第15話

「俺が毒を口にし、血を吐いて倒れると教えてくれた者がいたんだ」

「ではその者を問い詰めれば犯人がわかりますね」


 重要な手がかりだと言わんばかりにルシアンは低い声で言い、それはいったい誰なのかと問うような目でじっとオスカーを見つめた。

 しかしオスカーは静かに「待て」と告げて、落ち着くように促す。


「その者は犯人についてはなにも知らない。捜すなら別の方向からにしないと」


 ではなぜ、宴でワインに毒を盛られると知ったのか。

 もし、ほかの誰かに聞いたというなら元をたどっていけばいいだけだが、オスカーからの許可が出ない。

 ルシアンは腑に落ちなくて首をかしげた。


「俺はそんなに下の者たちから嫌われているか?」

「いいえ、滅相もありません。若い侍女などは身の程もわきまえず、王太子殿下のお姿に目を奪われているくらいですから」

「はは。そうか」

「笑っている場合ではございませんよ」


 小さく笑みをこぼすオスカーを見て、ルシアンは真顔で場の雰囲気を引き締めた。

 先ほどのことは決して見過ごせない王宮内での一大事件だ。

 オスカーの身に危害を加えようと企む者がいるなら、即刻捕まえなければならない。

 それに、ルシアンはオスカーの最側近としての責任がある。


「犯人は……単純に俺に恨みがある者か、誰かに指示をされて犯行に及んだか」

「……指示、ですか」


 王太子のグラスに毒を入れて殺めるなどという大それたことを、果たして誰かがひとりで計画して実行したのだろうか。

 複数の人間が絡んでいてもおかしくないなと、オスカーは頭の中で思考を巡らせた。


「王様の息子は俺だけだからな。王室を根絶やしにと考えたのかも……」


 なにか糸口をつかんで、そこから芋づる式に捕まえていったとき……最後にたどり着く人物は誰なのか。


「とにかく、まず使用人たちに聞き取り調査だ。どうせ宴は中止になっているはずだし、料理人や給仕係はみな戦々恐々としているだろう」

「承知いたしました。早急に動きます」


 ルシアンはていねいに一礼し、颯爽と部屋から出て行った。

 ひとりになったオスカーは、あらためてレーナの夢の正確さに感心し、命を救われたことに人知れず感謝していた。

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