第2話 社畜の新たなるジョブ

「……次のニュースです。昨年、議会に採決されました『異界(ダンジョン)開発機関民営化法案』が本日より執行されます。これより、ダンジョンへの探索、開発が民間企業も行えることにより……」


 俺は、何ともなしにテレビを見ていながら、この異界なる物が、そもそもの俺の不幸のきっかけだった……


 今から遡ることおよそ20年前。


 ノストラダムスか、なんやらの予言が騒がれている20世紀末。


 人々は、空から隕石が降ってくるとか


 宇宙人が地球征服しにくる


 とか、各々勝手に終末を叫んでいたが


 そんな人々に意外な終末が訪れた……


 そう、日本はもちろん、地球上のあちこちに異界……すなわちダンジョンが現れたのだ。


 それにより世界経済は、大混乱が起こり就職大氷河期が起こった。それにより、運悪く俺は就活に失敗したのだ……それから、俺はついさっきまで非正規雇用の連続だった。


 今では、それ以下のプー太郎だが……


 それはさて置き


 人々は、このダンジョンが何なのか?


 何故できたのか?


 そもそも、危険なモノなのか?


 人類は、この未知に最新鋭の軍隊を大勢投入して探索させたが、帰ってくることはなかった……


 その事実に人類は、恐怖した。


 このダンジョンをある人は


 神の国への扉だ! 近寄ってはならぬ!


 と、神聖視する者。


 またある人は


 ハデスの入り口だ! このままでは地球もハデスに呑まれてしまう! 即攻略すべきだ!


 と攻略を主張する者に二分された。


 それにより、互いに反発していた国々は、この未知を目の前に団結した。


 むしろ、争いの対象は国同士ではなくなり、人々のダンジョンへの対応へと変わった。


 もちろん大勢の科学者を用いて研究も始まった。


 そして、わかったことは、ダンジョンでは、地上にはないエネルギー……魔力なる物に満ちている。


 次に、そのダンジョンの中には魔力を纏った魔獣なる化け物がいる。


 その魔獣には、地上の武器では通用しない。おそらく、魔力のせいらしい……


 その事実に驚愕した人類は、世界中の科学者たちに魔力の解析をさせた。


 そして、つい数年前にある開発に成功した。


 ダンジョン探索用の武装……


「ジョブ」


 を開発した。


 人類がダンジョン内の魔力を自分の物にして魔獣に対抗できる様になったのだ。


 ジョブを手に入れた人類は、軍隊にジョブを与えて攻略させた。


 そこにある問題が起きた。


 ジョブを人類に施すと戦闘スタイルに個性……スキルが現れた。

 それにより、例え屈強な軍人を集団で探索させても全員後方支援型のスキルという事が発生した。


 しかも、ジョブは自分で選択できない先天性のモノなのだ。


 よって昨年政府は、国民にダンジョン探索の為に積極的にジョブの施しの政策を勧めた。


 そう、新しい職業


「冒険者」


の誕生である。


 日本政府は、冒険者就労祝金に100万円贈るとか、3年間勤めあげたら冒険者年金を施すなど異様に手厚い福利厚生の制度を作り上げた。


 そして、俺の目の前のテレビでは、それが今執行されたと言う事らしい……


 俺はスマホで詳しく調べてみると


 冒険者の適性年齢は、18歳から45歳まで


 男女問わず


 ダンジョン探索の前に、各地のハローワークの専用窓口


ギルド


で、冒険者登録をしてジョブを決める事……


 と言う事らしい。


 俺は目を閉じてしばらく今後の身の振り方を考えてみたが……


 まぁ、どうせ次も非正規雇用で馬車馬の様に使い捨てされるブラックよりも「冒険者」の方がホワイトなんじゃないか?


 と言う結論に至った。


 そして、俺は病院を退院した後、その足で地元のギルドへと向かった。


 ギルドは急ごしらえの馬鹿でかい建物にあった。


 受け付けのお姉さんに


「冒険者登録をしたいのですが……」


 と言うと、ほっこりする様な笑顔で


「まず年齢を確認できる物を提示してください……

 はい、ありがとうございます。


 では、こちらの書類に記入をお願いします」


 俺は書類には住所や家族、電話番号などありふれた事を記入した。


「こちらでよろしいでしょうか?」


 とお姉さんに書類を渡すと、お姉さんは確認した後


「大丈夫です。最後にジョブの選考を行いたいと思います。奥のドアに入って頂くと係りの者がいますのでその者の指示に従ってください」


 俺はお姉さんに言われた通り、奥のドアへと向かって、異様に分厚く重い扉を開けた。


 すると、そこにはスキンヘッドの屈強なおっちゃんが仁王立ちしながら異様な笑顔で


「地獄へようこそ! これよりお前が使い物になるか調べてやる! とりあえず、そこのカプセルに入りな!」


 カプセルと言うより棺桶に近い様なモノに横になると、おっちゃんは機械をいじりながら


「ガハハ、こんな身体能力しかないのか……これじゃ、すぐおっ死ぬな……な、何……!」


 と、何やらしばらく1人で騒いでいやがった。


 そして……


「おい、新入り! 出な!」


 と言われて、俺はカプセルから出ると、おっちゃんが真剣な顔で


「良く聞きやがれ! お前の『ジョブ』は……」

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