第9話

 レーナはその夜、また新たな夢を見た。それは、これまでかつてないほどの不思議な夢だった。

 しかもこま切れのぼんやりしたものではなく、夢とは思えないほどはっきりとしていた。

 場所はどこかわからないが、ここエテルノ王国でないことはたしかだ。

 ブロンドの髪色をした人や、ドレスを着た人はひとりもいなかった。遠い外国だろうか。顔だちもこの国の人たちとは丸きり違う。


「お嬢様、そんなのは俺がやりますよ。お着物が濡れます」


 屋敷の前で手桶と柄杓を持って水を撒いているところへ、小柄な少年があわてた様子で近寄ってくる。

 年齢は十二~十三歳くらいの男の子で、顔にはまだあどけなさが残っていた。

 彼の名前を知っているはずなのになぜだか思い出せない。なんという名だっただろう?


「打ち水もダメ? 昨日だって裏庭の草むしりをしていたら止められちゃって……」

「当たり前ですよ。草むしりなんかしたら、その真っ白で綺麗な手が傷だらけになるじゃないですか。俺が旦那様や奥様に叱られます」


 あきれたような笑みをたたえた少年が柄杓をそっと取り上げる。


「打ち水をすると涼しくなるのはどうしてかしらね」


 明るい口調で少年に問いかけたところで、真後ろからまた別の人物に「お嬢様」と声をかけられた。

 少年よりも何歳か年上の、かわいらしい顔立ちをした少女だった。

 彼女は自分に付いてくれている使用人だと、なぜかわからないがレーナは夢の中で自然と理解していた。

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