第11話 初めての友達
アイリスとたわいもない話をしながら、両親を探して歩いた。アイリスの両親は回復魔法に長けていて、医者として旅をしながら人々の病気や怪我を治しているとのことだった。
けれど、アイリスが両親のことを話すと、どこか表情が暗くなった。それに気づいた俺は、少しでも気を紛らわせられたらと思い、これまで習得した魔法を披露してみせた。
「これ、見てて!」
俺が魔法を使うと、アイリスは目を見開いて驚きながらも、「すごい! 魔法が得意なんだね!」と、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。その笑顔を見た瞬間、俺の胸にも温かい気持ちが広がった。
じいちゃんの物を作り出す魔法も教えてもらうんだったな。
そしたらこの子の好きな物も作り出せるのに。
今度教えてもらおう。
その日は俺の誕生日の数日前で、あのいつもの夏の始まりを感じさせる空気が漂っていた。
日が暮れて、ようやくアイリスの両親を見つけた。驚くことに、彼らは村にいた。両親は娘と離れてしまったため、彼女を探しているうちにこの村にたどり着いたらしい。
「娘を助けてくださって、本当にありがとうございました。」
両親は俺に向かって深くお辞儀した。
「いえいえ、とんでもない。たまたま居合わせて、運良く助けられただけです。」
本当に心から思っていることだ。たまたま居合わせた。運良く助けられた。一歩間違えればアイリスも俺も……。
大人と話すのは久しぶりだった。村人は俺を避けるから。俺の事を知らない大人だ。
両親に感謝されて照れくさくなったと同時に、人の役に立てたことが何もよりも嬉しかった。
彼女と両親は、この日は村に泊まることになった。
――翌日の朝。
結局アイリスたちは、2、3日村に泊まることになった。俺が魔物からアイリスを助けたお礼に、村にいる病人や怪我人の手当をしたい、との事だった。
後で聞いたが、人見知りのアイリスが俺によく懐いているのを見て驚き、アイリスが俺と遊びたいと言ったことも、この村に泊まることを決めた理由の1つだったそうだ。これはあとで、ばあちゃんから聞いた。
アイリスとは秘密基地で魔術の本を見せたり、木に登ったり、祠に案内したりして、年相応の普通の子供のように、たくさん遊んだ。
この世界に転生してから誰かとこんなふうに遊ぶことなんて一度もなかった。この時は過去の出来事や悩みも忘れて、ただ子供のように純粋に遊んでいた。
ただただ遊ぶ。疲れたら昼寝して、お腹が空いたら家に帰る。家には温かいご飯が待っている。そんな1日を数日過ごした。
こんな日がずっと続けばいいのに。そんなことを思い始めていた。
彼女は花が好きだった。よく花で冠を作っていた。俺はそういうのにはあまり興味がなく、詳しくはなかった。アイリスが作った花冠を見せるたびに、彼女の楽しそうな表情に俺は微笑ましく思った。
「ラキ君、見て! できた!」
と、アイリスは笑顔で言いながら、頭に花冠を乗せた。その姿はとても可愛らしかった。
秘密基地から帰る間際、ふとアイリスに尋ねてみた。
「アイリスの一番好きな花は何?」
アイリスは少し考えた後、ピンク色の花が咲く花畑を指差しながら答えた。
「これ、この花が一番好き。」
「あぁ、君の髪の色と同じで綺麗だよね。」
その花は桜のような綺麗な色で、俺は結構好きだった。
横にいるアイリスを見ると、彼女は少し頬を赤らめて、恥ずかしそうに俯いていた。俺もなんだか照れくさくなった。
いや、そんな照れられたら俺も照れる。
でも、さすがに今のセリフは恥ずかしいか。
子供相手になにやってるんだ俺は……
そんなことを思いながら帰路に着いた。
――そしてとうとう、アイリスたちが村を去る日になった。アイリスは別れの際、綺麗な青色の瞳から涙を浮かべていた。
「助けてくれて、本当にありがとう。私のこと、忘れないでね。これ、エルフのお守り。誕生日が近いって言ってたから……私からのプレゼント。」
そう言って、エルフのお守りを俺に差し出した。それは、前世での御守りと似ている形だった。手の平よりも小さいサイズの布製の袋で、触ってみると中に何か入ってる。こういうのは開けない方がいい。中は見ないでおいた。
そういえば誕生日が近いって言ったな。
この村ではプレゼントを贈る文化がないから貰えるなんて思ってなかった。
それにしても、いつの間に作ってたんだ?
「ありがとう、大事にするよ。」
俺はお守りをしっかり握りしめた。
「またね。」とだけ言った。何故だかさよならは言いたくなかった。
アイリスの姿が見えなくなるまで、村の入口に立っていた。心にぽっかりと穴が空いた感覚になり、急に寂しさが込み上げてきた。しばらくして家に帰った。
人との別れがこんなにも寂しい気持ちをもたらすなんて、こんな感情を抱くことになるとは思ってもみなかった。前世では考えもしなかったことだ。
アイリスと出会えて良かった。彼女と過ごした数日は、俺の心の何かを変えた気がする。
俺って、こんなにも人間味のあるやつだったんだな。
また、会えるといいな。
その日は貰ったお守りを握りしめながら眠りについた。
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