「異世界温泉ソムリエ」 ~転生したら最強の温泉評価チートを手に入れました~
ソコニ
第1話 「転生したら温泉ソムリエになっていた件」
「もう一度確認するわよ、桃香。温泉掃除の基本は?」
朝もやの立ち込める大浴場で、美波桃香は母の問いかけに答える。
「はい!まずはかけ湯から、床は奥から手前に、最後に縁を...って、あれ?」
その時、不思議な光が目に入った。いつもは安定した乳白色の湯面が、今朝は妙に輝いている。
「なんかキラキラしてる...」
近づいて覗き込んだ瞬間、桃香の足が滑った。老舗旅館「美波館」に代々伝わる桐の柄杓が宙を舞う。
「きゃっ!」
ばしゃん!という大きな水音と共に、意識が遠のいていく。
最後に聞こえたのは、母の慌てた声だった。
「桃香!しっかりして!」
***
「......ここは?」
目を覚ました桃香を待っていたのは、見たこともない異世界の風景だった。
周囲には奇妙な形の木々が生え、空には二つの月が浮かんでいる。そして何より驚いたのは、至る所から湯気が立ち上っていることだった。
「あの、すみません」
振り返ると、尻尾の生えた獣人の少女が立っていた。
緑色の髪を揺らし、不思議そうに桃香を見つめている。
「私、星宮みどりと申します。あなたが噂の温泉使いですか?」
「は?温泉...使い?」
困惑する桃香に、みどりは続けた。
「この世界では、温泉の力を引き出せる人のことをそう呼ぶんです。今朝、神託があって...」
その時、近くの湯気から妙な気配を感じた桃香。
思わず近づいて湯に手を入れてみる。
すると—
「(声が一変して)ふむ...これは驚愕の泉質!アルカリ性単純温泉でありながら、微量の硫黄を含有。pHは驚くべきことに8.2という絶妙なバランス。しかもこの温度...まさに至高の...」
「え、えっと...大丈夫ですか?」
みどりが心配そうに覗き込む。
「あ、ごめんなさい。気がついたら温泉の解説してました」
我に返った桃香は頬を赤らめる。
手に持っていた柄杓を見ると、なんと美波館のものだった。
転落時に一緒に持ってきてしまったらしい。
「すごい!やっぱりあなたが温泉使いだ!」
みどりが目を輝かせる。
「実は今、この世界の温泉が危機に瀕していて...」
こうして桃香の異世界温泉道が始まった。
女子高生の温泉旅館後継者が、異世界で温泉の力を極めていく—
そして、いつか必ず美波館に戻るその日まで。
(第1話 完)
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