中編

 公爵を継いだ義理の父は、使用人達を全員入れ替えると、私の部屋を義妹の部屋にし、私から何もかもを全て取り上げ、使用人すらも使わないあばら家の小屋に押し込め、使用人達に食事だけを与えるように命令した。


 いや、食事を運んでくるメイドがこれみよがしに目の前で捨てて嘲笑っていたから、食事なんて与えてくれなかった。


 きっと、義妹が使用人達に指示したことなんでしょうけど。


 だって、毎日のように小屋に来ては、みすぼらし格好をする私を虐めていたから。


 そのため、私は使用人達がいないタイミングで公爵家のゴミ集積所を枚に壱訪れ、着る服や日用品を見繕って生活をしていた。


 そして、お母様の形見である転移魔法が付与されたネックレスを使い、国境沿いにある森に転移し、そこで食材を取って飢えをしのいだり、森に流れている川で洗濯や体を洗ったりした。


 最初は抵抗があったけど、生きていくためには仕方ないと腹を括ってからは慣れるのにそんなに時間がかからなかった。。


 というのも、幼い頃から亡きお母様とよく森に訪れており、お母様から森のことや薬草に関することをたくさん教えてもらった。


 実は亡きお母様は隣国の侯爵家の出身で、その家は代々薬草研究に精通しており、お母様もお父様と結婚していなかったら薬師になろうとしていたらしい。


 そんなお母様から教わっていたお陰で、森で食料を探すのはお手の物だった。


 また、寂しさを紛らわせるために平民の振りをして市井に遊びにも行った。


 当然、義理の家族や使用人達に見つかることは無かったけど。


 一応、婚約者である殿下には『突然、重い病にかかり、現在領地で静養しております』と伝えたいるらしい。


 実際は、義理の父の命令で屋敷に入ることが一切許されず、毎日義妹や使用人達に虐められながら、あばら屋根の小屋の中で静かに暮らしているだけなんだけどね。


 そんな貴族令嬢とは思えない地獄の生活をしている間、義妹は私の友人を自分のものにし、社交界に『私が義妹を虐めている』という噂を流して私の居場所を無くして殿下に言い寄った。


 まぁ、殿下とは顔合わせの時にしか会わなかったから、それを使用人から聞いた時は何も思わなかった。


 顔を見た直後、私に向かって『お前みたいな地味な奴と誰が結婚するか!』と言われ、それからは『王太子教育で忙しい』という理由で会わなくなったから尚更。


 それに、義妹のような可愛さと妖艶さを兼ね備えた容姿の女性が好みだなのは何となく知っていたから、『聖女』という肩書きを持っている義妹が殿下の婚約者になるのは時間の問題だと思っていた。


 そうして8年後、私は大勢の前で婚約破棄されて追放された。



 ◆◆◆◆◆



「ほら、もう二度とこの国に来るんじゃねぇぞ!」



 騎士に連れられて会場を出た私は、予め用意されていたみすぼらしい馬車に無理矢理乗せられると、そのまま国境沿いにある深い森に捨てられた。



「痛いなぁ。一応、この国の公爵令嬢だったんだけど」



 みすぼらしい馬車を見送った私は、動きやすいようにドレスを破ると辺りを見回した。



「でもまぁ、ここに来られたのは良かったのかも。だって、幼い頃から通っていた森だし」



 そう言って、雪の降る夜の森を観察していると、遠くの方で小さく光っている草を見つけた。



「あ、あった! 『ヒカリグサ』と『魔除け草』!」



 生えていた光る草に駆け寄った私は、その草と隣に偶然生えている魔獣除けの草を丁寧に採集するとその光を頼りに通い慣れた森を歩いた。


――やっぱり、雪は嫌いだ。私から何もかもを奪ってしまうから。



「早く目的地に辿り着きたいんだけど……あった!」



 凍える寒さの中、両腕をさすりながらしばらく歩いていると小さなログハウスが見えてきた。


 その場所は、お母様がお父様に頼んで作ってもらったお母様専用の研究所だ。



「ここが今日から私の家になるのよね……って、寒いからとりあえず家に入らないと!」



 凍えた体を温めようと家に入った私は、すぐさま暖炉に火をつけた。


 すると、オレンジ色の炎が冷えた室内を少しずつ温め始めた。



「ふぅ、生き返る~」



 暖炉の火にあたって一息ついた私は、今後のことを考える。



「とりあえず、隣国の薬局に置いてもらえるような薬を作らないと……あっ、その前に、隣国に入るための試験に合格して、薬師の資格を取らないと!」



 ――確か、隣国では試験に通って、正確に問題が無いと判断されればワケアリ令嬢でも平民として国に入れる許可証が貰えるし、『平民でも勉強すれば資格が取れる』って随分前にお母様がおっしゃっていたわ!



「そうなると、今の目標は試験を突破することね……うん、何だか忙しくなるわ!」



 雪が振る日、公爵令嬢として全てを奪われた私は、生きるためにお母様がなりたかった薬師になろうと決意した。


 それから5年の月日が経った。

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