エキストラ役の俺(33)が大人気美少女俳優(20)に見染められた理由

田中又雄

第1話

 俳優になりたかった。


「お母さん!僕、大きくなったら絶対映画に出る!」


 無邪気にはしゃいで、そんな風に言っていたのを覚えている。


 小学校の卒アルにも、将来の夢に俳優と書いて、中学校は演劇部で演技を磨き、高校に入ったタイミングで、いろんな事務所に応募も声はかからず。


 専門学校に入り、どんどん自分の演技に磨きをかけるも、結局まともな役をもらえたのは1回で、ほとんどがエキストラだった。


 それから月日が流れ、現在は33歳となり、アルバイトで生計を立てつつ、趣味程度に時々エキストラのバイトをする程度になっていた。


 そんな片手間ではどうにもならないことは分かっていたが、それでも心の奥底では自分の夢を諦めきれずにいた。


 そんなある日、母親が倒れて、そのまま数日後に亡くなってしまった。


 いつまでも夢を追い続けていてはいけない。

そう思い、真面目に就職活動を始め、最後の仕事としてとある話題の映画へのエキストラ参加を最後に、俳優の夢を諦めようと思っていた。


 これが最後だ。

そういう気持ちで映画に挑むことになった。


 ◇12月25日


 今回撮影する映画は原作が人気漫画であり、リアル寄りな話の設定ということもあり、実写映画であるもののかなり期待されていた作品だった。


 それに出演する俳優は、どれも今をときめく若手人気俳優ばかりで、撮影現場にもファンが押し寄せることが予想できた。


 そうして、寒さに凍えながらクリスマスの日に行われる撮影。


 俺はエキストラとして、街を歩く人の1人としての演技を求められた。


 最後の最後がこの仕事か...。

最後くらいはセリフがある役が良かったななんてわがままを心の中で呟きつつ、いつも通り監督の言われるがまま、リハーサルをする。


 そうして、今話題の若手人気美少女俳優が、多数のファンに声援を受けながら現場に入ってくる。


 自分もあんな風にチヤホヤされたかったななんて思っていると、時間が限られていることもあり、すぐに撮影が始まる。


 行き交う通行人Aを演じる。


 これが最後だと思うと、うっかり泣きそうになる。

しかし、最後の最後まで俺は脇役に徹しなければ。


 そう思いながら、主演の美少女俳優【薺 芽衣華】に近くを歩く。


 自然と目がそちらに向かう。

これが人を魅了するっていうことなんだろう。


 俺が一番欲しくて、一番足りない才能。

純粋に羨ましかった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093090900132200


 しかし、逆に諦めるには十分と言えるほどの才能の差を見せつけられ、思わずふっと笑いそうになった。


 その後は特に何もなく撮影が終わり、余ったケータリングを貰い、帰ろうとしていた。


 自販機で適当に温かいものを買おうとしていると、後ろから声をかけられる。


「...あの...すみません。良かったら、私のお兄さん役をやっていただけませんか?」


 振り返るとそこにいたのは薺 芽衣華だった。

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