第3話 旅の準備
次に向かったのは防具屋だ。店の看板には「エルムの防具屋」と書かれており、入口には革製の装備品が掛けられていた。
ノアは「ここで最低限の装備を揃えよう。」と言いながら店の扉を押した。
店内はシンプルな空間で、革製品が目立つ。防具屋の主人が手招きして近づいてくる。
「いらっしゃいませ! どのような防具をお探しですか?」
主人の声は元気がいい。
おぉ、なんだか防具屋ぽいぞ!
ゲームの世界に来たみたいだ。
ワクワクしてきた!
「簡単に使える、安めの防具を一式揃えたいんだが、あるか?」
「これがおすすめです。革の胸当て、盾、兜、すね当て。これで合計銀貨二枚です。」
主人が示す防具は全て柔軟性はありそうだがとても簡素だった。
初心者用防具って……実際に見ると簡素だな。
こんなんで魔物の攻撃を守れるのか?
よくRPGなんかは革の防具を使っているけど……正直心もとないぞ。
「ふむ……少し予算オーバーだな。……胸当てとすね当てだけ買おう。」
「そうですか……では銀貨一枚になります。」
主人は明らかに残念そうにしていた。
俺も残念だ。
もうちょっとマシな防具かと思ったのに……
「これでこれからの旅も安心だな。」
ノアは満足そうにそう言った。
防具屋を出た後、俺たちは武器屋に向かった。この武器屋には「ブラッド武器屋」と書かれていた。武器屋の中には鉄製の剣、弓、矢が並んでおり、壁には様々な武器が陳列されている。
「こんちは! いらっしゃい!」
武器屋の主人が元気な笑顔で迎えてくれた。彼の背中には二振りの長剣が掛かっていた。
「弓と矢のセットを頂きたい。」
「わかりました! こちらの弓と矢のセットはどうでしょうか!」
主人が手早く商品を出てきた。
「合計で銀貨二枚になります!」
主人が笑顔で告げる。
「ちょうど予算内だ。」
ノアが懐から銀貨を取り出した。
「ありがとうございました! ぜひ冒険に活かしてください!」
「これで装備も整った。明日は馬屋へ行こう。」
次の日、俺たちは町の外れの馬屋へ向かった。馬屋には「リヴェンの馬屋」と書かれ、素朴ながら活気ある雰囲気が漂っていた。
「いらっしゃい!」
馬屋の主人が明るい声で出迎えてくれた。
「馬を一頭買いたい。」
「馬一頭ですね。それなら健康で丈夫なこちらの馬はどうでしょう。一頭銀貨五枚です。」
一頭? てっきり二頭買うものかと思っていたな。
やっぱりお金がないのか?
ノアは懐から金貨を一枚取り出した。
「金貨で支払う。」とだけ言うと主人は「わかりました。お釣りは銀貨五枚ですね!」と言って銀貨五枚をノアに渡した。
なるほど、この世界でもお釣りという概念はあるのか。
大きい貨幣で支払ってお釣りがもらえるなら……
例えば銀貨一枚に対して銅貨十枚で支払うのも可能なのか?
あとでノアに聞いてみよう。
馬を宿屋の裏手に繋ぎ、部屋に戻った。俺はさっきの疑問をノアに問いかけた。
「ノア、さっき金貨で銀貨の馬の代金を支払ってましたが、例えば銀貨一枚に対して銅貨十枚で支払うことは可能なんでしょうか?」
「まぁ……一応可能だな。ただ、金貨、銀貨にはそれ自体にも価値がある。金貨銀貨より価格が低ければ支払うことは可能だが、逆に銅貨自体には価値がない。だからあまりそういった支払い方はしないな。」
基本的には金貨は金貨、銀貨は銀貨、銅貨は銅貨で支払った方が良いということだそうだ。
次の日、俺は昨日買った胸当てとすね当てを装備し、弓と矢を背中に装備した。初期装備だが冒険者ぽくなってきた。
荷物を馬へ載せてリヴェンを後にした。次に向かうのは湖の見える街、「アトラント」だ。ここから馬で二日ほどだという。
俺は馬に乗ったことがない。どうやって乗ればいいのか、まったくわからない。
「あの、ノア……」
俺は少し緊張して声をかけた。
「なんだ?」
「俺馬に乗ったことがないんです……どうやって乗ればいいですか?」
俺がそう言うとノアは突然フハハと口を開けて笑いだした。俺は少しイラッとした。
なんだこの人は。
人が困っているのに笑うとは。
もうノアには頼らず一人で乗ってやる。
俺は馬の体を掴んでみるが、足がどうしても馬の背にかからない。苦戦してるとノアは「すまん、すまん。お前も年相応の子供なんだなと思ったら可笑しくてな。馬に乗れず困っているとは……。ふっ。」と言いながらもまだ笑っていた。
「いいです。俺は一人でも乗りますから。」
「悪かった悪かった。そんなこと言うなよ。ほら。」
ノアはそう言うとひょいっと俺を掴んだ。
「えっ、ちょっと、待って!」
俺は抵抗する暇もなく、そのまま馬へ跨がされた。
「怖くはない。この子は大人しいからな。」
そう言いながらノアは馬の頭を撫でた。確かに大人しい。
初めての感覚だった。馬の背中は意外と固く、揺れも伝わる。ノアは俺の後ろに乗り、手網を持った。手網を打つと馬は歩き出した。
最初は不安だったが、乗ってみるとその揺れが不思議と心地よく、どこか安心感さえ感じるようになった。
風が頬を撫でる感覚が新鮮だった。不安はどこかへ消えて、ただただ新しい感覚に夢中だった。馬が歩くたびに進んでいく道、地面が揺れる感覚。心が静かになり、どこか開放的な気分だった。
「馬って……いいですね。」
自然と笑みがこぼれた。後ろにいるノアの表情は見えないが微笑んでいる気がした。
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