2 温故知新屋 祖母の贈り物

「おお、来たか!元気そうだなあ。まあ、座れ。コーヒーでいいな?」

 あたしが店のソファーに座る間もなく、あたしの好みなんぞお構いなしに、苦いコーヒーをたっぷり満たした、でかいカップがテーブルに載った。あたしの車が、温故知新屋の駐車に近づく時から用意していた代物だ。


「大叔父さん、渡したい物って何だ?砂糖か牛乳はないんか?」

 あたしは、苦いコーヒーに牛乳を入れて飲みたかった。

「ああ、そう言うと思って、用意しといたさ・・・」

 大叔父さんは店の冷蔵庫から牛乳パックを出してテーブルに置いた。

 あたしは、でかいカップのコーヒーに、牛乳パックからたっぷり牛乳を注いで口へ運び、一口飲んで大叔父さんを見た。大叔父さんはあたしを見て笑っている。

「何だよ。こんな飲み方すると変か?」


「いや、大っきくなったと思ってな・・・。

 おお、これは祖母ちゃんからの預かりモンだ。時期が来たら渡してくれと頼まれててな・・・」

 大叔父さんは冷蔵庫から直径20㎝ほどの金属の円盤と、ペーパーナイフのような物と、碧の石を取り出してテーブルに置いた。円盤は2㎝程の厚みがある。ペーパーナイフのような物は小剣だ。碧の石は、翡翠のペンダントだ。


「三種の神器みてえだな・・・」

「知ってたか・・・。

『時期が来たら、これを渡して、説明してやれ』

 と言われててな。

 スーパー手伝って、自分の能力が他人と違うのに、気づいただろう?」


「まあな。だけど、兄の能力は人並み以上だぞ!」

「ヤッちゃんは、その上を行くだろう?違うか?」

「うん、あんまり、何でもできるのを人に見せるもんじゃねえな。手伝った挙句、兄に妬まれて、たまったもんじゃねえ」


「これからは、他人より優れた能力がもっと増える。

 だから祖母ちゃんはこれをヤッちゃんに渡したかったんだ・・・」

 大叔父さんは、祖母ちゃんと祖父ちゃんがあたしに残した、特別な事を話した。祖母ちゃんと祖父ちゃんは何年か前に他界して、今は、二人の家に大叔父さんが住んでる。



 ところでこの円盤、最初は金属と思ったが、本当に金属か?はっきりそうとは言えねえぞ・・・。あたしは直径20㎝ほどの金属の円盤を見つめた。塵一つ付いてない。

 「いつも、磨いてたんだね」

「磨いていない、埃を払うだけだ」

 と大叔父さんは言った。

「いわくつきの円盤か?」


 あたしの問いに大叔父さんが言う。

「最近、変わった事は?」

「べつに、なんも無い。おまけに、金も無い」

「そういう事でじゃなくて、以前言ってた、

『人の思ってる事が聞こえる』とか、

『ヤッちゃんの思ってる事が、相手に伝わる』

 なんてことが、今も有るか?」


「ああ、あるよ。

 ゆんべ、ミヤチカに誘われて、ワリカンで飲んだのに、あたしが全額払ってた。だから今朝、『半分払え!』って念じたら、『明日、払う』ってメールが来た。ついでだから、

『法人契約、一つあたしにまわなな!そしたら、一ヶ月、週5で飯食わせてヤンぞ!』

 って念じたら、

「報奨金100のを一つ、ヒロにまわすね。そしたら金欠、解消するよね?月曜から、法人提案に同行してね!」

 とメールが来た。『思えば通ず』だね!」


「本当の事を言うと、ちょっと違うな。

 念じたから、そうなったんじゃなくって、ヤッちゃんがそう思って、相手がヤッちゃんの意志に従ったのさ。こんな風に・・・・」


 大叔父さんがそう言った瞬間、『右手を上げてみな・・・』という声が聞こえたような気がして、あたしの右手が、横断歩道を渡ろうとしている小学生のように、勝手に上がった。なんじゃ、こりゃあ!

「なんだよっ!何をしたのさ?」


「ヤッちゃんが『金払え』と念じたように、『手を上げろって』と念じたのさ。ヤッちゃんには、そうした能力ができつつあるんだ」

「腕をさげてくれ~」

「おお、すまないい・・・。それでな、この円盤は、そういう思念を映すタブレットじゃよ」


「まじかよ?あたしの、この疑問が映ってんのか?」

 あたしは思わず円盤を手に取った。何の変哲もない、ただの金属円盤だ

「思ってる事を、このタブレットで見れるんか?」


「ああ、見れるぞ」

「思ってる事なら、何でも見れるんか?」

「ああ、見れるぞ」

「嘘だろう!?」

「いや、ほんとだ。こう持って・・・」

 大叔父さんは円盤を開いた。そして、モニターを見つめた。

「自分の思いを知りたい、と念じればいい・・・。

 そしたら、ほら映ったぞ!」


 あたしは嘘だと思ったが、モニターに、黒色のタクシーから婚礼衣装に身を包んだ花嫁が降りた。昔ながらの嫁入り風景だった。そして、

「あたしの言う事を信じてね」

 と女の声が聞こえだ。

 誰?と聞き返そうとしたが、この店には大叔父さんとあたしだけだ。

 あたしは念じた・・・。


『だれ?』

『あたしは鏡に映ってる』

『鏡の精か?神か?悪霊か?』

『あたしはこの鏡の持主だったの』

『まじかよ!おとぎ話みたいじゃねえか』

『まじよ。とにかく持って帰りなさい。母さんはこの三種を知らないから、黙っているのよ。話すと、祖母ちゃんの思い込みに洗脳されたねって言うからね。後で説明するね』


『了解。大叔父さんの思いは何?』

『世直し。それから、ヤッちゃんの子供の顔をみたいのよ』

『なんてこった!世直しと子供の関連性がねえぞ」

『大叔父さんに訊くといいわ。それより、ヤッちゃんのやりたい事を念じなさい。公序良俗に反する事を撲滅するのよ』


『何で、あたしのそんな事を知ってるんだ?』

『だって、ヤッちゃんは私の娘だよ。以心伝心だよ』

『やっぱりそうなるように、細工したな?』

『さあ、どうかしら・・・』

『ずっとあたしの傍に居ただろう?』

『霊じゃ無いけど、まあ、そうね。がんばなさいね。またね』

 祖母ちゃんは消えた。

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スーパー ヒロ ヤッちゃん 牧太 十里 @nayutagai

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