その2

「アガガ……」


負け、負け、負け。右隣の台から鳴る脳が決まる勝ちを知らせる音に耳をすませ、クズは白目になっていた。

ほとんどの財産を溶かしてから泣いて詫びたってそれは戻ってこない。


「ああ、隣の台は利口だ。自惚れているが良い。俺の台は死んでいるのに。ふざけるな、本来お前が座る席は俺が選ぶはずだっだんだ」実際に口にはせずとも、クズが出すオーラはそれを隣に座るオッサンにと届いただろう。けれど、オッサンもまたパチンカス。

当たり台を別のパチンカスに譲る道理はない。


そうしてまたも、クズが台を壊そうと体を動そうとした時だった、右ポケットに入れたスマホに振動が走る。


「誰だ、俺の邪魔をするのは」クズは激怒した。激怒しながら、スマホを手に取り、文句の1つでもつけてやろうと思った。


電話だ。電話をかけてきたのは恋人である金柱芹かねばしらせりであった。これを好機とみたか、クズは追加の金を求め電話にでる。


「もしもし芹、ちょっとお金が―――」

そんな一言をクズが発した時だった。


「黙れ下賤げせんのクズめ」という低い男の声がかえってくる。


「私は芹さんの本当の彼氏だ、よくも今まで俺の芹さんを脅して思うままに扱ってくれたな」

「なんの事だ。お前は誰だ」


芹に変わって電話をする男に、クズは問うた。


「私は、王君暴者おおぎみあばれんじゃーだ。この名、忘れたとは言わせない」

暴者は、怒りを露わにして、答えた。


「暴者だと!?まさか…!そんな」


クズは、震えた。


「暴者って…!めちゃくちゃ面白いんだけど…、ふざけるにしてももっとまともな名前考えろよ!で、お前誰なんだよ?」


こいつはクズであった。


「なんと、やはり私に人の醜さを教えてくれたのは、お前だ。そのふざけた口調も、電話越しですら誠実さを欠片も感じさせないその態度。やはり許すことは、できない」


暴者は、溜息をついた。


「これを見ろ、今このホテルに芹さんがいる。彼女はすっかりとお前に毒され、今の今まで、泣いて必死にお前に助けて求めていたんだ。私はもう彼女は既に手遅れだと気づいた。だが、お前の醜い部分を直接に見れば彼女も幻滅するだろう」そう言って、暴者はビデオ通話に変えると、ベッドの上で手足を縛られ、口を封じられている芹の姿を写した。


これに、流石のクズも不味い状況だと気づいたか、声を上げる。


「何のために、そんな事をする?そんなことをしたってお前に芹の心が傾くことは無い。お前が誰かは分からないが、芹に手を出すな」


そんなクズに対し、「黙れ!口ではどんな強がりでも言える。私にはお前の醜い部分が伝わる。背後から聞こえる音、どうせ昼間からパチンコでも打っているのだろう?お前が芹さんを失ってから泣いて詫びたって許さない」と暴者は答える。


クズは人生において、何度目も壁にぶつかってきたがこんな事は初めだ。パチンコを打つ手が震えている。


「俺は芹を信じている。けして彼女が俺を裏切ることなどないと。お前のいる場所さえ分かれば今に向かってやる」


「ばかな」と暴者は、高笑いをした。

「それならば教えてやろう。私は今カス街のクッソカスにあるエッッホテルの101号室にいる」

「俺は約束は守る。今からあときっかり3時間経つ頃には芹を迎えに行こう。セリは俺を待っているのだから」


それを聞いて暴者は、呆れるような気持ちで笑った。

「3時間もかかる距離では無いだろうに。どうせ、時間ギリギリまでパチンコでも打つのだろう?ほら見た事か、こいつはとんでもない屑だ。その時間までに帰ってこなければ芹さんはお前に失望し、この私のものとなるだろう。…いや、付け加えてもしお前が遅れて来れば10年はパチンコを打つのに困らない様な大金をくれてやっても構いやしない」

「いいだろう、しかし俺は金に負けることなどは絶対にありやしない。お前の期待通りなんかにはなるか」

「はっ、クズが何を言うか」そうして、電話は打ち切られた。


クズは口惜しく、台パンをした。

言葉も出なかった。

確率が収束し、台に確変が起こったのだ。

キュインキュイン、その音がクズを唸らせる。早くその場を離れなければいけないのに、台が自分を離してくれないことをクズは憎んだ。


しかしついにクズは覚悟を決めた。

無駄にした分がプラスになったら向かおうと。




























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