マッチ売りの少女を救うために僕は物語介入(ストーリーインターベーション)する
睦 ようじ
第1話
「マッチ、マッチはいりませんか?」
灰色の空、白い雪の降る中に少女のか細い声が聞こえる。
(どうしよう……脚も冷えてきたし、お父さんに帰ったら怒られちゃう)
少女はそんな事を思いながら、通っていく人々にマッチを差し出す。
だが、小さい手を取ろうとするものはいない。
「お腹……すいちゃったな」
人が少なくなった路地で呟いた。
「そうだ!マッチをすって暖かくなろう!」
少女はマッチを擦ろうとした瞬間
「はーい、ストップ」
少年の柔らかい手が、少女の手を包んだ。
「誰……ですか?」
そこには黒髪黒目の無い異国の人間がいた。
「そこで吸っちゃあ駄目だよ。まぁ、売り物は悪くないが」
「は?」
少年は少女の脚についた雪を払う。
「あーあ、脚が真っ赤になっちゃって。このままじゃ生きてても脚がヤバい事になってたよ」
「で、でもこれが売れないとお父さんに怒られちゃう」
少年は少女の頭をポンと叩く。
「お父さんはそんな事言った?」
少女は少し黙ると首を横に振る。
「でも……怖いから帰りたくない」
「よーし、分かった」
少年は口の端で笑うと指を鳴らす。
「不条理を条理に、悲劇を喜劇に。
我が魂、今の自分といつかの何処かの誰かの明日のために。
九条いのり、
いのりと名乗った少年が指を鳴らすと、景色が変わっていき暖炉の板になる。
「は?へ?」
少女はいつの間にか木の机に座っていた。
脚が温かい。
下を見ると、裸足にはお湯が流れていた。
「お湯なんて……ぜいたく」
「この時代じゃ、めったに無いからね。後、これもどうぞ」
テーブルにはチキンと茶色いスープが置いてあった。
少女は手を出そうとして、止まる。
「あの……ナイフありますか?」
「なんで?」
「お父さんたちにも食べさせてあげたいなぁ……って」
「お人好しだね、キミは」
いのりは嘆息すると、包み紙とナイフを渡した。
□◆□
「さて、落ち着いたかい?」
「はい……何か食べたらほっとしました」
「よろしい、それじゃ」
いのりは、前の画面に明かりをつける。
「さっそく、『チキチキ、マッチを売って大もうけしようぜ』ブレーンストーミングを行いまーす!」
「……は?」
少女は耳慣れない言葉と大きな声に呆然とした。
「さて、キミ。マッチは何のためにある?」
へ?とした顔で少女は考える。
初めてそんな事を聞かれた気がする。
「え、えーと……火をつけるため・・・・・・ですか?」
「はい、そのとーり!」
いのりはテンション高めに拍手をする。
「あ、ど、どうも……」
「さて、続いてその火で何ができるかなッ!?」
「えーと……」
少女は考える。時間が長く過ぎていく。
「分からない?」
「……」
少女は小さくうなづいた。
「それもいい。じゃあ僕から3つ使用方法を
1:家を燃やす
2:肉を燃やす
3:木を燃やす
こんな感じかな?」
「か、過激ですね……」
「え、たまに思わない?腹立つ野郎ども!あいつらなんか家ごと燃えちまえー!
って……まぁ、やったら犯罪だけど」
大きく手を振る彼に思わず少女は笑った。
ふと、少女は家を燃やして父が慌てる姿を想像してしまい首を振る。
「あ、あの……木を燃やすので、暖かくなるかと」
「よーし、暖かくなるとお腹が」
「すきます!」
少女は、目を輝かせながらいのりに食いつく。
「じゃ、やる事は一つだ。キミはさっきマッチを売っていたが使い方を言ってないよね?」
「あ……気づきませんでした」
「別にいいよ、さ、改めて売り方を考えよーかー!」
「みなさーん!マッチいりませんかー!」
大声で少女は叫ぶ。
「肉を買ってのまさかの際に!この聖夜のミサのろうそくの予備に!マッチ!マッチ!は入りませんかー!!」
周りの人が慌てて振り向く。
「20箱購入してくれた方には、元聖歌隊の私が歌を歌いまーす!」
「あ、じゃぁ儂が買おう」
「ありがとうございます!」
「私、3箱いただけるかしら?」
「あ、はい!」
こうして、マッチは売れ少女の声は鳴り響いたのである。
朝
少女は、眠っている。
安らかな死では無く、小さな寝息が聞こえている。
「これをしたからって、彼女の苦労は変わらないのだけどね」
いのりは頭を撫でる。
「だが、これで物語の絶望が一つ消えた。まぁ、何とかなるだろうかな」
「あ、あの……」
小さな声が聞こえる。どうやら目が覚めたようだ
「お兄さんにも買ってもらいたいのですが」
「マッチかい?まぁ、いいけど」
「いえ……その……」
少女は、顔を染めていのりの服を軽くつかむ。
「私を……なんですが」
「は?」
「いつもなら、かーなーり高いのですけど……その……お兄さん私好みの顔ですし、今回はただでいいですから!」
「あー……気持ちは嬉しいけど、そういうのは大事にした方が」
「問題ありません!」
少女がいのりを伏せようとした時、バチリと電流が走った。
「うーん……
「いも……せ?」
いのりは、後ろに背負っている刀を指差す。
「ま、僕にも色々あってね。呪いがかかってるから」
「ひか……え?」
いのりは笑顔を浮かべると、パチリと指を鳴らし門を開く。
「んじゃ、また」
いのりは手を振ると、少女に笑って消えていった。
「何だったの……」
少女は少年を思い浮かべる。
顔が浮かばない。
「あれだけのことがあっても」
でも、必ず。
少女は、どこかで会おう。
そう思った。
マッチ売りの少女を救うために僕は物語介入(ストーリーインターベーション)する 睦 ようじ @oguna108
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