことを伝えてくれた方が嬉しい。俺も少しは剣術を習ってみようかなと思う。才はないけど。


 初めて誰かと一緒に旅をして、とても楽しいと気付いた。


 冒険者達がパーティーと呼ばれているチームを組むこともいろいろ納得がいく。強さだけじゃなくて、誰かと一緒にいるのが楽しいんだ。


 はあ……前世でも今世でもずっとボッチだったからな。今さら誰かに「パーティー組んでもらえませんか?」って言う勇気なんてないし、メリットもなさそう。


 メリットなら……武器を貸すくらいか。倉庫には・・・・一応ほぼ全種類入ってるしな。


「あ、グレン様。ケガされてますよ。すぐに治癒魔法を……」


「うわっ!? も、もったいないですから! こんなかすり傷……」


 さっきの戦いでリサさんに見られるのに緊張しすぎて距離感を誤って攻撃が掠ったときにできた傷だ。


「ダメですよ? ちゃんと治さないといざというときにちょっといた痛みで気が散るって子供の頃のリサが言ってました」


「子供の頃の話を出すな」


「もう大人になってあまり可愛げがなくなっちゃいましたね~」


「私は元々可愛げなどない」


「え~リサって可愛いよ? ね? グレン様」


「え!?」


 これ……なんて答えた方がいいんだ? くっ……! こうなったら思ったことを素直に……!


「剣士の方にこういうのは失礼かもしれませんが……じょ、女性としての魅力もとても優れてると思います!」


 少し顔を赤めるリサさんに思わずこっちまで顔が熱くなるのを感じる。


 ダメ……だったんだろうか?


「ほら。ね? リサ」


「…………」


 リサさんは何も言わず、速足で先頭を歩いた。



 ◆



 冒険者ギルドに入るや否や、受付嬢が一目散に飛んできた。


「ソフィア様ですね!?」


「はい。マスターはおりますか?」


「すぐにご案内致します」


「よろしくお願いします。グレン様もご一緒に」


「俺も……ですか?」


「はい!」


 このまま拒否したら強制的に連れて行かれそうな気配がするので、ソフィアさんに逆らうことなく初めて入る冒険者ギルドの奥の部屋に向かった。


 部屋は俺が泊まっている宿屋よりもずっと広くて、中央に高級ソファが置かれていた。


 少しソワソワしながら待っていると、ノック音がして扉が開き、ギルドマスターが入ってきた。


 一応顔が見たことがあったけど、見た目だけでとても強そう。


 正直……こんな辺境の地には似合ってない強そうな人だ。


「ソフィア様。お久しぶりです」


「ガルシア様。お久しぶりです」


 ソフィアさんに合わせてリサさんと一緒に会釈する。


「まさかこのようなところにいらっしゃるとは……」


「急な訪問に対応してくださりありがとうございます。実は……ここに来る間にダークゴブリンの群れに襲われてしまい、馬車や従者の皆様が……」


「ダークゴブリン!? まさか!」


「まだ断定するのは難しいですが……」


「そういうことがあったとは……リサ殿がいてくださったおかげでご無事だったのですね」


「リサのおかげでもありますが、何より助けに入ってくださったグレン様がいらっしゃらなければ、私達はここにたどり着くことができなかったでしょう」


 ギルドマスターの目が俺に向く。


「お、俺はただ……リサさんに剣を貸しただけで……」


 彼の目がリサさんが持つ二振りの剣に向く。


「なるほど。そういうことでしたか」


 鞘の外からもリサさんのフランベルジュのことを見抜いてるのか……?


「グレン殿には私が責任を以って褒美を支払いましょう」


「何から何までありがとうございます。ガルシア様」


「いえ……何より貴方が無事なことが大事ですから。ここからは私にお任せください」


「はい。よろしくお願いします」


 ソフィアさんって只者じゃないとは思ったけど……やっぱりどこかの貴族のご令嬢とかかな? リサさんもそんな感じがするしな。


「じゃ、じゃあ、俺がここで失礼します……」


 もう剣は返してもらえたし、ギルドマスターと顔合わせもできたんだから問題なさそう。


「グレン様。ありがとうございました」


「いえ。こちらこそ、ご馳走になったりとありがとうございました」


 挨拶をして部屋を出た。


 はあ……もうあんな綺麗な人達と冒険ができる日なんてこないだろうな。まあ俺には俺の道があるんだし、ひとまずレベル上げに勤しみますか。


 受付嬢にも軽く挨拶をして冒険者ギルドを出た。


 そのとき、一人のやせ細って目付きの悪い男が俺に近付いてきた。


「よお。お前さん。グレンという冒険者だろ?」


「ん? ああ」


「さっき、美女二人と一緒にいなかったか?」


 美女二人……というのは、ソフィアさんとリサさんか。


「いや、こんなみすぼらしい俺なんかが美女二人も連れてると思うか?」


「……見たという者がいたぞ?」


「勘違いじゃねぇのか? グレンって名前はそこいらにたくさんいる名前だしな」


「…………」


「俺は狩りにいかないと日銭が稼げないからもう行かせてもらうぞ」


 男は俺を引き留めることなく見送った。


 あの目付き……絶対にロクなことにはならなそう。


 はぁ……変なのに目を付けられたし、今日は街の中にいた方がよかったのか?


 いや、ああいう連中は街の中でも外でもあまり関係なさそうだしな。


 いざというときには……あれを使うしかないか。あまり気乗りしないがこちらも自衛させてもらわないといけないからな。


 俺は街を出ていつものゴブリン狩りを始めた。

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