12話 再会
何が起きたのか全くわからない。わかりたくもない。だが、こんな不思議な感じにも慣れてきた。繰り返されるクリスマス……望むところだ。――今回のクリスマスでは大きな収穫があった。1つ目は、アマデウスが虐殺の犯人だということ。2つ目はビスが何故かファルサやベラが死ぬことを知っているということ。3つ目は俺は「記憶の鳥核」を持っているということ。これだけ新たなことがわかっても、まだわからないことはたくさんある。苦痛は常に俺の心にある。
それにしても、何でビスは……こんなことを――俺はビスにまた会う必要があるようだ。
とりあえず俺はまたいつもと変わらず、12月25日を過ごした。やはり、何回言っても何をしても故郷は潰れた。もう……抗いようがない運命なのかもしれないと思ってしまう。がたがた揺れる車の中で思考を巡らせた。過去過去から過去から過去から過去過去過去。
「……着いたよ、おばあちゃんの家。行こう」
「うん。フリー、行こー」
「ああ」
「ん?フリー、大丈夫?」
「……大丈夫だよ」
「そっか」
俺はいつも通りの景色を見ながら、ファルサの家に向かう。
「ファルサおばあちゃん?いるの?急に来たのは申し訳ないけど……助けてほしいの!」
ガチャ……焦茶色の重厚なドアがゆっくりと開く。
「なんあなんあ。急に押しかけてどうした?」
お馴染みの会話。今回はファルサの長い長い昔話はなかった。前と同じように各自、自分の部屋に入って行く。俺はアマデウスが来る間にファルサの家の中をぶらぶらあてもなく歩いていた。ふと、ある部屋の前に立ち止まる。それは、前のクリスマスでファルサがアマデウスに酷い事をされていたあの部屋だった。
あの忌々しい記憶が心にこびりつく。俺はあの時の記憶を思い出しながら、扉を開けて部屋に入る。部屋の中は意外と広く、物置のような薄暗い雰囲気を纏った様子だった。昼間なのにも関わらずカーテンは閉め切られ、本や新聞、服や段ボールが彼方此方に散乱していた。俺は散らかった物を手に取り、元の場所に置いたり――中身を見たり……目を引くような物がないか適当に物色する。
そんなことをして部屋の奥へと進んで行くとある日記のような物を見つけた。開いて中を見てみるとそこには奴の名前が――。
「不幸鳥」
俺の祖父カルロ・コルウスが昔契約した神のような化け物のような存在。そいつの名前が2ページ全体にびっしりとひらがなで書かれていた。それと、前のページには「以下の文章は、私が私の父親の記憶を元に物語として書き起こしたものである。全て事実で実際にあったことだ」という文章から始まる物語、いや俺の祖父の体験談が書かれている。
「父さんが書いたやつか」
ぺらぺらと古びたノートをめくっていく――俺は背後にいる男に気づかなかった。そう、銀髪のあの男に。
「――何をしてるの〜?」
「!……いや、ただただ暇だったので」
「そっか!――というか、君は休まなきゃ駄目だよ〜。今日はあんな事が起きたんだから」
「……貴方の名前は?」
「アマデウス・シルウィウス・コリウス――ベラ・コリウスの父親だ――」
銀髪や鮮やかな桃色の目がベラと似ていると思ったが、まさかこんなクソ野郎がこんなしょうもない嘘をつくとは。
「そうだよ〜でもそんな事はどうでもいいと思うんだ。そう、僕の目的はベラの保護と君をここで殺すことだから――」
銀髪の男、アマデウス・シルウィウス・コリウスはそう言い俺を勢いよく蹴り飛ばした。声にならない衝撃と痛みが下腹部に走る。
「……っ!!」
おかしい、声が出ない!出そうとしても喉に突っかかってしまう。徐々に俺の首は締め付けられていく……あいつは手を触れずとも首を締めているのだ。
「あ……がぁ」
ポロポロと流れる涙。苦痛に歪む表情。
「変な感じだろ、これが僕の神からもらった祝福なんだ。わざわざ自分の手を使わずに相手を苦しめることができる。便利で助かってるよ〜静かに誰にも気づかれずに死なせる事ができるんだから。声に出して鳥核の力を使う事は出来ないよ――じわじわと君は死んでいくんだ」
駄目なのかもしれない、もう諦めてまた12月25日の11時に戻った方がいいのかもしれない。だんだんと意識が……遠くにいくのがわかる。死んだら戻るのだろうか?死んでしまったらそこで終わりなのだろうか?この薄暗く埃臭い部屋で俺は死ぬのか!?一体全体、どうなんだ――いしきが薄れてはきえてゆく。
「……まて!」
アマデウスは俺の首を絞める事をやめる。この部屋の中にビスが立っていた――。
「君には興味がないよ〜ビス・クラヴィス!!僕の幸せで充実した時間を邪魔しないでくれ」
「何が幸せや、そんなことをして何になる?何回繰り返せば気が済む!?今すぐやめろ!!」
「ああ、何回でもやりたいよ〜ビス!……というか、いい加減この部屋から出て行ってくれないかな〜!?じゃないと君は耐え難い苦痛を味わうことになるよ〜?」
「――望むところや」
「ふん……いいさ、かかってこい」
「……だめ……ビス」
「大丈夫やフリー。安心しろ、こいつのやばさは俺が1番わかってるから」
「――チクタク」
時間は止まる――アマデウスもフリーもベラもファルサも何もかもが冷たい石像のように動かなくなった。
「嗚呼、時間を止めるのは疲れると言ったであろう。ビスよ」
「すまんな、でもこればっかりは仕方ないんや。イーオン、俺の願いを聞いてくれるか?」
「御意御意」
「アマデウスを殺してくれ――」
ビスがそう言うと、永劫の化身イーオンはアマデウスを睨みつける。時間が停止している、エントロピーが完全に変わらないこの状況では例えアマデウス・シルウィウス・コリウスだとしてもなすすべはない。全て永劫の化身、まさに神に等しい存在の前では人間は無力なのだ。そう、人間は――。
突然……どこからだろう?陽気な音楽と音声が流れ出した。トランペットや太鼓の音……それは俺たちに向けたファンファーレだった。
「あーあ、聞こえますかー!?まあ、聞こえてるよね!!ビス・クラヴィス君と永劫の化身のイーオン君、君たちに言ってるんだよー?君たちは今、大罪を犯しました!!時間を勝手に止めたよね!それ、罪だから。よくないことをしたんだよ、君たちは。……ところで、この地球には何億人の人が居ると思う?ビスケット君とマイナスイオンくーん??……そりゃあ何十億もいるだろうって?正解正解ー!!だからこそ……わかるだろ?今、君たちは何十億人の時間を奪ってるんだ!!そんなの自分勝手で自己中心的、不公平でよくないだろ?よーく考えるんだ。1分に10億かけてみろよ?10億分だ。頭が小さい低俗な君たちはわかったかなー?ことの重大さにね!だーかーら、僕が今からその部屋に向かうから待っててね!僕が私刑をしてあげるよ!?わっくわくー!!」
愉快でやかましい声――わかってしまう。わかってしまうんだ、この声の持ち主が誰なのかということを。
一気に心臓がバクバクと暴れ出す。嫌だ嫌だと奴と会うことを俺の体は拒絶していた。奴と会うのは初めてではない、あの憎たらしい顔、あの狂気に満ちた笑い声、恐怖と絶望を具現化したような見た目。あいつが来る、あいつが!あいつが!!
「……忘れもしない、あいつの名前。俺の親友を闇に引きずり込み、世界を崩壊に導いた化身……鳥核を作った張本人」
「我はあいつの事は好かん。腹が立つ生意気な同族」
「――やあ、元気かい?イーオン?」
奴は天井からぶら下がりこちらをじっと見ていた。にこっと口角が異常なほどに引き伸ばされていく。
「僕の名前はシャーデンフロイデ!!!……神様さ!」
(覚えてる?)
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