第八章 告白の準備

 映画が終わり、映画館を出た二人は近くのカフェに向かった。結衣は映画の感想を楽しそうに話していた。


「さっきのシーン、すごく感動しなかった?ああいう冒険の話、大好きなんだ。」結衣が目を輝かせながら話す。


「うん、僕もあのシーン良かったと思う。主人公が最後に勇気を振り絞るところなんて、すごく印象的だったよ。」拓真も共感しながら答えた。


 カフェに到着し、席について注文を終えた頃、拓真の胸は再び高鳴り始めた。今日こそ、自分の気持ちを伝えようと決めていたのだ。


「結衣さん、今日一緒に映画を見れて本当に良かった。」拓真は少し緊張した声で切り出した。


「私も楽しかったよ。誘ってくれてありがとう。」結衣が柔らかい笑顔を向ける。


 その笑顔を見た瞬間、拓真の中で迷いが吹き飛んだ。自分の気持ちを抑え込むことはできない、と彼は確信した。


「結衣さん、実は、話したいことがあるんだ。」拓真は深く息を吸い込み、真剣な表情で続けた。


「えっ?どうしたの?」結衣は少し驚いたように拓真を見つめた。


「いや、まだ何でもない。ただ、ちょっと外を歩きながら話したいことがあるんだ。」拓真は一旦引いて、カフェを出てから話すことにした。


 二人はカフェを出て、近くの公園へ向かった。春の柔らかな風が吹き抜ける中、桜の花びらが舞い落ちていた。その美しい光景が、拓真の心を少しだけ落ち着かせた。


「結衣さん、少しだけこの桜の木の下で話を聞いてもらってもいいかな?」拓真が小さな声で言うと、結衣は頷き、「もちろんだよ。」と答えた。


 その瞬間、拓真はついに覚悟を決めた。この場所で、自分の気持ちを彼女に伝える。それが、今日の最大の目標だった。心臓の鼓動が大きく響く中、拓真は一歩前に進む準備を整えていた。


 桜の木の下で立ち止まった二人。春の柔らかな風が心地よく、花びらがひらひらと舞い落ちていた。結衣はその美しい景色に目を奪われながら、ふと拓真を見た。


「ねえ、拓真くん。なんだか今日は特別な日みたいだね。」結衣が微笑みながら言った。


 拓真はその言葉に少し驚いた。「どうしてそう思うの?」


「なんとなく、直感かな。桜がこんなに綺麗で、空気も穏やかで。こういう日は、何か大事なことが起きる気がするんだよね。」結衣が目を細めて、遠くを見つめる。


 その言葉を聞いて、拓真の心臓はさらに速く鼓動し始めた。結衣も、何かを感じ取っているのかもしれない。彼女の笑顔が、この瞬間をさらに特別なものにしている。


「実は、僕もそんな気がしてるんだ。」拓真は少し照れくさそうに、けれど真剣な声で答えた。


「そっか。じゃあ、拓真くんの“特別なこと”って何だろう?」結衣が首をかしげて尋ねる。


 拓真は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに笑顔を作って答えた。「もう少しだけ待って。ちゃんと伝えたいことがあるから。」


 結衣は不思議そうにしながらも、「わかった。じゃあ、ゆっくり待つね。」と優しく答えた。


 二人の間には、静かな緊張感が漂い始めた。結衣は何かを予感しているようでありながら、その内容をあえて追及しようとしなかった。その姿勢が、拓真にとって少しの安心感を与えた。


 桜の木の下で風が吹き、花びらが舞い踊る中、拓真はついに決断の時を迎えようとしていた。この瞬間が、二人の関係にとってどれほど大切なものになるのかを、二人とも薄々感じ取っていたのだ。

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