雪の日に婚約破棄と国外追放された私の話
温故知新
前編
――雪の日は嫌い。
雪は私から何もかもを奪う。
大好きな両親も。
仲が良かった使用人や友達も。
両親からプレゼントも。
私の好きな物をたくさん詰め込んだ居場所も。
公爵令嬢としての立場も。
そして、1度しか会ったことがない婚約者との縁も。
「ネーヴェ・スノーホワイト! 貴様は義妹であり、この国の『聖女』であるビアンカ・スノーホワイトを長きに渡って虐げてきた! よって、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」
雪の降る大夜会の日、久しぶりに屋敷に外に連れ出された私は、大勢の前で婚約破棄を言い渡された。
――ついに、この時が来たのね。
この世界で味方が誰もいなくなった私にとって、この時が来ることは分かっていた。
幼い頃に顔合わせの時に会った婚約者の成長した姿と、彼の忌々しそうな表情を見て、私は貴族令嬢らしく頭を下げた。
「謹んでお受け致します」
両親がまだ生きていた時に家庭教師から教わったカーテシーをした途端、大夜会の警備をしていた騎士から両腕を強く掴まれた。
「痛っ」
男の人に強く掴まれて顔を歪ませる私に、婚約者が不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン、それならさっさとこの国から出ていくんだな!」
「お姉様ぁ〜、言いつけを守れなくてすみませぇ〜ん。でもぉ、私ぃ、これ以上耐えきれなくてぇ、ヴァイス様に泣きついちゃいましたぁ〜」
「ビアンカ、君はなんて健気なんだ! 君こそ私の妻に相応しい!」
「ヴァイス様ぁ〜」
――何だ、この茶番は。
婚約者の……いや、元婚約者の隣に立ち、殿下から贈られたであろう豪華なドレスに身を包んでいる義妹は、何も知らない赤の他人には、私から虐められていた事実を今の今まで隠していた健気で儚い聖女様に見えるだろう。
けれど、義理の両親から贈られたみすぼらしいドレスを着ている私には、『申し訳ない』と口にしながらも勝ち誇った笑みを浮かべるいつもの義妹にか見えなかった。
――あぁ、また雪の日に奪われた。
「だから嫌いなのよ、雪の降る日は」
2人の騎士達に引き摺られ、大夜会の会場を出た私は、しんしんと降る雪を睨みつけた。
◆◆◆◆◆
今から8年前、10歳の誕生日を迎えた翌日、雪が降る中、馬車を使って領地視察に行っていた両親は、帰りに山道を通った時に雪崩に巻き込まれ、そのまま帰らぬ人になった。
今思えば、聡明な両親が雪の日に領地視察に行くことも、その帰りに山道を使ったことも不可思議でしかなかった。
どう考えても誰かが意図的に両親を殺めようとしたに違いない。
きっとそれは、今の義理の両親だろう。
そんな憶測を当時の私が考えられていたら良かったんだけど、大好きな両親がいなくなった悲しみに陥って出来なかった。
そんな胸を抉るような悲しい出来事が起きて1ヶ月後、両親の喪が明けた日に突如、今の義理の家族がスノーホワイト公爵家に押しかけてきた。
その日も雪が降っていて、父の弟であり、私の叔父にあたるその人……今の義理の父は、家族を連れて来るないなや、『亡き兄からの遺言で、今日からスノーホワイト公爵家はネーヴェではなく私が継ぐ!』と父が遺したであろう遺言書を持ってきた。
義妹がこの時この国では珍しい『聖属性』を持っていて『聖女』として認められたことと、 唯一の後継者である私自身がまだ感情の整理がついていなかったことで、半ば押し切られる形で叔父家族がスノーホワイト公爵家を継いでしまい、叔父家族は私の義理の家族になった。
その時には既に殿下と婚約していたので、スノーホワイト公爵家から追い出されるようなことは無かったけど、叔父家族が来てからは正に地獄の日々だった。
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