第3話 期待の魔術書


 二歳になった。この一年で出来ることが増えた。

 

 まず、単語や文法を理解して言葉が話せるようになった。まともな会話が出来るようになったことで二人と会話することも多くなった。

 二人のことをじいちゃん、ばあちゃんと呼ぶことにした。いつまでもおじいさん、おばあさんだと距離を感じたからだ。二人をじいちゃん、ばあちゃんと呼ぶと嬉しそうに笑ってくれた。


 

 ある日の夜、じいちゃんは自分の昔話をしてくれた。

 

 「じいちゃんはな、昔は世界を旅しながら商人をしていたんだよ。」

 「そうなの? どこを旅したの? 世界はどんな所?」


 俺は興味津々でじいちゃんの話を聞いた。

 商人として各地の珍しい魔道具や魔石、武器や防具、それから本を取り扱っていたと。物置部屋にあったのはその商品だった。


 「物置部屋にあったあれ、手入れもされてないからガラクタだと思ってた。」


 冗談まじりにそう言うとじいちゃんは大きな口を開けてハハッと笑った。

 

 「ラキにはまだあれの価値が分からないんだ。そのうち分かるぞ。そうだ、お前も将来は商人になるか?」

 じいちゃんはさっきよりもガハハと笑っていた。


 うーん、商人はやめておこうかな……

 向いてなさそうだし。


 商人をしながら旅の途中で出会ったのがばあちゃんだ。ばあちゃんは街の地主の娘だった。じいちゃんとばあちゃんはすぐに恋に落ちた。結婚をしようと約束したが、ばあちゃんの父親がそれを許さなかった。住む場所もお金すらない旅暮らしのじいちゃん。どう考えても身分違いの恋だ。父親からは反対されたが、二人の決意は固かった。結局駆け落ちという形で街を出たそうだ。それから二人はこの村へ行き着き、そのまま住むことになった。

 ばあちゃんは一度も家に帰ることはなかったそうだ。じいちゃんは少し、寂しそうな顔をしていた。


 

 ばあちゃんは暇ができると編み物をしていた。服や帽子、毛布やクッションなど。俺の服もばあちゃんの手作りだった。といっても半分くらいは魔法でかぎ針を自動で動かしていたが。それでも半日から一日で完成していた。

 出来上がった物は村人と物々交換をしている。小さい村だからお金という文化がないらしい。

 時々ばあちゃんにくっついて村人の家を訪ねた。

 

 「こんにちは。頼まれてたクッションを作ってきたよ。」

 「ありがとう、おばあちゃん。今使っているのはもうボロボロでね、とても助かるわ。」

 「あら、今日はラキ君もいるのね? こんにちは。」

 

 村の中では若い夫婦のお宅だった。女性は俺に気づくと挨拶してきた。

 

 「あ……こんにちは……」

 

 じいちゃんとばあちゃん以外の人と話すのは久しぶりだった。

 

 「もうこんなに大きくなって――子供は育つが早いわね。」

 

 なんだか照れくさくなり、ばあちゃんの後ろに隠れてしまった。二人はそれを見てふふっと笑っていた。


 この歳になって人見知りをするとは……

 くっ、恥ずかしい……


 それからしばらく、ばあちゃんと女性は談笑していた。ばあちゃんはクッションの代わりに果物を交換していた。


  

 会話の他にも読み書きが出来るようになった。俺は魔法の勉強を始めた。本棚から初級の魔術書を取ってもらった。初級といってもものすごく分厚い。


 魔術書だ!

 やっぱり魔法の世界といえばこういう本だよな。

 これは読み応えがありそうだ。

 

 前世ではまともに学校に通っていなかった。勉強自体あまり好きではないが、「魔術書」という響きには心が躍る。

 

 魔術書にはこんなことが書かれていた。


 ・はじめての魔術教本~初級編~

 「魔力について」

 魔力とは人が生まれた時に持っている生命エネルギーのことである。この生命エネルギーを使い魔力に変換し魔法として発動する。この生命エネルギーは成長とともに増え続ける。生命エネルギーが底を突くと魔力を生み出すことが出来なくなり、魔法が使えなくなる。つまり生命エネルギー=魔力量である。自分の魔力量を測るには特殊な魔道具が必要である。


 「属性について」

 基本の属性は【火、水、風、土】の4つ。

 基本属性から複数属性を組み合わせることもでき、一般的なものは【氷、木、雷】といった属性。複数属性の使用は魔力の使用量も多く、使いこなすのも難しいため上級魔術師以上が主に使用する。

 また特殊属性というのも存在する。特殊属性は他の属性とは全く異なる性質を持ち、最も使用されているのは回復魔法の【無属性】である。

 

 「魔術階級と魔術師階級について」

 魔術のレベルには魔術階級がある。

 下から【初級、中級、上級、英級、王級、皇級、賢級、神魔級】の八階級あり、各階級には基本的な魔術がある。上の階級の魔術を習得すればその階級の魔術師階級となる。

 上級以上はそれぞれに由来がある。かつて英雄、国王、皇帝がそれぞれ存在していた。それぞれはそれぞれを象徴とするような魔術を持っていた。そしていつからかそれぞれの位の魔術を習得した者は各位の一文字を取って英級、王級、皇級と呼ばれるようになった。このことからその魔術を習得した魔術師は、英級は英雄に、王級は国王に、皇級は皇帝になれるといわれている。

 賢級とはほぼ全ての魔法を習得した階級。過去を含めて賢級となったものは数人しかいない。

 神魔級とは全ての魔法を習得した階級。過去を含めて神魔級となったものはいない。

 

 「魔法発動について」

 魔法を発動するには3つの方法がある。

 1つ目は【詠唱】

 読んで字のごとく、詠んで唱えるもの。

 どの属性の力で、何を、どうするのか、口に出し、魔力を手、もしくは杖に込める。その際、魔力を形あるものにイメージする。目に見えず触ることも出来ない魔力を物体でイメージすることで、目で見えるようになるし触ることも出来るようになる。

 例:「水の精霊イシュリアの力を借りて」「水の」「球を放つ」

 これは「水の精霊イシュリアよ、透明なる水晶を創り出し、その輝きを波紋と共に解き放て。水球アクアボール」となり、水の球を放つ魔法が発動する。

 2つ目は【魔法陣】

 紙、地面、壁など、書くことが出来るものであればどこにでも発動することが出来る。詠唱と同じく、どの属性の力で、何を、どうするのかを円に記し、イメージすることで発動する。

 3つ目は【魔道具】

 物に魔力を込め、どの属性の力で、何を、どうするのか刻むことで力が宿る。使用する場合は刻まれている文を詠唱することで発動する。


 「属性の力の源について」

 魔法発動には精霊の力が必要となる。精霊は火、水、風、土の精霊が存在する。回復魔法では自分の生命エネルギーが力の源となる。

 【火の精霊】である【アウスラグナ】、

 【水の精霊】である【イシュリア】、

 【風の精霊】である【ウィスリス】、

 【土の精霊】である【エンディニア】の力を借りることになる。

 

 「初級魔法について」

 初級魔法の種類は大きく分けて攻撃、防御、回復、その他に分けられる。

 【基本初級魔術 攻撃魔法】

 攻撃の中でも、打撃攻撃、属性攻撃の二種類に分けられる。

 【基本初級魔術 防御魔法】

 各属性の防御壁、各属性を地面に広げ身動きを取れなくする属性陣がある。

 【基本初級魔術 回復】

 体力回復、病状回復。

 【基本初級魔術 その他】

 日常に使える魔術。物を動かす、光を灯す等。


 ざっとこんな内容が書かれていた。

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