第3話

「レーナはもう行っていいよ。あとはやっとく」

「そう? ごめんね。行ってくる!」


 残りの洗濯をほかの同僚たちに任せ、レーナは小走りで調理場へ向かった。

 昼食の準備に追われているそこはまるで戦場のよう。料理人や使用人たちがせわしなく動いている。

 奥には王族の食事を任された専属料理人の姿が見えた。


「レーナ、そこにある玉ねぎの皮を剥いてくれ」

「わかりました」


 料理人から指示を受けて黙々と仕事をこなしているうちに、午前の訓練を終えた衛兵や騎士たちが順番にやってきて食事を始めた。

 使用人たちの食事は粗末なまかないだが、宮殿内や国境の警備を担う彼らにはボリュームのある料理が振る舞われている。


「私、食材庫にじゃがいもを取りに行ってくるね」


 ジェシカが笑顔でレーナに声をかける。

 すぐ後ろにはテーブルの上に所狭しと陶器の皿が積まれていた。

 

「あぶない! お皿が!」

「え?」


 床に落ちてしまう前にレーナがあわてて支えたため事なきを得る。

 ホッと胸をなでおろすレーナとは対照的に、ジェシカはすぐに理解が追い付かずにしばらくポカンとしていた。


「そっか。レーナのおかげでお皿が割れずに済んだのね」

「ジェシカが怪我をしなくてよかった」

「でも、私がぶつかるって、どうしてわかったの?」


 ジェシカが皿を安全な場所へ移動させつつ率直に問いかけると、レーナは苦笑いを浮かべた。


「今朝の夢。今と同じ状況で、何枚もお皿が割れてジェシカが顔を真っ青にしてたから」


 気味が悪いと言われるかもしれない。そう懸念したレーナだったが、ジェシカはただ驚いたり感心したりするだけだった。


「正夢ってやつ?」

「そうなのかな」


 もっと事前に明確な情報が得られればいいのだが、夢はいつも継ぎはぎ。

 なので、その場面に直面する寸前にならないとわからないのがレーナはもどかしかった。


「とにかく助けてくれてありがとう!」


 レーナは照れながら首を横に振り、ふたりは微笑み合って仕事に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る