スーパー ヒロ ヤッちゃん

牧太 十里

1 財布の金が無い!

 173 87 60 90 何の数字か想像に任せる。


 先物取引会社に勤めた。

 詐欺紛いの業務をしているとわかり退社。妙な会社なのを、あたしに気づかれ、解雇された感が強い。


 ミヤチカに誘われて保険会社に転職した。

 朝が苦手だ。起きられない。ここでは業績が伸びず、解雇される寸前だ。


 こんな事してたらいつまでも、独りだ。

 家族がいるだろうって?ああ、いるよ。だけど、親はあたしより先に死んじまう。兄は嫁貰って家族から離れてゆく。兄がこの家に居座ったら、あたしは嫁から毛嫌いされる。だって、稼ぎがねえんだぞ。あたしは兄の嫁でも子供でもねえし、兄と仲がいいわけじゃねえ。

 朝が苦手だからって夜の仕事なんか性に合わねえし、愛人みてえな生活もしたくねえ。


 ああ、自分探ししてる場合じゃねえぞ。

 財布の中は空っぽだ。三万あったんに何に使ったんだベ?


 金曜のゆんべ、何した?何も覚えてねえ。どこかで落したか?財布があんだから、落しはしねえはずだ。何に使ったんだベ?

 ああ、晩飯食ったな、飲んだな、金払ったんはあたしか・・・。


 ミヤチカ、人を誘っときながら、食い逃げか?奴の方が契約が多くて、貯めこんでるくせに、人の金で食うことしか考えてねえ・・・。

『あたし、お金ないんです~。助けてください~』

 そりゃそうだろう。貯める金はあっても、飯代を払う金も、気もねえんには呆れるぜ!

『ミヤチカ!二度と人を誘うんじゃねえぞ!一万五千円、払え!』

 頭に浮んだミヤチカのにやけた面を、思い切り、ひっぱたいてやった。

 そしたら、携帯にメールが来た。

「ワリカンなのに、払わせてごめんね。一万五千円、月曜に払うから、ごめんね!」

 おおっ!やって見るもんだな!テレパシー、通じたか?ついでに一つ、

『おい!法人契約、一つあたしに廻しな!そしたら、一ヶ月、週5で飯食わせてヤンぞ!』


「報奨金100のを一つ、ヒロに廻すね。そしたら金欠、解消するよね?   

 月曜から、法人提案に同行してね!」

「了解!月曜に同行する!」

 思わず、メールを返した。ミヤチカ、良い奴だなあ、と思ったが、あたしも甘い。奴の言い分はどこまで本音だベ?疑わしい。




 まあ、いい。月曜になればわかることだ。

 それより、腹へったあ・・・。朝メシ食いそびれたから、何か食おう・・・。

 あたしは二階の自室から台所へ行った。


 母は店に出てて、家に居ない。店ってスーパーだ。 

 パートじゃねえぞ。れっきとした経営者だ。だったら、スーパーで働けばいいってか?とんでもはっぷん、歩いてじゅっぷん、親爺ギャグを言ってる時じゃねえぞ。

 兄が働いてるスーパーになんか、行けっか!兄の女も居るんだぞ。

「アケミ~、ケンジ~、ニャンニャン~!」

 朝からじゃれてる奴らを見てられっか!


 それに、あたしがスーパーで働くと兄の機嫌が悪くなる。あたしの働きの方が、兄の何倍も多いのだ。能力の違いに、兄の機嫌は悪化して憤慨する!

 兄の働きが人並み以下かというとそんな事は無い。人並み以上なのだが、あたしの方が兄のその上を行くのだ。


 兄はあたしよりチビだ。母もチビだ。あたしは女としては、ちっとばか、でっかい方で、商品などを扱う仕事は得意だ。だけど、保険や証券など変動商品の扱いは苦手だ。その事は最近になってよくわかってきた・・・。やっぱ、先物取引会社や保険会社は、性に合わねえ・・・。


 そう思いながら、あたしは冷蔵庫から、パンやスープなどを出して食いながら、鍋に湯を沸かして、具材たっぷりの二食分のラーメンを作った。これぐらい食わなきゃ、身が持たねえぞ。

 飯食った後で、何すっかな?そうだ!温故知新屋へゆこう!

 温故知新屋が何かって?知りてえか?


 

 温故知新屋は質屋だ。だけど、普通の質屋じゃねえぞ。骨董屋もやってる。こっちが主体かな・・・。

 何で骨董屋へ行くかって?温故知新屋は、歩けるようになってから、いつも遊びに行ってる店なんさ。別に用がなくっても、大叔父おじさんの顔を見てりゃ、気持ちが和むんだ。

 大叔父さんは祖母ちゃんの弟だ・・・。母が忙しかったから、大叔父さんにはちっちゃい時から面倒を見てもらってる。あたしの育ての親のようなもんだ・・・。


 実を言うと、あたしは祖母ちゃんの娘で、母は歳の離れた姉だ。兄は歳上の甥だ。何でそんな事になったか聞きてえだろうな?

 祖母と祖父は学者だった。仕事が忙しくて、最初の娘であるは母は曾祖母と曾祖父が育てたが、その後、母が婿養子を貰って結婚して長男が生まれると、祖母は晩年に生まれた二番目の娘のあたしを、歳の離れた姉、つまり、今の母に預け、仕事に没頭した。それで、母は、あたしを母の娘にして育てた。


 まあ、かんたんに言えばそういう事だ。母が経営するスーパーは、元は曾祖父が経営していた八百屋だった。それを母が婿さんと共に大きくして、スーパーにした。そんな事もあり、兄とはあまり仲が良くねえ。


 ああ、温故知新屋に話を戻そう。



 温故知新屋の主は大叔父さんだ。

 大叔父さんは、あたしが産まれた後に、ふらりと戻ってきて骨董屋を始めた。ふらりと戻ってきたというのは、永住するつもりで南米に行ってたけど、国外へ出たら、日本は精神文化に優れた歴史の国だって気づいたんだってさ。それで、骨董品は『温故知新』、「昔の事をたずね求め(=温)て、そこから新しい知識・見解を導くこと」ができるって気づいて、骨董屋を始めたんだ。何やら、難しいことをこじつけなくたって、骨董品にはそれぞれの歴史があるのはあたしでもわかし、あたしの知らなかった、おもしろい物があるのには驚く。


 また、横道にそれた。

 温故知新屋にゆこうというのは、昨日、大叔父さんから、

「渡したい物があるからきてくれ」

 と連絡があったからだ。

 あたしも大叔父さんも、温故知新屋にゆけばわかる事を前もって詮索する必要は無いから、ゴチャゴチャ前置きは言わない。

 あたしは二人前のラーメンを食って、街外れの住宅街にある家から、駅前通にある温故知新屋へ行った。


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