第3話 社畜……決意する!

「ビーストテイマー……魔獣使いだ!」


 と、おっちゃんは顔を真っ赤にして興奮した口調で言った。


 魔獣使い……?


 俺はニュースなどのテレビの特番で「ジョブ」の話は見た事ある……


 しかし、そのテレビでも魔獣使いなんて出た事なんてなかった。


 俺が理解に苦しんでいるのを察したおっちゃんが


「いいか! 新入り! 魔獣使いはな、スキルの特性で魔獣を懐かせる特徴がある!

 そして、懐かせた魔獣を使役できる超レアな「ジョブ」だ!

 だがな……懐かせるには、魔獣よりも強くなくてはならない……お前だって嫌だろ?

 自分よりも能無しが上司だなんて……

 魔獣もしかりだ!

 そこで、大きな問題が一つある……

 魔獣使いの身体能力は、個性にばらつきがある……

 その……何だ……言いにくいが、お前の身体能力は、普通の一般人と同じだと結果が出た……

 そこから、俺からお前に言えるアドバイスは……」


 俺はおっちゃんが、この一見現状不利な「ジョブ」の攻略法が何かあるのか!


 俺は、ワクワクしながら期待の眼差しで、おっちゃん見つめていると


「よーく、耳の穴をかっぽじって聞け……それはな……!」


 俺は全神経をおっちゃんの次の言葉に注いでいると……


「諦める事だ!

 ワンチャン、地上の様に銃火器が使えたら、可能性はゼロじゃないが……お前の知っていると思うが使えない……

 地上で訓練された軍隊も勝てなかったのを、一般人が勝てると思うか?

 ムリムリムリ!

 要するにお前は、冒険者に向いてないと言う事だ!

 わかったら、ハロワに戻って仕事探しな!」


 俺は、思いっきり期待が外れて肩を下ろしていると、突然背後から


「おやおや? 君は契約違反をして解雇になった新田君じゃないですか!」


 独特なねっとりとした嫌味な声が聞こえてきた。


 俺はまさかと思って振り返ると、そこには……


 俺が勤めていた輝黒商事株式会社営業部主任「瀬田川」がいた。


 あいも変わらず、薄くなった髪の毛を思いっきり伸ばしたバーコード頭が変に人を不快にさせる。


 毎回思うが見苦しいぞ? 瀬田川!


「新田君には失礼かとは、思ったのですが僕も話は聞きましたよ。魔獣使いとは、随分珍しい『ジョブ』ですね。それでも、新田君じゃ活躍できないのは当然だと僕は思いますけどね……!」


 と、瀬田川はクククっと、不敵に笑いやがった!


 流石に悔しいので、俺は自然と語気を荒げながら


「そもそも何で主任がこんな所にいるんですか?」


 と瀬田川を睨みながら、キツく問い詰めると


「主任? 一体誰のことです? 

 ああ、新田君は知らないんですか。僕は、今までの仕事の評価を受けて、輝黒商事株式会社の新事業……魔界開発冒険者サポートサービス部の部長になったんですよ! これからは瀬田川部長と呼んでね」


 と異様に嫌味な笑顔を俺に向けて送ってきやがった。


 ……ふざけんなよ! こんちくしょう!


「新田君に紹介しましょう!

 この3人が我が社の新事業のエースたちです!」


 と瀬田川の背後から、死んだ魚の目をした覇気のない二十代から三十代前半くらいの男3人組が現れた。


「今は僕含めて4人の部門ですが、彼らが成功したら我が社の新事業……そう、冒険者サポートサービスが評価されて……そして、それを足掛かりに徐々に出世して……

 そして、ラストに僕は取締役になると言う、サクセスストーリーが待っているんですよ!」


 キャハハ、と耳につんざく様な笑い声をこいつは放った。


 こいつが評価できたのは、俺や牧村が不眠不休で働いたおかげだろ?


 それもこれも、こいつのためなんかじゃねぇ……会社の為にやったんだ!


 その評価を奪って出世するなんて言語道断だ……!


 俺の頭の中は、一瞬で怒りに染まった!


「こんな出来損ないに構う時間は、ありませんねぇ……それじゃあ行きますよ、みなさん!

 それじゃあ、ご機嫌よう。ポンコツ君」


 その時、俺ははっきりと決意した!


 この様な、下衆な野郎を重用する会社はもちろん……


 瀬田川自身に俺がどれだけ優秀であるか……


 そして、その俺を馬鹿にしたのがどんなに愚かなことであったかを身をもって知らせてやる……!


 どれだけ、不利な「ジョブ」なんか知ったこっちゃねぇ!


 365日泥をすすりながら毎日働いてきた俺が評価されるべきのを奪ったのを後悔させてやる!


 その時俺は、瀬田川本人はもちろん、輝黒商事株式会社に対して一矢報いると心の中ではっきりと決意した。


 漢が、馬鹿にされて尻尾巻いて逃げるなんて絶対にありえない!


 俺は復讐心を糧に冒険者への道を一歩進むことになった。


 全ては、日々……労働によって搾取されている俺みたいな社畜が、本気で立ち上がればどうなるか!


 お前たち支配階級に知らしめてやる!


 社畜がただ狗ではないと言うことを……


 その丸々と太った体を食いちぎってやる!


 俺は分厚い扉を再び開けて外へ出た時……


 俺は、完全に社畜ではなく、1人の冒険者として大地に立っていた……!


 俺の心は一つ……


 目指すは、魔界……ダンジョンへと向かっていた!

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