雪の降る夏

冬野 向日葵

8月31日の大雪

 8月31日。

 この一日は様々な思いが交差する。


 宿題が終わらない悲鳴や、学校が始まる憂鬱。

 社会を知らない小学生から現実に絶望している大学生まで、多くの人々の叫びが集う。


 その叫びはいつの間にか――灰となって、雪のように街に降り注いでいた。


 当然、日本中が大変なことに。

 大人たちの混乱とは引き換えに、学生たちは休校による開放で大安堵。


 そんな中、一人の少女がいた。


 大雪で誰もいない都心の中央に一人立ち尽くし、


「学校、いきたくない」


 ただその言葉だけを叫ぶ一人の少女が。


 体全体が真っ白で人らしからぬ姿をした彼女こそ、この事件の元凶であった。


 いわば人々の叫びから生まれた、代弁者のような存在。

 理性ではわかっていても、止められないその気持ち。


「学校なんてなくなってしまえばいいの」


 彼女が全部叫んでくれる。

 大人に負けず、叫んでくれる。


 学生たちの、唯一の希望。

 8月31日の夜に現れた、救世主。


 この夜が終わらなければいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪の降る夏 冬野 向日葵 @himawari-nozomi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ