データ系エレクトロニクスお嬢様「殿下、ご覧くださいまし!これは先ほどわたくしのホームページで行った国民調査の結果ですわ!」

ケイシー803

データ系エレクトロニクスお嬢様「殿下、ご覧くださいまし!これは先ほどわたくしのホームページで行った国民調査の結果ですわ!」

これはある日の王国貴族が集まる場での出来事。


「エレス・データ・クトロニク侯爵令嬢!貴様の度重なる悪行は許しがたい!貴様の生家に免じて大目に見ていたのもこれまでだ!」


王太子であるスファル・データ・サッパ・リデッサがそのように糾弾する。

スファルにそう遠くない距離では、メリー・データ・ワカラ・ナインという王太子の愛人が大衆に隠れて不敵な笑みを浮かべている。

貴族の大衆は突然王太子が話し始めたため、様子を見るものばかり。


「貴様を不敬罪で逮捕し、当然婚約は破談だ!その他の余罪についても調べさせてもらう!」


そう吐き捨てるスファルに、エレスは待ったをかける。


「お待ちくださいまし、殿下!確かにわたくしは様々な罪を犯しましたが、殿下はわたくしのことを逮捕できるはずもありませんわ!」


その言葉に、普段からエレスに振り回されてきたスファルは動揺する。


「な、なぜだ!貴様の新聞にははっきりと私を侮辱する内容が書かれているだろう!」


スファルの発言を受けてもエレスの自信たっぷりの表情は崩れず、そのまま口を開いた。


「それは殿下の頭がよろしくないからですわ!」


「な、やはりそうだろう!お前は」


「いいえ」


エレスはスファルの言葉を遮り、


「殿下、ご覧くださいまし!これは先ほどわたくしのホームページで行った国民調査の結果ですわ!」


と言って、魔導プロジェクターを起動する。


「な、なんだ!国民調査だと!?」


王城ホールの壁に映し出されたそれは、


『第30回 国民印象調査 

今回の国民調査は、王太子でありわたくしの婚約者でもある、スファル・データ・サッパ・リデッサ殿下に対する印象調査ですわ!この国民調査も30回を迎え、この国民調査、なんと全国民の96%の方々に参加していただいていますわ!まことにありがたい限りですわね!

さて、それでは今回の結果を見ていきますわよ!

今回行ったのは自由記述式の調査で、国民の方々の素直な意見が述べられていますわ!

中でも目立ったのは……』


スファルに対する印象がまとめられた、国民印象調査だった。


「この調査によれば、近年のデジタル化に殿下は全くついていけておらず、それに加えてそのデジタル化に否定的である、というのが主な国民の印象ですわ!」


エレスの言葉に、スファルは動揺しながらも言葉を発する。


「な、何がいけないというんだ!」


「殿下、まだわからないんですの?国民の89%はこうも述べておりますわ!」


エレスはそう発言して、ホームページをスクロールし、あるグラフを見せる。


『殿下にしてほしいことランキング


1位:エレスに政治を任せる

30.4%□□□□□□□


2位:デジタル化の容認・デジタル技術への理解を深める

23.2%□□□□□


3位:愛人との関係を切る

19.3%□□□』


「政治を、任せる……!?」


「関係を切るですって……!?」


スファルは1位の文字に絶句し、今まで大衆に隠れて不敵な笑みを浮かべて黙っていたエリーも、3位の文字に驚きと焦りを隠せない様子。


「殿下、通常こういった自由記述式の調査は意見がバラバラになり、一つの順位が高いパーセンテージを持つことはないのですわ。しかし、今回の調査では3位までの合計パーセンテージが72.9%と非常に高く、国民の意見はそれだけまとまりを持っているということがわかるのですわ!つまり、少なくとも国民の72.9%が今の殿下に不満を持っているのですわ!」


「お、お待ちくださいまし!」


大衆の中から一歩踏み出して言葉を発したその人物は、愛人エリーだった。


「わ、わたし、何が何だかわからないのですけれど、どうしてわたしがスフとの関係を切ることを望まれているのですか!?だ、だってわたし、わたし公妾ですわよ?このようなこと言いにくいですが、未来の王の愛人なのですよ!?このままスフが国王になれば、私は公妾になるのですよ!?」


エリーが出てきたことに、エレスは微妙な顔をする。


「あー、それはですわね。調査にはエリーさんに関する意見も多くみられまして、その多くが殿下同様、デジタル化への否定的な態度への、まあ非難でして、こう、何と言いますか、まあ率直に言ってしまえば、『あの女が殿下のそばにいるといつまでたっても殿下が学ばない』やら、もっと言えば『デジタルに関することだけバカ』など……その、これは国民調査ですので身分の高くない方々からの意見も届きまして、少々お口が悪いのはご了承いただけると幸いですわ。それでまあ、少々あなたについて調べたのですが……愛人というのも、難しい立ち位置なのだなと、学ばせてー……いただきましたわ。」


言ってしまえば、エレスはエリーのことを少し、いやかなりかわいそうに思っていた。

スファルに関しては天性のバカ、すべてのことがからっきしだと判明しているため何の遠慮もないが、エリーは王太子の愛人、曲がりなりにも王宮まで上り詰めた教養のある女性だ。

なのになぜ、データに関してだけからっきしなのか。

エレスの分析の結果、わかったことがある。

彼女に関しては、環境と立場が悪かった。

彼女はまだデジタル化の行き届いていない小さな町の、劇場の踊り子のもとに生まれた。

まだデジタルの波が王都や大都市でしか起こっていなかったこともあり、そこには古い価値観とのどかな雰囲気があった。

エリーの母は公妾を目指していたが、19歳で客と恋に落ち、エリーを生み、踊り子を引退した。

エリーはそんな母から夢を託され、公妾にさせるための英才教育を受けたが、それにはデジタル技術は含まれなかった。

そうしてエリーは、デジタルという概念に触れることなく育った。

それだけなら、まだ彼女にもデジタル技術が理解できたかもしれない。

しかし、とある貴族と結婚した後、彼女は既婚女性として公妾へのスタートラインに立った。

そして、彼女はよりにもよって天性のバカの寵愛を受けた。

すべてがからっきしで、何も学ぼうとしないスファルと王宮で過ごし、母の教育から離れたエリーは、妙な自信をつけてしまった。

だって、王太子の愛人なのだ。

今までにない待遇を受けて、王子様と楽しくお話して、こんな生活ができるわたしはもう十分に頑張った、これからも今のままでやっていけるのだと思ってもいいではないか!その王子様だって、こんなにも学んでいないのだから!

……というのが、エレスが使用人らから聞いたエリーのありようだ。

つまり、エリーは学ばないということを選んだ。

わからないことをわからないままにしたエリーは、いつしかわからないものを否定するようになった。

こう言ってしまえばエリー自身にに問題があるように聞こえるが、エレスは環境と立場がよろしくないのだと考えていた。

ああ、殿下の寵愛を受けたばかりに、なぜ他の王子にしなかったのか。

国民からはエリーが悪いという意見も多いが、こんな王太子を見習わなければ、こうはならなかったのに。

まあ、エレスのその感情がエリーにとって何の意味も持たないことは、エレスもわかっている。


エレスは先ほどの発言から言葉を続ける。


「そういうわけで、エリーさんについても、あまりよろしいとは言えない印象でして、とにかく、あなたがたにわたくしを糾弾する権限はないのですわ!」


その言葉を聞いたスファルは、珍しく気づいたことがある様子。


「お、おい待て!それだけでは貴様の不敬罪は変わらないだろう!王族への侮辱をしたことは他の貴族も許さないはずだ!」


スファルの言葉に、エレスは呆れかえる。


「殿下、わたくしの国民調査の参加率を見て、何も思わなかったんですの?96%の国民が、わたくしの調査に参加しているのですよ?」


「な、それが何だというんだ!」


「スフ……わからないの!?わたしでもわかるというのに!」


「ふむ。やはり教養は力ですわね。エリーさんはお分かりのご様子で。そうですわ、今回で30回を迎える国民調査の参加率は、わたくしの人気があってこそですわ!王族に貴族、平民や貧しい方々まで、わたくしを支持してくださる方々が大半ですのよ!まあ、わたくしのことを嫌いな方々も少々参加されていますが、調査の記述内容を見ればそのような方はごく一部だとわかりますし、参加されていない方々こそ真にわたくしを嫌っていたり、わたくしに興味がない方々ということですわ~!まあ、そんな方々もごく少数の4%!わたくしの人気がわかるというものですわね!」


そう説明されたスファルだが、不敬罪による逮捕を行えない理由は思いつかず、首をかしげるどころか限界までひねっていた。


「あら、まだわからないのですか……。つまり、デジタル化に否定的で印象の悪い殿下が、デジタル化を推進していて印象のいいわたくしを逮捕するなどとのたまえば、あなたの印象は地の底の底を突き抜けて地獄に落ち、そうなれば国民によって革命が起き、エリーさんともども処刑されてしまうのですわ!」


そこまで聞けば、スファルにもわかった様子。

スファルの国民からの印象はよろしくなく、エレスの国民からの印象はいい。

スファルがエレスを逮捕すると、エレスの大派閥が丸ごとスファルに襲い掛かる。

行きつく先は革命。


「この状況を全国民にリアルタイム配信しようかとも考えたのですが、それこそ革命が起きてしまうのでやめましたわ!ありがたく思うことですわね!」


「ねえ、スフ!革命を起こさないために、発言を撤回して。わたし、死にたくないわ!……あなたと一緒にまだ生きていたい。」


極めつけに、エリーの言葉がスファルに響く。


「く……!わかっ、た。先ほどの発言を、撤回する。」


「ありがとうございます、殿下。英断ですわ!」


スファルの苦々しい顔を、エレスはにこやかに見つめる。


「ありがとう、ありがとう……!」


エリーはほっとした様子で自身の体を抱きしめている。

そこでスファルを抱きしめないあたり、やはりエリーは自分の立場の方を愛しているのだなとエレスは思った。


後日、国王はこの出来事に関して箝口令を敷き、ことを知っているすべての貴族がそれを守ったという。


「やはり、エレスを妃に据えて正解だったな……。」


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

データ系エレクトロニクスお嬢様「殿下、ご覧くださいまし!これは先ほどわたくしのホームページで行った国民調査の結果ですわ!」 ケイシー803 @kacey_8000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ