第3話 輝き(Śobhā. Brilliance)
気づくと私は城の中庭にいた。池には蓮が繁栄し、蓮たちは夏に向け花のつぼみを伸ばしていた。太陽は西に沈み、空は緋色に染まっている。ひとりの女が蓮池の縁に立ち、枯れた蓮の葉を抱いて、空を見上げている。しかし私は彼女が人であることを疑った。
私の愛しい太陽よ、あなたは去りました。
私の愛しい蓮よ、あなたは去りました。
私をひとり残して、真理を知らせずして。
完璧な朗唱であった。完璧な舞踏であった。全ては輝いていた(*)。私の心は強烈な感動(Rasa)に襲われ、涙が溢れ出し、総毛立ち、四肢はびりびりとしびれた。
*輝いていた 「良い劇の筋の要素は36通りあります...二重の意味を区別する目的で、よく知られている意味とともにあまり知られていない意味が呼び出される場合、それは輝き(śobhā)と呼ばれます。これが良い劇の3番目の要素、輝き(Śobhā)です」
ibid. XVII, 8
コハラ「パールヴァティ...」
私は意図せずしてそうつぶやき、ひざまずいた。女は舞踏の中で振り向き、私に気づいた。
スンダリー「どなたですの?」
コハラ「私は俳優のコハラです。カリンガから移送されてきました。盗み見ていたのではありません。私は父を誤って非難し、罪の意識から逃れようと走っているうちに、意図することなくここへ来たのです」
スンダリー「そうでしたの、それは悲しいことでした。私はスンダリーと申します」
私たちは互いに慎ましい仕方で合掌を交わした。名を聞いたことで、私はようやく彼女が人間だと信じた。カリンガ王女、スンダリー姫がパータリプトラに移送されたことは聞いていたのである。
コハラ「王女様、はばかりながら申し上げます。素晴らしい朗唱でした。素晴らしい舞踏でした」
スンダリー「私の友コハラさん、確かに私はカリンガの王女です。でもどうかあなたの友スンダリーとお呼びくださいまし」
コハラ「では私の友、スンダリーさん。私は演劇人ですからわかります。あなたはほとばしる情熱をお持ちです。それが私に強烈な感動(Rasa)を惹き起こしました。教えてください。あなたのその情熱はどのようにして形成されたのですか? 何があなたをそのような美に導いたのですか?」
スンダリー「私の友、コハラさん。あなたには全てお話しします。トーシャリで私の父と兄はマガダ軍と戦い、討ち死にしました。最初に父が、次に兄が。父と兄は亡くなる間際に、私に同じ詩を唱えられたのです」
愛しいスンダリーよ
遠くを見るな 近くを見るな 内を見よ
憎しみは憎しみによっては鎮まらない
憎まないことによって鎮まる
私たちはかつて命の始祖であった
私たちは祖先の労苦の結晶である
私たちはひとつである
ひとつになって輪を回す
賢い者はそれを理解するであろう
スンダリー「遠くとは何でしょう? 近くとは何でしょう? 内とは何でしょう? 命の始祖とは何でしょう? 輪とは何でしょう? 非暴力の誓いを忘れたのではありません。でも父と兄、カリンガの人々を無慈悲にも殺したマガダが憎い。こんなことが起こる世界が憎い。私は愚かなのです。私にはよくわかりませんでした。パータリプトラに連れてこられてからも、私は悲しみと憎しみから離れることができません。それで私は意図せずしてここへ来て、朗唱し、踊ったのでした」
コハラ「不思議なことです、有り難いことです。私たちにはまったく同じことが起こっています。私の姉と母も亡くなりました。最初に姉が、次に母が。姉が亡くなったときに父が、母が亡くなる間際に母が、あなたのお父様とお兄様と同じ詩を唱えられたのです。そして私もまた、この詩の意味が分からず、悲しみと憎しみから離れることができないのです」
スンダリー「不思議なことです、有り難いことです。あなたと私は心が通じ合っています。私の友コハラさん、約束してください。あなたが答えを、真理を見つけたなら、私に教えてくださると」
コハラ「私の友スンダリーさん、約束します。私が答えを、真理を見つけたなら、必ずあなたにお教えします。私の友スンダリーさん、約束してください。あなたが答えを、真理を見つけたなら、私に教えてくださると」
スンダリー「私の友コハラさん、約束します。私が答えを、真理を見つけたなら、必ずあなたにお教えします」
ウグラ「おい、チャンダーラ。姫様から離れろ」
突然野太い声が轟いた。舞台映えする力強い声である。ひとりの巨躯の男が現れた。
コハラ「私はチャンダーラではありません。俳優です」
ウグラ「似たようなものじゃないか。とにかく姫様から離れるんだ」
私は言われた通り後ずさってスンダリーさんから離れた。
スンダリー「ウグラ、いいのですよ。この方はコハラさん。私の心の友なのです」
ウグラ「何ですって? 心の友?」
ウグラさんは私をまじまじと眺めた。
ウグラ「若旦那、これは失礼しました。私はウグラ、姫様の守役を務めております」
コハラ「それはご苦労様です。コハラと申します」
私たちは慎みある仕方で合掌を交わした。
スプシュカラ「姫様、ここにおられたのですか。あら、こちらの方は?」
もうひとり若い女が現れた。容姿、声、身のこなしには品格が備わっており、美しかった。
スンダリー「私の愛しいスプシュカラ、こちらは私の心の友、コハラさんです。カリンガの俳優でいらっしゃいます」
コハラ「コハラと申します。ご苦労様です」
スプシュカラ「姫様の心の友? それは有り難いことです。私は姫様の従者スプシュカラでございます」
私たちは親しみある挨拶を交わした。
スンダリー「それでスプシュカラ、どうしたのですか」
スプシュカラ「マンダカ様がお呼びです」
カリンガの大臣だったマンダカ卿のことは知っている。スンダリーさんの叔父にあたるはずだ。
スンダリー「わかりました。すぐに参りましょう」
スンダリーさんは私に近づいた。
スンダリー「私の友コハラさん、今日はここでお別れしましょう。ですが必ずまたお会いしましょうね」
コハラ「私の友スンダリーさん、今日はここでお別れします。ですが必ずまたお会いしましょう」
彼らは去り、私はしばらく立ち尽くして、感動(Rasa)を味わっていた(*)。
*感動(Rasa)を味わっていた 「役者のしぐさなどの表現を見ることにより、劇中人物の歓喜、悲しみなどとの同一化が観客に生じます...そういう印象を抱く観客は、5,6日の間、感動を保ち続けます」
Abhinavabhãratì. pp, 35-38
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