【裏】エロゲのヒロインを殺すストーカーに転生したけど可哀想だし捕まるのは嫌なので殺すのやめます〜え?俺とデート?でもその日は主人公とデートする日ですよね?〜
耳折
第1話 前編
「やっぱりどうやっても死亡ルートは避けられないよなぁ……」
仕事が終わり食事家事を終えて今は午前1時、目の前のディスプレイにはヒロインが無惨にバラバラ遺体となっている姿が映し出されていた。
「グロすぎる……そりゃ成人向けだし許容されてんのかもしれないけどさぁ、流石にやりすぎだろこれ」
エロゲ『虹の彼方へ』は感動系と銘打って発売された。
前評判通り、ストーカーにより殺されたヒロインが転生しても尚主人公とその愛を貫き、ストーカーを捕まえハッピーエンドを迎えるそのシナリオは高く評価された。
そう、シナリオはだ。
「グロい……可哀想すぎる」
唯一の難点、それはヒロインが殺される場面だ。
あまりにグロいその描写とCGが一部のファンから賛否両論となっていた。
「まー、これがあるからシナリオが際立っているとも言えるんだけどな」
でも俺なら無理だな。
好きな女の子を殺すなんて、俺には考えられない。
そこまで人を狂ったように好きになった事がないからかもしれないが……
「寝よ、明日早いし」
明日攻略サイトもう1回見るか。
裏ルートあるかもしれないしな。
………
……
…
「んぁー、よく寝た……って、10時!?完全遅刻だ!!」
え?タイマーセットしたよな!?
てかスマホは!?
やばい、やばいやばいやばい!
朝から部長とミーティングで出社しなけりゃいけないのにこれはマジでやばい!
「……ん?てかここ、どこだ?」
というか、全て部屋はカーテンが閉め切られ更に至る壁と天井に何か貼られている。
それに俺の身体……くさっ!?
マジ?もう加齢臭の出る年齢か?
と、思ったのだがこれは違う、単純に洗っていない時の獣臭さ。
「風呂入って寝たよな……?あれ?」
まぁいい、今からでも風呂入って出社して謝り倒すしかないだろう。
壁を探り部屋の電気をつける。
目が光に慣れ、俺の目に飛び込んで来たのは……
「何だよ……これ……」
至る所に貼られていたのは美少女の写真。
そしてそのどれもが見覚えのある顔だった。
一部の写真には切り刻まれ、恨みがこもっていたのは一目瞭然。
『虹の彼方へ』のヒロイン全員。
なんだ、ここは?
まさか昨日酔って『虹の彼方へ』の信者の部屋に間違えて入ってしまったか?
とにかくスマホを見れば色々情報がわかると、俺は近くを探り始める。
ようやく見つけたスマホも俺のではなかったが何かわかればこの際どうでもいい。
まずは家に帰って落ち着いて……
「5年前?嘘だろ?」
スマホに表示された日付は5年前、それに暗転した画面に映る自分を見て驚愕した。
「何で……これ……新野大智じゃねえか」
新野大智はヒロインを殺すストーカーだ。
全ルートに関係するゲーム最大の敵であり、非常に狡猾で尻尾を出さないことからストーリー終盤までその正体を現さない。
待て待て待て!
え、じゃあ俺は何だ?その『虹の彼方へ』の世界に転生したって言うのか!?
それも!殺人鬼&ストーカーの悪役で!?
ま、ま、まずはあれだ、俺は誰か殺しているのか……?
今日は8月19日だった。
確か全ルート通して最初に殺人が起きるのは9月16日。
「良かったぁぁぁぁぁぁぁぁあ……」
……いや、良くない。
まだ殺していないのは良かったがこの世界では殺人鬼になる男に転生している以上は何もいいことではない。
落ち着け、そして思い出せ。
全ルートの内容とこの新野大智の動きを。
まず最初に殺人が起きるのは与田泉だよな?
確かええと……主人公と別れて1人で帰ってる所を人気の無い神社の敷地で襲われて……
まずは確かめないといけない。
新野大智はヒロインと主人公と同じ北城高校に通学している。
行かなくては、全てが本当なのか確かめる為に。
◇ ◇ ◇
新野大智は一人暮らしだ。
両親は離婚し、父親の買い与えた一軒家に住んでいる。
父親からは幼い頃から虐待、友人も勉強も全て管理され、かなり家庭環境が荒れて複雑だったことから二重人格となり、ヒロイン達に少し優しくして貰ったことからストーカー化した。
新野大智のこれから行うはずのことに関しては全く同情出来ないが、その生い立ちには同情するものはあった。
「ここが……」
北城高校、本当にあった。
ここに主人公とヒロインが……
「よぉ新野、お前久しぶりだなぁ」
知らん誰かに強く背中を叩かれ前のめりに倒れてしまう。
……そうだ、新野はいじめられていたのだった。
完全に忘れていた、悪役の詳細にあまり興味はないしな。
「マジ!?新野ぉ、また金貸してくれよぉ。あ、今日一緒に遊ぼうぜ!またお前のおごりなぁ」
「……るせぇ」
こんな時に……ふざけんな。
「あ!?何言ってんのかわかんねぇなあ!もっと大声で……」
「うるせぇって言ってんだよ!!俺はなぁ、今それどころじゃねぇんだよ!!てめぇのクソみてぇなストレス発散に付き合ってる場合じゃねぇんだよ!!わかったら消えろ!!」
「あ、なっ」
「あ?それともこの身体の傷全部医者に見せていじめられてましたって言ってやろうか?それもいいなぁ、もし嫌なら……黙って消えろや!!」
「おい!行くぞやべえってこいつ!!」
いじめっ子が一目散に逃げて行く。
マジで本当にあんなゴミに構っている暇はない。
こうしている間にも俺はもしかしたらヒロインを殺すルートに入っているかもしれないからだ。
とにかくまずは学校の裏口に。
そこには主人公、中性的な美少年、
陰陽師の家系で転生、というか正確には自殺で死にかけた女性にヒロインの魂が入れ替わるのだが、そんなヒロインを一眼で見抜いて犯人探しをするのだ。
まず俺がやらなければならないことは、主人公が今どのルートにいるのかだ。
それさえわかれば対策のしようはある。
「お、おはよう……
「え、何でボクの事を……?」
「あー、先生から今日神狩が転校してくるって聞いてさ、どんな人かなーって」
「そうなんだ、ええと君は……」
「新野!
最初の分岐、それは主人公がヒロイン候補4人の誰かに声をかけるイベントだ。
生徒の誰かのハンカチが落ちるのを途中から見ていて、それが誰かわからず適当に声をかける、という訳だ。
ちなみにハンカチは全員同じ柄のものを持っているが、実際にはその拾ったハンカチは与田の物だ。
今日はその分岐の8月19日。
ちなみに『虹の彼方に』は実質ヒロインルート分岐がこの1箇所しかない。
最初の選択肢でヒロインが決まり、後の選択肢はそこで決めたヒロインの生死に関わる選択肢になるという訳だ。
だからこれさえわかれば……
「え?誰にも声かけてないけど……誰かと間違えてない?」
「……………え?いやそんなはずは……」
それはありえない、このゲームにハンカチ選択肢は絶対に無いといけないはずだ。
「もしかして新野、今日校門でめちゃくちゃ怒鳴ってた?」
「え?ああ、まぁ……」
「あのヤンキーだよね!?すごいよあいつらにあんなに言えるなんて!あれに凄く驚いて拾ったハンカチ持って来ちゃったんだよね……あ!これ代わりに職員室に持って行ってくれない?実は家の都合明日転校に変わっちゃってすぐ帰らないといけなくてさ」
そう言って神狩は俺にハンカチを渡す。
「じゃ、よろしくね!」
「…………え?」
え、え?
神狩の転校日が変わるなんてルートはない。
まさかこれ、俺がヤンキーに怒鳴ったせい?
……どうすればいいんだ?
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