第2話「雪魔人との湯けむり対決!」





「温泉使いを探しに来たはいいけど...寒すぎるよ!」


雪の舞う山道で、桃香は震える体を抱きしめながら叫んだ。

美波館の温かい大浴場が、今はとても懐かしい。


「噂じゃ、この奥に神秘の温泉があるって...」

「あ、みどりちゃん、待って!」


獣人の少女・みどりの長い尻尾が、突然逆立った。

「桃香ちゃん、危ない!」


次の瞬間、凍てつく冷気が辺りを包み込む。

目の前には、青白い体をした雪魔人が立っていた。


「フッフッフ...温泉使いを待っていたぞ」

「あなたが、この地域の温泉を凍らせている犯人...!」


雪魔人は高らかに笑う。

「温泉なんて邪魔なだけだ。全て凍らせてしまえば、私の力が...」


「温泉を侮辱するなんて...許せません!」

桃香が叫ぶが、既に体が動かない。

周囲の地面は凍りつき、足が氷漬けになっている。


「く...寒すぎて...」

「フッフッフ...私の冷気で動けなくなったようだな」


「桃香ちゃん!あそこに温泉が!」


みどりが指さす方向には、かすかに湯気の立ち上る池が見えた。

しかし、凍りついた足では...


その時、桃香は持っていた柄杓に気づく。

美波館から持ってきた柄杓には、まだ少量の温泉が...!


「これしかない!」

桃香は柄杓の温泉を自分に振りかけた。


「待て、その柄杓は!」


雪魔人の声も聞こえない。

桃香の意識は既に温泉モードに突入していた。


「(声が変わって)なんという素晴らしい泉質...硫黄の香りが漂う中にも、わずかに感じる重炭酸の気配。そして何より、この温度!まるで天上の楽園を地上に映し出したかのような透明度と、柔らかに立ち昇る湯気の舞踏...」


「なっ、なにを言っているんだ?」

雪魔人は困惑気味だ。


「この温泉、火山性の熱と地下水が織りなす絶妙なハーモニーによって生まれた、極上の名湯!湧出温度は驚異の98度!溶存物質総計はなんと...」


みどりは呆れ顔で眺めている。

「また始まった...」


「そして、この温泉のパワーは...雪魔人ごときでは太刀打ちできないほどの...」


「おい!人の話を聞け!」

雪魔人が怒鳴るが、もう遅い。


「極上の温泉パワー!」


桃香の体が眩い光に包まれる。

その瞬間、周囲の氷が溶け始めた。


「なっ、私の氷が...」

「温泉の力をなめないでください」


桃香は立ち上がり、柄杓を構える。

その姿は、まるで温泉の巫女のようだった。


「覚悟はいいですか?温泉掛け湯アタック!」

「うわあぁぁぁ!熱いーっ!」


見事、雪魔人を撃退した桃香。

しかし—


「そしてこの湯の素晴らしい点は、溶存物質が極めて豊富なことにあり、カルシウムイオンとマグネシウムイオンの比率が絶妙で...」


「桃香ちゃん、もう勝負は終わってますよ...」


その日も異世界のどこかで、温泉ソムリエの解説が響き渡るのだった。


(第2話 完)

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「異世界温泉ソムリエ」 ~転生したら最強の温泉評価チートを手に入れました~ ソコニ @mi33x

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