第11話

「それはなんですか?」

「花は時が経てば枯れてしまうでしょう? 押し花にしておけばいつまでも手元に置いておけるのよ」


 少女が明るい表情のまま「へぇ~」と感嘆の声を上げる。


「その、押し花というものは、どうやって作るのですか?」

「こうして紙のあいだに挟んで、上から重石を置くのよ」

「なるほど。これはそのための書物なのですね」


 どこから調達してきたのかレーナにはわからないが、分厚い本がたくさん積まれてある。

 表紙に文字が書かれてあり、見たことのない文字のはずなのに、夢の中のレーナはなぜかそれをすらすらと読めた。どうやらなにかの思想書らしい。


「上手に出来たら、あなたにもひとつあげるわね」

「え! もらえるならうれしいですけど、いいんですか? そのお花はコウタロウ様からいただいたものですよね?」

「そうなの。お庭にたくさん咲いているらしくてね、わざわざ摘んできてくださったの。薄紫色でかわいらしい花よね」


 にっこりと微笑み返したところで目が覚めた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいて鳥が鳴いている。

 不思議な夢を見るときはなぜか朝方が多いなと考えつつ、身体を起こしてノートに内容を書きこんでいく。

 だけどふと、今日はいつもと違うことがひとつだけあったとレーナは気がついた。


 使用人の少女が名前を口にしたのだ。たしか……コウタロウ様、と。

 夢の中でレーナはその名を聞き、照れながら胸をときめかせていた。そこから察すると、おそらく恋人か片思いをしている相手なのだろう。

 実際にコウタロウという人が夢に現れたわけではないので、どんな男性なのかはわからない。

 悩んだところで答えが出ないのはいつものこと。ただ言えるのは、怖い夢ではなく、どこか懐かしい気持ちになる。

 どうせならコウタロウと対面してみたかったなと思いつつ、レーナはそっとノートを閉じて朝の身支度に取り掛かった。

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