走れクズ

ゆずリンゴ

その1

クズは激怒した。必ず、この竹頭木屑ちくとうぼくせつの中々当たらない台で1儲けするまで家に帰らぬと決意した。


クズにはパチンコかギャンブル以外のお金の増やし方がわからぬ。クズは、女のヒモである。高3の頃にできた彼女を手駒にし、女と遊んで暮らしてきた。

そして、彼女にお金を貰って自分はギャンブルに没頭するクズであった。

今日未明、クズは彼女名義の家を出発し、歩道橋を超えハローワークを超え、一キロ離れたパチンコ店にやってきた。


クズには学も常識も無い。しかしお金持ちの彼女はいる。

ひとつ上の、大手企業の一人娘の彼女と二人暮しだ。


彼女は、街にある店でプレゼントを買いに行った。今宵迎えるクリスマスパーティのためである。付き合ってから5年と1週間記念日でもある。


しかしクズは、彼女にプレゼントを買いに行く訳でも無く、最近出た評判のいい台のためにはるばるパチンコ店へやってきたのだ。


先ず、その台を見て回って、当たりそうな台を直感で見極めた。

クズには長年の癖があった。1度決めた場所の右隣を選ぶ癖だ。

今回も、そうするはずだった。


2日ぶりのパチンコ、久しぶりなのだから楽しみだった。

しかし、直感で決めた台の右隣は埋まっていた。

クズは恨んだ。人気な台はなぜこうも埋まるのが早いのか、 世界の定めを恨んだ。

もう既にほとんどの台は埋まり、オッサンが皆ひっそりと、そして時に騒がしくしている。

新台が追加されたのだから台が埋まるのも、いつも通り騒がしいのも当然なんだか、店全体の空気が「今なら当たる!いける!今日は5万負けしない!」という雰囲気を出している。

パチンカスであるクズも、直ぐに代を打ち始めた。


けれども台はの答えはこうだ。外れ、外れ、外れ。


この結果にクズは激怒した。


「呆れた代だ。そもそも俺はこの台で打ちたかった訳じゃない」


葛菜塵芥くずなごみはパチンカスのクズであった。

クズは今座る台を、そしてその右隣に座るオッサンの事を恨んだ。

そして今日は勝てるまでこの台から動かないと決めた。


たちまち彼の手持ちは溶けた。金を入れては、確変に至ることも無く終わる。

怒りに触れ、クズは台に八つ当たりをしようと暴れる。

たちまち彼は、見回る店員に捕縛された。


台を壊す前だったので、騒ぎは大きくならなかった。クズは店員に注意されるだけで済んだ。


「次は、暴れないでくださいね」

「俺は悪くない。台が悪い」


けれどもクズは反省しなかった。


注意もされ、台は当たらない。クズの怒りは頂点に達し、それに反応するかのようになぜか便意も頂点に達した。

クズは便秘であった。それは嫌いなものを食べないバランスの悪い食生活から来るもの。


クズは台から離れたくない気持ちを抑えトイレに向かった。


「このトイレで用を足すのか」


クズは静かに、けれども焦る気持ちでトイレの前で躊躇ためらっている。

そのトイレは汚い。汚いオッサンが汚く使ったトイレは、色々な物が色々なところに飛び散ってる。


長い苦痛便秘から身を救うのだ』と脳がクズに司令を出した。

「この汚いトイレでか?」クズは自分の脳からの司令を鼻で笑った。

『仕方の無い人間クズだ。汚いものを使いたくないという欲と人間としての尊厳、どちらを取ればいいのか、そんなことすらクズには分からない』

「言うな!」とクズは発狂した。傍から見れば1人トイレの前で叫ぶ頭のおかしな人間。


そんな時、「トイレ…トイレ…!!」と言いながら腹を抑え走る男が後ろから一人。先に入られるのは嫌だ。クズはトイレに駆け込んだ。


クズは落ち着いて、そして溜息をついた。

「なんだ、いつの間にか綺麗になっているじゃないか」


長い間行くのを拒絶していたトイレは、いつの間にか美しく、綺麗に変わっていた。


そうして、美しくなったトイレに気分を良くしたクズは、改めてパチンコを打つため台へと向かおうとする。


『おいおい、これ以上あの台に金を溶かすのか?時間と金の無駄だ!諦めて別の台に行けよ』

『いえ、確率はいつか終息するものです。諦めずに打ち続ければいつか勝てます』


その時、クズの脳内を生きる天使クズ悪魔クズが誘惑を持ちかける。


「黙れ、俺は今日、勝つまであの台を打つと決めたんだ」


天使はホッとしてクズの行く末を見守った。




















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