遂に俺もラブコメの世界に!?

@tyokoreat

プロローグ

人生は一度きりのゲーム、人生は君だけの物語、人生は冒険だ、人生の主役は君etc...


多くの場面で人生は別のものに例えられる。


そして、誰かがその言葉に感化され、人生が輝かしいものだと勝手に期待し、現実を見て絶望する。


なんと身勝手で情けないのだろう。


所詮言葉の中に、信用に値する理由はないと言うのに。


そう分かっていても、信じることをやめられない。まだ、俺にもチャンスがあるのではと心のどこかで期待をしてしまう。


悲しく、どうしようもない生き物だ。


そして、その悲しく、どうしようもない生き物が俺、寿 雅(ことぶき みやび)である。


俺は、自分が悲しく、どうしようもない生き物だと理解した上で、目指すのだ。


ラブコメの世界に行くことを!!



......なんてはじまりらしく1人語りっぽいことしてみたけど、あんまりだな。俺には向いてないや。このアイデアは無しで行こっと。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「あぁ、人生なんてクソだ...」


俺、寿 雅(ことぶき みやび)は机に突っ伏しながら、文句を吐きだす。


今日で高校に入ってから1年と3ヶ月が過ぎている。そう、俺は今、高校2年生という立場にいる。もう高校2年生だと言うのに...


「なんで何もないんだよ!てか友達すらできないっておかしいだろ!!」


不満が爆発し、思わず机をぶっ叩きながら立ち上がる。


が、クラスメイトから変な目で見られることも、注目を浴びることも全くない。


だって、教室の中にいるの、俺だけだし。


ただ、これはこれで寂しいものがある。


こういう時は、多くの人から、「何やってるんだアイツ...」みたいな目で見られて、いそいそと座るという流れまでがお約束だというのに。


不満と寂しさが中和され、冷静になった俺は、ゆっくりと椅子に座り直し、再度思考を巡らせる。


「何が足りない。何をすれば、俺はラブコメの世界に行ける?」


俺は今まで自分なりに努力をしてきた。冴えない主人公になるために成績は全て中の上をキープしてるし、運動もそこそこくらいで今までやってきた。


放課後は意味もなく教室に残ってみたり、先生にさりげなく部活の勧誘をしてもらおうとしてみたり、唯一の親友ポジションの友達を作るために軽く話しかけてみたりなどなど、たくさんの努力をしたつもりだ。


だが、ヒロインが現れる気配なんて全くないし、クラスメイト、そして先生にまで避けられているのが現状だ。


俺は至って冴えない男子高校生に成り切っているのに、なぜ避けられるのか不思議でならないが...


「なんとかしなきゃだよなぁ...」


うーんと頭を唸らせながら十数分間考え続けた。


そして、得た結論が、人から避けられる要因がわからない以上、今はラブコメの方を考えようというものだ。


そして、そっちの方は解決策がないわけでもなかった。それが、自分から部活に入ることだ。


ただ、これをやらなかった理由として、テンプレに反するというものがある。


ラブコメの主人公は、先生が罰としてヒロインしかいない部活に入れたり、ヒロインが作った部活にいつの間にか勝手に入れられていたりなどなど、何もしなくても部活にはいるというイベントが確立している、気がする。


部活に入ることが物語の始まりとなっているのなら自分から入っても問題はないのだが、もし他人による入部が物語の始まりだとしたら、俺の目標は泡となって消えることになってしまう。


そのため、今まで実行に移したことはなかった。


「このまま去年みたいに何もないまま終わるくらいなら、夢を追いかけて爆散する方がマシだ!」


そう結論づくのにかかった時間はなんと1時間28分で、最終下校時間の5分前だった。


~~~~~~


「どの部活がいいかな...」


次の放課後、俺はまた1人で教室にいた。そして、校内の部活動一覧と睨めっこをしていた。


サッカー部、野球部、バスケ部、チア部などのメジャーなものから、パイ投げ部、危機一髪部、100って言ったら負け部など、変なものまで結構な数がある。


「とりあえず、これとこれとこれはなしで...」


といった感じで、メジャーなものはどんどん線で消していく。だって普通の部活って人数絶対多いから、部活の中でのキャッキャウフフな展開を期待することができないし。


かといってクセが強すぎるものもNGだ。そんなところに俺が入ったら、周りのキャラの濃さに負けて、俺はモブAとして一生を過ごすことになる。


自分の中で納得できなかったものはどんどん消していき、やがてひとつの部活にたどり着いた。


それが日本文化部。名前の通り、日本の文化を研究してみたり、実際に触れてみたりする部活だ。


行く部活が決まれば即実行。時間はまだ4時半くらいだからまだやっているはずだ。


俺は素早く荷物をまとめ、日本文化部へ向かった。



~~~~~~~


あれから4、5分間くらい廊下を歩いて、部室の前に来ていたのだが...


「どうやって入るべきか、それが問題だ」


という悩みを抱えたまま、棒立ちになって10分が経過していた。


普通に開けるのはあまりにも面白みがないし。かといって勢いよく開けるのは、最悪の場合空気が死んで、ラブコメ展開を作るどころじゃなくなるかもだし。


入り方なんてどうでもいいという人もいるかもしれないが、これは重要なことなのだ。ラブコメにおいて、第一印象というのは今後のストーリー展開に大きな影響を与える。第一印象最悪にすれば、今後は仲がだんだん良くなっていくうちに好きになるルートほぼ確定だし、最高だったらヒロインとただイチャイチャしまくれるルートになるし。これはしょうもないことに見えてとてもとてもとても大切な選択肢なんだ。だから決して入るのが怖いとか緊張してるとかそういうものではないのだ。


「す、すすす、すみません!」


その声は、自分に対する言い訳が終わった時、突然聞こえてきた。


慌てて聞こえてきた方を見ると、そこには本を数冊抱えたメガネ少女がいた。


上履きの色からして同学年だろう。見た目こそ普通だが、髪は艶々で綺麗な黒だし、肌もスベスベなどなど、容姿に気を遣っていることが見て取れた。


ひとつ、不思議なのが眼鏡だ。


こっちから見たら真っ白なレンズに黒のグルグルマークが書かれていて彼女の瞳が全く見えない。


あれをつけてるということはちゃんとメガネとして機能してるのだろうが、どのような仕組みなのだろうか。特殊な鏡みたいな仕組みなのだろうか。


「あ、あの...すみません、私そこに入りたいんですけど、そ、その、えと...ど、どいてくりぇましぇんか!?」


...噛んだな。緊張してると見える。これは図書室にこもって1人で静かに本を読んだる系のヒロインと言ったところだろう。


ここに入ろうとしてるということは、この子も日本文化部の人ということだろうか。


「あはは、ごめんね。邪魔だったね。すぐ退くから」


ラブコメ主人公の特徴1、先輩や先生以外にはタメ口!初対面でいきなりやるのは少し躊躇いがあるが、夢のためなら俺は躊躇しない。


そこにさらにプラスで爽やか笑顔をつけることで、確実な好印象を与えることができる!!


「あ、ははは....入部、ですか。それでしたら先生に入部届をもらって書いてまた持ってきてくださいというわけで先生のところに行ってもらってそれじゃあ私はこれでさようなら!!!」


彼女は見事に一息で素早く言い切り、まるで何かを避けるように俺が退いた扉に駆け寄り、急いで部室の中に入っていった。


「おかしいな。俺、先生には部活の子に渡しとくからその子からもらえって言われたんだけど」


てかそう言えば先生も俺に部室行けって言ってそのあとすぐにどっかいっちゃったな。みんな忙しい季節なのだろうか。


なんてしょうもない考え事をしていると、ガラガラと音を立てながら、部室の扉がゆっくりと開いた。


「あぁ、良かったぁ...まだいてくれた。」


そのセリフと共に登場した新たな少女は安堵したのか、胸に手を当てフゥと息を吐いている。


「君が新入部員君でいいかな?」


「はい、そうです。今日からお世話になります」


「オッケ〜今日から一緒に部活頑張ろう!って言ってもコレといってやる事ないんだけどね。ささ、入って入って」


そう言いながら、俺を部活の中に誘導してくれた。


「...何あれ」


中に入ると、先ほどの噛み噛み少女が本棚と壁の間に挟まって先ほどの本を読んでいる様子が見られた。


驚くべきは周りに置いてある本の数だ。溜め込み体質なのかはわからないが、100冊を裕に超える本がいくつも積み立てられている。天井もあり、見事に彼女の生活スペースを作り上げているといえるだろう。てか天井ってどうやって作ったんだ?


俺が勝手に彼女のお城について考えに耽っていると、僕の後ろから「新入部員君?」と声をかけられる。


そういやまだ入口にいたんだった。


なんだか恥ずかしくなって、僕は慌てて部室の真ん中ら辺まで歩みを進める。新入部員君呼びの方の彼女が、座っていいといってくれたのでありがたく座らせてもらった。


...てかそろそろ名前聞かないとどっちがどっちだかわからなくなるぞ。いや俺はわかるんだけどさ。ほら、ね?


ということで、相手の名を聞くときはまずは自分からということで、まずは俺から、自己紹介を行なうことにした。


「改めて、日本文化部に入ることになりました。高等部2年の寿雅って言います。これからよろしくお願いします」


「うんうん、よろしくね〜 私は相模原 秋葉(さがみはら あきは)っていうよ。私も高2なんだけど、ここでは一応、私が部長をやらせてもらってるんだ」


そう言いながら、彼女の目線は本のお城の方は向かう。そして、ほんの数秒眺めて、少し苦笑する。


「えっと、あはは...その、ね。彼女は1年の佐藤 鈴華(さとう すずか)っていうんだけどね。彼女、極度の人見知りというか、そもそもあんま話さないというか。まぁとにかくそんな感じだからさ、気を悪くしないであげてほしいな。多分、寿君が来て緊張してるんだと思うんだ」


「なるほど、仲良くなってから急激に距離が近くなるタイプと見た」


「え?なんか今言った?」


「いや、お気になさらず」


「そう?ならいいけど」


「そうです」


よかった。危うく聞かれるところだった...ただ、問題としてはこのやりとりのせいで気まずい沈黙は生まれたということだ。ここは気まずい空気をなくすためにも、改めて挨拶をしておくべきだろう。


「じゃあ相模原さんと佐藤さん。俺がここに来た理由は、ラブコメの主人公になるためですので、これから仲良くしてもらえたら嬉しいです。そしてゆくゆくは俺のことを好きになってもらってイチャイチャ出来たらなと思ってます。どうぞよろしく!」


決まったと思って2人の顔を見ると両者とも時間が止まったかのように動きが止まっていた。相模原さんは真顔で止まっていて、佐藤さんはページを捲りそうというところで止まっている。


佐藤さんについては腕絶対疲れるだろ...なんて思いながら数秒間彼女らの様子を眺めていると、2人ともゆっくりと首を動かしコチラを向き、両者同時に口を開いた、


「は?」


クラスメイトと一緒のリアクションだなあと心の中でつぶやいた。


とかくこうして、プロローグは終わりを告げ、俺の部活動生活兼ラブコメを目指す物語が始まったのだった。

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