第2話 中編

「どうすりゃいいんだマジで……」


 ルート分岐がわからない、つまり俺が誰を殺すかわからないのだ。


 とにかく今は職員室に……いや、このハンカチの持ち主の与田の教室に向かった方がいいか?


 考えろ、どうすれば俺は誰も殺さずに済む?

 俺自身が殺さないと決めれば大丈夫なのか……?


「あっれぇ?それって私の?もしかして拾ってくれたぁ!?」


 ふわりとした栗色のミディアムヘア。


 天然な性格が隠しきれないおっとりとした話し方、そして綺麗な二重と小さな顔。


 志摩しまきいのがそこにはいた。


「あ、いや、これは……君のじゃなくて……」


「もしかして君のぉ!?それ、限定品でほとんど持ってるひと見たことないんだけどまさか同じ高校にいたなんて……なんか面白いねぇ」


 やばい、何を話せばいい。

 相手は攻略対象、もしかしたら殺してしまうかもしれない相手。


「お、俺は……新野」


「新野君?私は2年2組の志摩しまきいのって言うんだぁ。あ、そうだー、面白いついでに連絡先、交換ねー」


 ……待て。


 これは、


 志摩は美少女であるがかなり変人扱いされていて気に入った生徒なら男女構わずお気に入りとして自分の趣味、深夜徘徊に付き合わせるのだ。


「いや、俺は……」


「はーい、こうかんかんりょー、じゃまたねー」


 …………行ってしまった。


 だが、これはチャンスだ。

 連絡先を交換したということはある程度動向は掴める。


 希望が出て来た。


 ……と、予想外のトラブルもあったが、何とか職員室の前までたどり着けた。

 まずはこれを送り届けて……


「失礼しま……きゃぁっ!?」


 職員室から出て来た女子生徒とぶつかってしまう。


「ちょっと何!?」


「す、すいません!」


「別にいいけど……ってそれ私の!!」


 こいつは宇城蒼葉うきあおば

 典型的ツンデレ(ツンデレには広義の解釈含む)キャラだ。

 イギリスと日本のハーフ、美少女ながら釣り目が特徴的な貧乳ヒロイン。


「どこ見てんのよ」


「あ、いえすいません本当に……それとこれは宇城さんのじゃなくて」


「え?じゃああんたの?男で持ってるなんて変ね。って言うか私は自分の持ってたわ」


「あ、そ、そうですか……」


 同様し過ぎて完全にコミュ障の会話になってしまっているな。


「丁度いいわ、あんた、次私の買い物付き合ってよ、ちょうどそのブランド買いに行きたいんだけど男と一緒なら限定非売品貰えるのよね」

 

 まただ。

 


「あ、ちょ!」


 スマホを取り上げられ強制連絡先交換。


「じゃまた連絡するから」


「……………」


 何も言えなかった。


 ……あれ?


「……ハンカチ、無くなってる」


 何故?

 今確かに持っていたはず、それはまずい、まずすぎる。



「あの!この辺りにハンカチ落ちてませんでした!?こう黒と赤のボーダーで可愛い猫の刺繍が入った……」


「え?それって私のこれか?」


 あー……これは。


 黒髪長髪が美しい十河和佳とうかわか、生徒会長にして学年トップの秀才であり凛とした雰囲気が女子にも人気な美少女。


「あ、いや何でも」


「赤と黒のボーダーに猫の刺繍だろう?」


 まごう事なき同じもの。

 俺の落としたものではないが。


「それと同じです……」


「珍しいな、これって限定品なのだが……もしかして君……極度の猫好きだな?」


 あー、これも同じですね……


「このてんねこの刺繍のあるハンカチを買うなんて猫好き以外有り得ないからな」


 てんねこはこのヘンテコな猫の正式名称だ。

 確かに変な猫ではあるな。

 というか猫か……?


「なぁ、少してんねこ好き同士でお願いがあるのだが……詳しいことはLINYで相談したい、いいな?」


 同じ流れだ。


「はい、お願いします……」


「やった!じゃまた連絡する!」


 いつもは凛とした生徒会長が見せる可愛らしい姿、いい……じゃなくて!


 これで3人のヒロインに出会った。

 後は……多分……


「あの、新野くん、だよね?」


「……はい、そうです」


 与田泉、『虹の彼方に』の表紙にも1番大きく描かれているメインヒロイン。


 与田は神狩の幼馴染で神狩家の分家だ。

 転校して来た神狩の陰陽師としての仕事を手伝う重要な役割だ。


「良かった!さっき君が職員室にこのハンカチ持って職員室向かってるのを友達が見ていたって……君が私のハンカチ拾ってくれたんだよね?」


「いや、俺が拾ったって言うか……それどこで?」


 俺落としたはずだよな?


「え?すぐそこの窓際に置いてあったよ?新野くんが置いたんじゃないの?」


 多分今俺が落としたのを窓際に誰かが置いたんだな。


「これ、私のお母さんの形見なんだ」


「はい、知って……いや知りませんでした!」


「ん?ええと、それでお礼がしたいんだけど……」


「はい、今日の放課後とかなら時間あります……」


「本当!?なら外で待ち合わせしない?場所は後で連絡するね」


 はい、恒例の連絡先交換。


 やばい、ここからどうなるかわからなくなっている。


 4人皆全員に迫られることなんてゲームではない、どうすれば……


 『虹の彼方に』は絶対にどのルートでも人は死ぬ。


 だからゲームのルートをそのまま行くと誰かが死んでしまう可能性がかなり高いし、そもそも新野が少しでも関わると誰かが死ぬ可能性は十分ある。


 何せ俺の設定は、この俺の裏に普段新野ではなく、殺人鬼新野の性格があるかもしれない。


 もし裏の人格がいた場合にも誰も死なない方法、そんなのあるはずが…………いや、待て。


 唯一、方法がある。



 それならもしかして……

 決めた。

 新たなトゥルーエンドを俺は目指す。



 彼女達の為、そして……何より自分の為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る