第3話「解ける雪」



山田巡査部長は15年間の警備経験で、これほどの違和感を覚えたことはなかった。


監視カメラの映像に映る男。確かに元職員の園田だ。三年前の事故で死亡したはずの男が、なぜここに。


「温度管理システムの記録を確認してください」

彼は部下に指示を出した。データが示す異常な温度変化。それは事故があった日と同じパターンを示していた。


展示室の温度は通常の22度から、ゆっくりと18度まで下降。その瞬間、防犯システムが作動した。しかし警報は鳴らない。


「待ってください」

山田は古いシステム設計図を取り出した。

そこには、誰も知らない回路が描かれていた。


「これは罠だ」


園田は死んでなどいなかった。彼は三年の時を経て、復讐のために戻ってきたのだ。


温度管理システムの異常。それは園田が仕掛けた罠の一部だった。

彼は三年前、名刀「雪月花」の修復中に事故を装って姿を消した。


「園田は最初から、この日のために準備していた」

山田は警備記録を確認する。

三年前、園田は警備システムのアップデートを提案していた。その際、彼は密かに裏プログラムを埋め込んでいたのだ。


「木村刑事!」

山田は通信機を握りしめた。

「園田の目的は名刀だけではありません。彼は...」


その時、美術館全体が真っ暗闇に包まれた。

予備電源も作動しない。完全な停電――。


しかし、展示室だけが青白い光を放っていた。

紫外線に反応する物質が、壁一面に浮かび上がる。


そこには巨大な雪の結晶が描かれ、その中心に意味深な言葉が。


『真実は氷の下に眠る』

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