社畜の俺が会社に謀反を起こして、冒険者になって復讐する

呉根 詩門

第1話 社畜の終焉

 もう……ムリだ。


 時計の針が12時を、指している。


 言っておくけど、お昼の12時じゃないぜ。


 深夜の12時だ。


 広いオフィスに俺「新田 一」と同僚の「牧村 慎二」が生きる屍の如くパソコンに向かって仕事をしていた。


「なぁ、牧村……」


 俺は、パソコンに向かって、取引先への見積もり書を打ち込みながら、ため息と共に口から溢れた。


「ああん……?何だ、一?」


「お前が、最後に家に帰ったのいつだ?」


「知らねえよ……もう、数えるのも諦めた」


「俺もだ……なぁ、最近、働き方改革とかってあるらしいけど美味しいのか?」


「知らねえよ……食ったことねぇ……」


 俺たちの会話は、そこで終了して無言の中、タイピングの音だけがオフィスに響いていた。


 俺は、所謂ブラック企業の営業員。


 俺が、新卒の頃は、平成不況の就職大氷河期だった。

 何をどうしても内定が取れなくて、非正規雇用で会社を転々として20年……


 いつのまにか、アラフォーになってしまった。


 そして、俺の転職の末が、この日本有史屈指のブラック企業


 輝黒(てるこく)商事株式会社だ。


 終わらねえ……この見積もりをやったら、明日の営業先の資料を作って……その後、ろくに仕事もできないハゲ主任に報告書書いて、明日提出しなくては……


 おかしいな?何だかPCのモニターがぼやけて見える……老眼が始まりやがったか?


 くそぅ、頭痛まで襲ってきやがった。流石に不眠不休で働いて、限界が来たか?


 仕事に追われているが、少し仮眠をとるか……


 俺は、デスクから立ちあがろうとしたら、俺の視界が急に反転した。


----おい! 一! 一! しっかりしろ! ----


 俺の耳には、遠くから牧村の叫び声が聞こえた。

 

 ----牧村、うるせえよ! 早く仕事を片付けないと、明日が…… ----


 しかし、俺の考えは、言葉になることはなかった。

 俺の視界は、白く染まり意識は、徐々に暗く闇の中に沈んでいった。


----


 ん? 何だか眩しい……しまった! また、寝落ちしたか?

 早く、働かないとクライアントからクレームが……!


 と、体を起こすと……そこは会社ではなかった……


 無機質な白に統一された……どう考えても、病院のベッドの上にいた。


 ? 一体、何がどうなってやがる?


 俺は状況を理解しようと、視線を周りに探っていると


「大丈夫ですか? どこか体調がおかしいところは、ありませんか?」


 まるで、天使の様な微笑みを浮かべて、看護師のお姉さんが声をかけてきた。


「おかしいも、何も俺は会社にいたはずなのだけど……とにかく早く会社に行って仕事をしないと……」


「ダメです! 安静にしてください! あなたは3日間も昏睡状態だったんですよ!」


---- 3日だ……と ----


 俺は、看護師さんの言っている言葉の意味を理解するのに数分かかった。


 なんてことだ! 3日も会社を休んだのか? あのねちっこい嫌味な主任の事だから、何をされるか想像するだけでも恐ろしい……早く働かないと!


 俺は、ベッドから立ち上がろうとするが、足腰に力が入らない。


「看護師さん、俺、早く会社に行かないと……」


「ダメです! 最低、後3日は休んでください!」


 そして、看護師さんは無理矢理、俺をベッドに再び横にさせると


「とにかく寝てください。何かあったらそこのボタンを押してナースコールで呼んでくださいね」


 と、最後に安心したかの様な笑顔を、俺に向けて去って行った。


 俺は、これからの仕事をどうするかを悩んで、寝る事はできなかった。ただただ、知らない天井を眺めていると


「おお! 一! 生き返ったか!」


 と、見知った馴染みのある声が聞こえてきた。


 声の先に視線を向けると、くたびれたスーツ姿の牧村が喜びに溢れた笑顔を送っていた。


「一! 驚いたんだぞ! 急にお前が倒れて慌てて救急車を呼んだんだ」


「そうか……すまなかったな。早く、会社に行って働かないと……」


 その俺の言葉を牧村が聞くと、悲痛な顔になった。


「一……実はな……お前はもう、働かなくてもいいんだ……」


 ん? 働かなくてもいい?


「牧村? 一体どう言うことだ?」


「一……落ち着いて聞いてくれよ。俺やお前は契約社員だろ。会社は、労基がガサ入れするのを恐れて、お前が倒れたのがわかると即契約を解除したんだ……」


 何を言っているのかわからない。契約解除だと……


「会社は、退勤後に私用で会社のパソコンを使っていたから、契約違反……と言う事にしたらしい……」


 な、何だと……


「だからお前の治療も労災はおりないと言う話だ」


「それじゃ、会社は退職金や何の見舞金もなく、俺は用済みだと言うことなのか?」


「残念ながら……」


 ふざけるなよ! 毎日、毎日休まずに必死に働いて、壊れたら捨てる……そんな話あっていい話じゃない!


 俺は、一気に頭に血が上った。


 そんな俺を、牧村は憐れむ様に


「俺に出来ることは協力する。とにかく今は寝て、休む事だ。その後はその時考えれば良い」


 そして、牧村は「ごめん、外回りの途中だから会社に戻るわ」と言って出て行った。


 俺は、いきなりの無職になっちまった。途方に暮れて頭が真っ白になりながらしばらく宙を眺めていた。

 頭に占めるのは、将来の不安……


 俺は気を紛らわす為にテレビをつけると


 『そのテレビが俺の人生をガラリと変えることになった』

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社畜の俺が会社に謀反を起こして、冒険者になって復讐する 呉根 詩門 @emile_dead

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