第10話

「髪型が崩れていますので結い直しましょう」

「ありがとう」

「上げ髪もいいですけど、お嬢様はもきっとお似合いですよ」


 にこりと微笑んでうなずいたところで、レーナは目を覚ました。

 次にぼんやりと視界に入ってきたのは寝起きしている部屋の見慣れた天井だ。

 まだ頭がすっきりしないままベッドから出て、覚えている範囲をノートに書きこんでいく。

 ここ最近、おかしな夢を見る現象が何度か続いているので、忘れないよう記録に残すことにしたのだ。


 今朝の夢では、レーナは“お嬢様”と呼ばれていた。貴族の娘のように大事に扱われていたのは間違いない。

 登場する人物はみんな見たことのない服装をしていて、自分を含め女性は長い髪を上部で結わえていた。

 しかし、“まがれいと”とはなんなのか。

 目にする風景や交わす会話ははっきりと覚えているのに、相手の名前や自分がどこにいたのかはわからない。

 レーナはモヤモヤしながらノートを閉じて、朝の身支度を始めた。


 この日も休んでいるマリーザの仕事を補うため、レーナは調理場を手伝うことになった。

 自然と頭に浮かぶのは眉目秀麗なオスカーの顔。彼が毒を飲まされて倒れる姿だ。

 食料庫の隣にあるワインの貯蔵室に入ってみたが、特に変わった様子はない。

 レーナはあちこち見て回ったあと、ほうっと息を吐く。普段出入りしていない自分が見てもわかるはずがないのに、と。

 自分でなんとかすると彼は言っていたけれど、本当に大丈夫なのか……。レーナは心配で仕方なかった。


 一日が終わり、寝る準備をして床につくと、レーナは再び不思議な夢を見た。

 昨夜とまったく同じシチュエーションで、続きのような夢だ。 

 この国とは全然違う造りの木造の建物が建っていて、みんな黒髪で黒い瞳をしている。


「お嬢様、なにをなさってるのですか?」


 昨日の夢に出てきた使用人の少女がかわいらしく小首をかしげて尋ねた。場所は屋敷の一角にある部屋の中だ。


「お花をいただいたから、押し花を作っていたの」


 レーナがそう答えると、少女は瞳を輝かせた。

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