第五章 自問自答
週末が近づくにつれ、拓真は自分の心の中で揺れる感情にますます向き合うようになった。結衣と一緒に過ごす時間が増えるたびに、自分の中で彼女への思いが膨らんでいくのを感じていた。
放課後、拓真は一人で校庭のベンチに座り、空を見上げた。夕焼けに染まった空は美しく、どこか心を落ち着けてくれるようだった。彼は頭の中で結衣の姿を思い浮かべていた。
「これって、本当に恋なんだろうか?」拓真は小さな声で自分に問いかけた。
結衣の笑顔、彼女の声、彼女のさりげない優しさ。そのすべてが、ただの友達に感じる以上のものだった。だが、それを口に出す勇気はまだ持てなかった。
そのとき、クラスの友人である大輔がベンチにやってきた。「おい、拓真。こんなところで何してるんだ?」
拓真は少し驚きながら、「ああ、大輔。ちょっと考え事してただけ。」と答えた。
「お前、最近ずっとぼんやりしてるけど、もしかして、誰か好きな人でもいるのか?」大輔がからかうように言った。
拓真は一瞬、言葉を詰まらせたが、意を決して言った。「いるかもしれない。でも、それが本当に好きってことなのか、自分でもまだよくわからないんだ。」
大輔は少し真面目な表情になり、「そういうのは、考えるよりも感じるもんだぞ。好きなら、きっと心が自然とそう思わせてくれる。」と答えた。
その言葉に、拓真は少しだけ自信を持てた気がした。彼の心の中ではっきりしなかった感情が、少しずつ形を持ち始めていた。
「ありがとう、大輔。ちょっとスッキリした気がするよ。」拓真が笑顔で言うと、大輔は「なんだ、いつでも相談しろよな!」と言って去っていった。
その日の帰り道、拓真は結衣への気持ちをもう一度考えた。そして、心の中でそっとつぶやいた。
「僕は、やっぱり結衣さんが好きなんだ。」
その気持ちは、少しずつ、しかし確実に拓真の心の中で確固たるものになっていった。彼は次に何をすべきかを考えながら、家路を急いだ。
翌日の昼休み、拓真はクラスの友人たちと教室の後ろで雑談をしていた。その中には大輔もいて、何かを企んでいるようなニヤニヤした顔で拓真に話しかけてきた。
「おい、拓真。昨日の続きだけどさ、桜井さんのこと、本気で好きなんだろ?」大輔が遠慮なく切り出した。
拓真は顔を赤くしながら、「ちょ、ちょっと!そんな大声で言わないでよ!」と慌てて答えた。
それを見た他の友人たちも興味津々で話に加わってきた。「え?桜井さん?マジかよ、拓真!」「それってもう告白するレベルの話じゃない?」
「いや、まだ告白とかは考えてないんだ。ただ、最近、自分でも気持ちがよくわからなくて。」拓真は正直に打ち明けた。
すると、大輔が腕を組んで少し考え込むように言った。「拓真、お前、桜井さんとよく話してるよな?向こうもお前のこと、少なくとも嫌いじゃないはずだぜ。」
「そうだよ。桜井さん、よく拓真と一緒にいるし、笑ってるじゃん。」別の友人が同調した。
拓真は少し照れながらも、「たしかに、結衣さんとはよく話すし、楽しい時間を過ごせてる。でも、友達としてなのか、それ以上なのか。」と迷いを吐露した。
その言葉に、大輔が真剣な顔で答えた。「拓真、恋愛ってのは考えすぎても始まらないんだよ。まずは自分の気持ちを信じてみろ。で、行動に移してみることだ。」
他の友人たちもうなずきながら、「そうそう、まずは気軽に誘ってみたらいいんじゃない?次の週末とか、二人で出かけるとかさ。」と助言をした。
拓真はその言葉を聞きながら、少しずつ心を決めていった。「そうだね。とりあえず、もっと自然に結衣さんと時間を過ごして、自分の気持ちを確かめてみるよ。」
友人たちの励ましを受け、拓真の中に少しずつ勇気が芽生え始めていた。そして彼は、自分の気持ちを伝えるその日のために準備を始めようと決意するのだった。
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