第2話 冒険者
「はい。確かに確認致しました。ゴブリンは一日三十体までしかカウントされませんので、余分に持ってきた分はこちらで処分しておきますね」
「は、はい……」
きちんとした身だしなみで肩にかかる程のショートな髪をヘアピンで固定した女性は、冒険者ギルド内でもとても人気者の一人だが――――その顔は『私、三十体以上持ってきてもカウントされないからいらない分は持ってこないでくださいねと言いましたよね?』と言わんばかりの目が笑ってない笑顔を俺に向ける。
「はい。こちら、銀貨1枚になります」
「ありがとうございます」
簡潔に言葉を交わして、出してくれた銀貨一枚を受け取る。
銀貨一枚というと、日本円換算でざっと一万円くらいな感覚だ。
ただ物価が日本とはまるで違うもので、食料や宿屋は安くて変わりに素材などが高い異世界は、普通に生きる分には楽な部類だが、そもそも一般人がゴブリンを一日三十体倒せるかと聞かれたら、俺なら「いいえ」と答えるだろうな。
現に、今の俺も、自分で作った剣がなければ倒すことはできず、一目散に逃げるしかないから。
「それにしても……」
「はい!?」
終わりかと思って離れようとしたら、彼女から声をかけられて急いで体の向きを彼女に向けた。
「レベル1で……よく倒せましたね?」
「あ、あはは……たまたま剣の切れ味がよくて……」
「そういえば冒険者登録された時もそんなことをおっしゃってましたね。ひとまず、初めての討伐成功おめでとうございます。この調子で討伐を繰り返して頂ければ、遠くない未来にランクアップも可能だと思います」
「ありがとうございます……! 自分なりに頑張ってみます」
「はい。冒険者は命は一番ですので、くれぐれもご無理はなさらず」
さっきは少し怒ったようだったのに、今は優しい言葉をかけてくれる受付嬢……良いっ!
軽く会釈してその場を離れた。
冒険者というのは、魔物がはびこっている異世界ではメジャーな仕事の一つだが、戦う術がない人はそもそも目指せない。俺もステータスからしたら一般人と何ら変わりがないので、本来なら冒険者に向かなかったりする。
ほんと……愛用の剣様様って感じだ。
無事初めての依頼が終わったので、その日は夕食を食べて、狭いシングル部屋の宿屋を借りた。
外がすっかり暗くなった頃、灯りの無い部屋の天井を眺める。
一応窓の外から星々や月の明かりが差し込んでいるし、闇にも目が慣れて少し狭い天井が見える。
異世界に来て十五年。
いろんなことがあったけど……まさか自分が冒険者になるなんて思ってもなかったな……。
一応言っておくと、俺が転生したのは赤ちゃんの頃からだ。
最初こそ目も見えず、聞こえてくるのは変な音ばかり。これが赤ちゃんか……! ってなったけど、ある程度見えるようになってわかったのは、俺は――――孤児だったってこと。
何回か母の温もりのようなものを感じたことはあるけど、数日後には冷たい感じがしてたのは、どうやら俺は捨てられたらしい。なので母の顔も名前もわからない。ただ一つ分かるのは、自分の名前が【グレン】であること。そして両親の苗字が【トリエンガム】であることくらいか。
目をつぶって集中する。
俺には戦闘スキルこそほぼないけど、愛用の剣を打てるくらいには鍛冶系のスキルがあったりするが……それがまさかこんな感じで自分を助けてくれるとは思わなかったな……。
ずっと…………師匠の元で剣を打ち続けて生計を立てて…………いずれは好きな人ができて、結婚して、子供を産んで……そんな夢を見ていたのにな…………はあ……。
魔物がはびこっている凶悪すぎる異世界で俺は生き残れるのだろうか?
まあ……文句を言っても仕方がないな。
明日からも討伐を頑張らないと、飯が食えない日も出るだろうし、頑張りますか!
俺は意識を手放して眠りに付いた。
◆
デンガル街に来て十日が経過した。
毎日ゴブリン三十体討伐は欠かさずにやったので、旅銀にも少し余裕が出たけど、もう少しレベルを上げたいと思う。
冒険者といえば、荒くれ者とかいるイメージだったのにデンガル街はめちゃくちゃ治安がよくて、そういう奴らの姿が見えないのは本当に助かっている。
今日も街を出て森へ。
いつものゴブリンを見つけては、自分ではそこそこできると思っている戦い方を繰り広げる。
囲まれたら危ないから、左右に移動しながらゴブリンを一体ずつ仕留める方法だが、これは一撃で倒せるからこそ成せる戦法だな。
十日もゴブリンを倒していると、俺のレベルは2から3に上がっているし、そろそろ4に上がるんじゃないかな。
思っていたよりもレベルが上がると、身体能力が上昇するみたいでわくわくする。
今日も三十体目のゴブリンを倒した。
「さて……右耳三十個目っと」
もう十日もこの作業を繰り返すと慣れるものだな。
それにしても今日はずいぶんと森の奥に進んできたな。今から街に戻るとなると少し時間がかかりそうだ。
街に近いところのゴブリンは結構倒してるからゴブリンを見つけるのも少し大変になってきたところか。
そのときだった。
「きゃあああああ!」
遠くから女性の悲鳴が聞こえてきた。
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