13話 サンタクロースは僕でした
「皆んな、ステージに釘付けさ!今から最高のショーをするんだからー!!」
音楽が鳴り出す、スポットライトは僕だけに集まる――そう、この喜劇の主役は僕なんだ!この僕、シャーデンフロイデが!!……鳴るトランペット、轟くシンバル、愉快で軽快なファンファーレ、全てが僕を祝福し、賛同してくれる。ああ、なんて世界は美しいんだ!僕の手のひらで転がされる奴らのあの絶望と敗北の情けない顔を見るだけで涎が口の中から垂れては止まらない。見るだけで高揚感と幸福感に浸ることができるっ!想像するだけで体が震えるよっ!
「――シャーデンフロイデ!!」
「なんだよ、いきなり大きな声なんか出しちゃって……そんなに僕に再会できたことが嬉しいかい?ビス・クーラヴィースー!そして……面と向かって会うのは初めてだね永劫の化身君?」
「愉悦の化身……シャーデンフロイデ――我と会うのは初めてではないぞ」
「あ、ごめーん!イーオン君!君、影が薄すぎてさー忘れちゃってたよー!はほはほははははははほははははは!」
――愉悦の化身、シャーデンフロイデはケタケタとその場で笑い出した。静寂の中、気味の悪い笑い声だけが響く。
「あーあ……さあ、本題に入ろうビスケット君と永劫君。……突然だけど、僕は君たちを野放しにする気はないんだ。何せ、君たちはこの白髪の男を殺す気だろ?僕が書いた脚本にはそんなこと書いてない。だから、アマデウス・シルウィウス・コリウスを殺すっていうアドリブはやめて欲しいんだ。わかるかな!?そこで、ここは公平に平等にこの場にいる僕以外の全員を殺そうと思う!そして、また12月25日のクリスマスを始めて欲しいと思うんだ。なかなかいい提案だろ?」
「だが、愉悦の化身よ。其方には時間を巻き戻す力は無いはずだ。どうするというのだ」
「秘密さ――」
シャーデンフロイデがそう言うと、一気に体に衝撃が走った。崩れていくファルサの家、俺たちは瓦礫に押し潰される。
「じゃあ――今日の朝にまた会おう!チクタク!」
押し潰される体、崩壊する家、瓦礫と肉塊がぐちゃぐちゃに混ざり合う上で鼻歌を歌う愉悦の化身。彼にはこの光景がどのように映っているのか、誰にも理解できない――常にスポットライトは彼に向いている。
はあはあと荒い呼吸をしながら最悪な目覚めをする。もはやそれ自体、日課のようなものになっていた。カーテンを開けると大きな鴉が俺を見下ろす――見慣れた光景、聞き慣れた会話。
気づけば12月25日の朝に戻っていた。今度は何で……?何で戻ってきた?あいつが首を締め付けてきて、ビスが部屋に来て……わからない、わからない何が何だかよくわからない――俺は溜め息を零す。
いつも通り、一階に行けば新聞を広げた父さんの姿があった。
「Merry Christmas!言うのが遅れてしまったけど、まあ許してくれ。フリー。フリーとベラにクリスマスプレゼントがあるんだ」
「クリスマスプレゼント……」
「ああ、この中に入ってるから」
いつもと変わらない……繰り返すだけだ。ただただ12月25日という最悪のクリスマスを。
2階に上がると今起きたばかりの寝ぼけたベラがいる。特徴的な長い銀髪がぐちゃぐちゃになったベラが鮮やかな桃色の目で見つめてくる幼馴染であり、友人であり、俺の想い人がいる。たった1人だけの。
「あれ!?巨大なケーキが!?たくさん、たくさん……ある。ん?フリー?どうしてケーキになってるの?」
「……寝ぼけすぎだ」
「はっ!なんだもう朝かー。おはよー」
「おはよう。すぐ降りろよ。飯が冷めるぞ」
「わかったー」
大きなあくびをして、体を大きく伸ばすベラ。
見ているだけなのか?フリー・コルウス。今日もまた父さんが家と一緒に潰れて死んで――ファルサとベラとルナも今日殺される。駄目だ……今すぐ俺はビスに会わないと。
「フリー?どうしたの?」
険悪な顔をした俺を見る。
「……逃げろベラ。とにかく逃げろベラ!俺のことはいい!逃げ続けろ!!」
ベラの肩を勢いよく掴んで揺らす。
「……どうしたのフリー。何逃げろって?」
「今すぐにでも遠くの方に逃げろ。冗談なんかじゃない。本気だ。俺のことなんか気にしないでいいから――わかったなベラ」
「待ってよフリー!」
勢いよく駆け出しっていった俺は急いでビスの元へと向かう。畦道を駆け抜けて、燦々とした太陽の影の下俺は走っていく。
ビスに会わないと……。心の中に巣食う不安が俺の行動力を駆り立てた。とにかく何か行動しないと俺の心は壊れてしまうような気がしたのだ。だが、果たしてビスは家にいるのだろうか?もし居なかったら?どうする?不安が心を蝕んでいく。
走っているとついにビスの家の前に着いた。門を開け、玄関の扉を勢いよく叩く。
「おい!ビス!いるか!?」
叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く――手の甲に木の破片が突き刺さり血が滲む。出てくれ出てくれ出てくれよビス・クラヴィス!!
ガチャ……扉は開いた。
「フリーどうしたんや?俺の助けが必要か?大丈夫や!フリーは俺の親友やからな――皆んな助ける!助けられる!助けられる!助けられる!」
「……」
「どうしたんやフリー、ポカンとして……なんかあったんか?話聞くで?」
「なあ……」
「なんや?フリー?」
「――お前が何で此処にいるんだ、サンタクロースのお兄さん」
ああ、本当に理解が出来なかった。声は完全にビスだったのに、扉から出てきたそいつの見た目はあの時ローストターキーをくれたサンタクロースのお兄さんそっくりなんだから。赤と白のサンタクロースの衣装、ビスではない違う何か。
「はは、何でわかった?これが絆ってやつかあ!なあ……フリー?」
そう言うとそいつは口角が異常なほど引き伸ばす。そこにいたのは幸福を届けるサンタクロースではなく愉悦に踊るピエロだった。
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