JKガンナー

三八式物書機

第1話 PON

 名古屋テレビ塔の展望台。

 そこに一人の女子高生が居た。

 名古屋市内にあるお嬢様高校で有名な高校の制服を模したセーラー服姿。

 ただし、制服の上から多くのマガジンポーチをぶら下げたプレートキャリアを装着している。

 そして、スカートに隠れているが、太腿にはレッグホルスターとマガジンポーチ。

 足には黒靴下と黒皮のローファー。

 腰には真一文字に大型コンバットナイフが鞘に収まっている。

 手にしている銃はコルト社M4A1自動小銃。

 アメリカ軍が採用している標準的な自動小銃。それに光学照準器が載っている。

 迷彩柄のケプラー製ヘルメットを被り、彼女はただ、床にだらしなく座っている。

 肩で息をする程に疲れている。

 服には幾つか破れが見える。

 激しい戦闘をした直後。

 銃は射撃を繰り返したと解る程に熱くなっている。

 目の前にウィンドウが開かれる。

 それがここが現実世界では無いことを実感させる。

 ウィンドウは通信を示す。

 半径100メートル以内の友達登録された相手とならチャットが出来るシステム。

 『テレビ塔の下に一個班が展開中。テレビ塔制圧を伺っている様子』

 それに返信を送る。ボイスチャットになっているので、音声入力をオンにして、喋るだけだ。

 「テレビ塔は一人だけ。エレベーターは破壊したから、階段しか使えない。展望台に罠は張った」

 『了解。敵が昇り始めたら、下から掃討に向かう。敵の侵入を耐えろ』

 「了解。なるべく早く頼む。弾数がギリギリ」

 彼女は通信を終えると天井を仰ぎ見た。

 どうして、こうなったのか。

 今更ながら、考えてもどうにもならない事だった。


 1日前。

 フルダイブ型オンラインゲーム『PON』の大型アップデートが行われた。

 アップデート時、ゲームに参加していると極秘の豪華特典が用意されていると運営側から知らされていたので、全世界でゲーム参加している25万人がゲームに参加した。

 FPSを原点とするPONは実際に存在する都市を仮想世界に再現して、その中でチーム対抗戦を行うゲームである。

 銃での撃ち合いが目的のゲームではあるが、銃の再現性は非常に高く、銃器メーカーなども高く評価する程であった。

 撃ち合いもリアルに再現されており、撃たれて違うのは痛みがエアーソフトガン並と言う点だけだった。神経系統も再現されており、撃たれた場所によっては手足が動かなくなる。

 ライフゲージがゼロになれば死亡判定される。

 敵プレイヤーを倒した数だけ、ポイントが与えられ、それらのポイントは装備の充実などに使える。

 ポイントはプレイヤーキル以外にも防衛拠点制圧など、幾つかのミッション達成でも与えらえる。

 チーム対抗となっており、プレイヤーは最初に自分が所属するチームを選ぶ必要がある。このチームで戦い、一定時間内でのポイント獲得数で競うのがこのゲームの楽しみ方であった。


 プロゲーマーも存在するこのゲームに一人の女子高生はハマっていた。

 プレイヤー名『ゆきうさぎ』

 本名からモジっただけである。

 彼女はすでに3か月間、ゲームをやり込んでいる。

 無論、学校にも通いながらであるので、1日の内、3時間程度だが。

 それでもそれなりにキル数も上げており、ベテランの一歩手前ぐらいには居る。

 彼女もこの大型アップデートに参加していた。

 ゲームにハマっている者なら極秘の豪華特典は喉から手が出る程に欲しいだろう。

 新しく実装される銃や装備なのか?

 期待を胸に時間を待った。

 そして、カウントダウンが華々しく行われる。

 それはチーム対抗戦の間のスタンバイタイムと呼ばれる時間に行われる。

 この時間でプレイヤーは装備を揃えてる。

 ゆきうさぎも次の対抗戦に備えて、装備を整えた。

 今回のチームは青チーム。知り合いが多く参加しているからだ。

 そして、カウントダウンがゼロになった。

 運営からのメッセージがプレイヤー達に届いた。

 『おめでとうござます。あなた方は本当の殺戮ゲームに選ばれました。次のチーム対抗戦で勝利したチームの生き残りだけが、生還可能となります。それに付きまして、ルールを一部変更いたします。変更点は以下を参照してください。それではゲーム開始まで楽しみにお待ちください』

 よく解らない内容だった。ただ、このメッセージが流れた瞬間、ゆきうさぎの装備が全て、消えたのだ。

 服装はジーパンにTシャツ、スニーカー。

 そして、アバターはリアルの自分。

 手にしているのは初期装備のS&W社M36回転式拳銃。

 完全な初期装備の上にアバターが自分。

 どうなっているのかと思った。そして、変更となったルールにはゲーム時間が無制限となっている。

 勝利条件は相手チームの殲滅か、相手拠点の全制圧。

 リスボーンは無し。

 ゆきうさぎはこれも新しい趣向なのかと楽観的に捉えた。

 そして、ゲームは始まる。

 誰もが現状を理解しないまま、フィールドに送り込まれた。

 

 名古屋市

 戦場となるフィールドは全世界に実在する都市。プレイヤーはバランス調整の為、参加するフィールドやチームを選ぶ事は出来ない。それらは運営側のAIがランダムに指定する形であった。

 ユキウサギからすれば、名古屋など来た事も無い街だった。

 名古屋市フィールドは5チームが参加する。総数は500人。

 青チームは西区、赤チームは港区、黄チームは緑区、白チームは守山区、黒チームは名東区が拠点となっている。拠点は各区の区役所。そして、プレイヤー達はそこに集まっていた。

 ゆきうさぎの傘下するチームは青。彼女は西区役所に居た。

 「状況が不明だが・・・装備は初期装備しか使えないみたいだ」

 「イコールコンデションのイベントって事か・・・」

 「かなり煽られた感じだけど、こんなのも良いかな」

 プレイヤー達は戸惑いながら、笑い合っている。

 誰もがこれがゲームだと理解した上での話だった。

 だが、あるプレイヤーが怒鳴り出した。

 「何だよ。ログアウトが出来ないじゃんかよ」

 基本的に対抗戦中のログアウトはポイント減点のペナルティがあるので、あまり誰もやらない。無論、急に用事が入れば、仕方が無しにログアウトするわけだが。

 騒ぎ出したプレイヤーとは別のプレイヤー達も次々とログアウトを試した様子だった。だが、誰もログアウトが出来なかった。

 フルダイブ型オンラインシステムによるログアウト不可はあり得ない。安全機構があるので、どんな方法でもログアウトは可能なのだ。

 突如、ある者が悲鳴を上げて、倒れた。

 そのプレイヤーはその場で死亡認定された。多分、デバイスを強制的に外したのだろう。だが、それにしても悲鳴を上げるような事では無いはずだった。

 運営側から新たなメッセージが送られる。

 『確認事項。ゲームからのログアウトやゲーム内での死亡判定は即座に死亡となります。現実世界においての死亡となりますので、行動は慎重にお願いします』

 その意味が一瞬、誰もの理解を超えていた。

 沈黙があった。

 そして、怒号が飛び交う。

 突然、突き付けられたリアルな死。

 さっきまでの平穏が失われたのだ。

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