第14話
「どうやら狙われたのは私だけのようですね。ワインボトルにではなく、グラスのほうに細工されたかと」
焦りの素振りなど微塵も見せず、オスカーは平然とそう言い切った。
ブノワ王は顔をしかめ、その隣にいる王妃は恐ろしさから身体をブルブルと震わせている。
「料理は毒見係もおりますし、安全でしょう。王様、それではどうぞ宴をお始めください」
「オスカー……」
「私は調べることがありますゆえ、ここで退席いたします。どうかお許しを」
オスカーは毒入りのグラスを持って静かに立ち上がり、数名の侍従たちを従えて颯爽と大広間を出ていった。
残された者たちは一様に口を閉ざして神妙な面持ちになっている。
「――宴は中止だ」
しばらくしてブノワ王がそう宣言した。
笑みをたたえて和やかに酒を酌み交わす雰囲気ではなくなったのだから、当然の成り行きだ。
オスカーは普段執務室として使っている部屋の扉を開け、最奥にある豪奢な椅子に座った。
「毒を仕込んだのは給仕係のうちの誰かでしょうか」
感情を抑えきれない様子のルシアンが続けて部屋の中へ入ってきて、オスカーに詰め寄るようにして尋ねた。
「落ち着け」
「あれをそのまま口にされていたら命を奪われていたかもしれないのに、落ち着いてなどいられません!」
ルシアンは王太子であるオスカーからたしなめられても、感情のまま憤りの言葉を口にする。
こんなに怒るのは本気で心配している証拠だと、オスカーは顔に出さないものの内心ではその気持ちがうれしかった。
「殿下がワインに毒が入っていると仰ったとき、単に疑っておられるだけかと思っていましたが、まさか本当に盛られていたとは。しかし……」
「ん? どうした?」
「なぜわかったのですか? もしや犯人に心当たりがおありで?」
声をひそめるルシアンに、オスカーはふるふると小さく首を横に振った。
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