17話 あの日あの時何を見た?



 見慣れた光景。確かに目の前にある見慣れた光景。何度も見ている見慣れた光景。俺は、またもや12月25日の11時に戻っていた。

「はあ、今度は一体何があったんだ?時を止めていた間に何があった?……とりあえずビスに会いに行こう」

一階にいる父さんにおはようと言って。

「Merry Christmas!言うのが遅れてしまったけど、まあ許してくれ。フリー。フリーとベラにクリスマスプレゼントがあるんだ」

いつもと同じようにベラを起こして。

「あれ!?巨大なケーキが!?たくさん、たくさん……ある。ん?フリー?どうしてケーキになってるの?」


ビスの家に向かう――。


 なんともない普段通りの朝。だが、どことなく不安が心に乗っかっている。ビスの家に向かう途中、チクチクと胸を突き刺さす不安が幾度も襲いかかってくる。何か見逃してないか?何か……。

 早くビスに会いたい一心で俺は畦道を駆け足で急いでいく。けど……何でだろう?どれだけ走ってもビスの家は遠くにあるままだった。

「くそ……早く行かないとダメなのに何で着かないんだよ。こんなに遠かったか!?ビスの家は!!」

走る、走り続ける。だが、一向にビスの家には辿り着けそうにはなかった。どれだけ、早く会いたいと願っても……。

「おいおいおいおい、何を必死こいて汗水垂らしながら走ってるんだい?フリー!」

「……アマデウス!」

「フリーにひとつ言っておきたいことがある。僕は人間を辞めたんだよ〜フリー。僕は永劫の化身になったんだ!だから、君は僕に勝てない!!ははっこれで僕の正義を証明できるね。そして……僕はカエルムと会うんだ――うん、まず君をここで殺す。僕の夢のためだ。致し方がない」

「――まて!アマデウス!」

 美しい銀髪が風に靡く。この男は覚悟を決めたみたいだった。地獄に堕ちる覚悟、愛する妻に必ず会ってみせるという覚悟、そして神に一歩近づく覚悟を。

「やめ――」

 アマデウスは時を止め、ゆっくりとフリーに近づき、鞘から銀色の刀を抜く。そこから一気にフリーの首を跳ね飛ばした。赤い血が空中に漂う。

「もうこれしかない、これしかないんだ、これしか」

 秒針はまたチクタクと動き出した。アマデウスはそのままソルの家に向かって歩いて行く。首が刎ねられ、無惨にも血をどくどくと流す死体に目もくれず――。

「はあ、まったくこの季節は暑さでほんとに嫌になるよ。暑い暑い……汗ばんできちゃった〜。うーん、ここからあいつの家までちょっと遠いし、太陽が照って暑いから時でも止めて移動しようか。うん、そうだなそうしよう〜。なにせ僕は神なんだから!」

「――そうだな……神様なら人間様の願いを聞くのが先だと思うんだが」

「は?」

「はあ……お前は自分をベラの父親だと言っていたな。お前がベラの父親?笑わせるなよ。お前は実の娘も妻も大切に思ってない――腐れ外道なんだよ。早く俺の目の前から消えてくれアマデウス」

「ふん、笑わせるなよ?それは僕のセリフだよ〜。どうやって生き返ったかは知らないけど、ここから僕を殺してみせる?んなことできるわけない。それこそ「笑わせるなよ」だ。生意気な小僧が。カエルムを大切に思ってないなんてどうして言える!?僕はいついかなる時も妻と娘のことを思って生きてきた!!あの日、何もできなかった自分を殺したかった!!何も知らないお前に何が言えるっていうんだよ!」

「死んだ人のために人を殺すことが正義だとは俺は思わない。それは自分勝手なエゴでしかなく、ただただ妻を失った怒りを他人に押し付けてるだけだろうが。そんな勝手な、お前の私利私欲で大切な人を失うなら、俺は何回死のうが今生きている人のためにお前を殺してやる」

「フリー、やっぱりダメだ。君を殺さないと笑顔でカエルムに会えないや」

 今、時は止まる――アマデウスは刀を手に持ち石像のように固まったフリーの体を何回も切り裂いた。何回も何回もどれだけ返り血が真っ白な服に付こうが関係なかった。何度も何度も!!

 ふう、と一息ついて鞘に刀を収める。

 これでフリーは今度こそ死んだ。

 だが、さすがにひとつ疑問に思っていることがアマデウスの中にはあった。何故フリーはさっき生き返ったのかということである。確かにあの時首を刎ねた。なのにどうしてフリーは生き返った?でも……。

 

「……まあいっか――」


 フリーは身体中からブシャッと血飛沫を上げながら地面にぶっ倒れた。さらに、念の為とアマデウスは刀で胸を刺す。だが、刀を抜いた瞬間、フリーの死体は消失し、アマデウスの後ろに現れたのは無傷のフリー・コルウス。

「……!!」

「アマデウス……俺は2回の死で死の核心ってやつを掴んだよ。死の先には何があるのか今の俺にはわかる。これがどういう意味を表しているかわかるか?」

「何だ?何が言いたい?」

「アマデウス・シルウィウス・コリウス――お前に死の記憶をねじ込む」

 ――ドクン、ドクンと心臓が一気に脈打ち始める。

 死の記憶?死?ダメだ……時を止めるのが間に合わない!!


 ドクン……


 アマデウスは死の先を見た。あまりにも無慈悲で残酷でそれでいて切ない――悲しい生命体の結末を。

 その場に倒れ込むアマデウスを見るフリー。風が涼しげに辺りを駆け回る。

「カエルム……。果たしてこんなことが起きていいのか?はははは、はは、ははは……」

「それが現実だ。……ありのままの結末なんだよ」

「そんじゃあ、カエルムも最後には……断罪の化身に」

「そうだな、そうなる。俺たちは醜悪の化身なんだから」

「フリー、醜悪の化身とは一体……」

「……?わからない。何だろう?だめだ一気に鳥核を使い過ぎて頭が痛い」

「俺もだよ〜さっきから脳の処理が追いついていないみたいだ。醜悪の化身?死後……断罪――」

「はあ、とにかく俺もお前も所詮やっていたことはおままごとみたいな小さなことだったてことなんだよ。今、争いあっても最後には奴らしか笑ってない。もう俺はここ最近休めてないし、とっくに限界なんだが……どうやらそういうことらしい」

「フリー1つ聞いていいか?……フリーは何で死なないんだい?」

「うーん、それは俺にもわからない。さっぱりだ」

 アマデウスは呆れたように笑う。太陽が2人を照らす。ゲコゲコと蛙が鳴き出した。


「フリー、みんなを集めてお茶会をしよう――」





 

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