第13話

「毒? 誰が盛るというのだ」


 横から口を挟んだのはブノワ王の五歳年下の弟にあたるフョードルだった。


「見よ、オスカー。お前のせいでせっかくの宴が興ざめだ」


 フョードルは不機嫌さを全面に顔に出し、やれやれと言わんばかりに大げさに息を吐く。


「王様、このままでは宴が始められませぬ」


 普通の貴族や騎士ならこんなふうに国王に物申すことはできない。王弟であるフョードルだからこそだ。


「グラスの中身を銀製の器に移し替えればすぐにわかります」


 オスカーは立ち上がって右手でワイングラスを持ち、左手に持った銀の器にワインを移した。

 手の上でぐるぐると器の中身を回してしばし待つと、器に異変が現れる。


「私は危うく死ぬところでした」


 やっぱりかとうなずいたオスカーは、近づいてきたブノワ王の侍従にそれを預ける。


「器が黒く変色しております。ヒ素のような毒でなければこんな色にはなりません」


 ヒ素は無色で無味無臭。飲み物や食事に入れられても見分けはつかない。

 しかしヒ素には不純物として硫黄が含まれており、銀と反応すると黒く変色させる特色がある。


「……まさか。余と王妃のワインも調べよ」


 顔が真っ青になったのはその場にいた給仕係の女性たちだ。

 侍従の指示であわてて銀の器を用意し、毒が入っていないか確認したが、ほかの王族たちのワインにはなにもおかしな点は見つからなかった。

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