第4話 αテスト 開幕

妖怪三人娘の前で彼がプレゼンしてから半年。

怒涛のデスマーチを経て遂にテスト用ダンジョンが完成した。

ダンジョンの場所は、なんと国会議事堂の真下である。


しかし、地上にある国会議事堂との繋がりは今は無く、ダンジョンのセントラルルームからのアクセスのみが可能になっている。

そもそも、国会議事堂の地下と言っても異なる位相なのでもし掘削作業が行われても人類がそれに気付くことは無いだろう。

今の人類の技術力では、このダンジョンを発見することすら不可能なのだ。


そう。オープンの日を迎えるまでは……。


「しまった。真っ暗で何も見えない……。うおッ!?」


ダンジョン第1層はシンプルな碁盤目状の洞窟をイメージして製作されたものの、彼は早くも躓いた。

そう言葉の通り物理的に転倒したのだ。それはもう見事に。

真っ暗故にゴツゴツとした床の出っ張りに気付かなかった彼の記念すべき第一歩直後の感想は床の硬い感触だった。

直ぐにポケットに忍ばせていたスマホを取り出してライトを点灯させる。


「駄目だ。光量が足りない」


スマホのLEDライトでは僅かな範囲を照らすだけで周囲の状況がまるで確認出来なかった。彼は即座にセントラルルームへ引き返すとヘッドライトを持って戻る。

再度、暗黒の第1層へ降り立った彼はヘッドライトを点灯。

広角モードにして視界を確保する。

それでも光の届かない場所は吸い込まれそうな程の闇に支配されていた。

取り敢えず、第1層にモンスターを配置しなくて良かったと彼は胸を撫で下ろした。

もし、モンスターを配置していたら視界ゼロからの奇襲で今頃はタコ殴りに遭っていたかもしれない。

発案者兼設計者が初手それでは笑い話でしかなく、こんな事が百々と三依に知られたら暫くはこの話題で弄られる事間違いなしだ。


「――魔法で代用するか? いや、何か別で……、恒常的に灯りになるものが必要だな。ダンジョン壁そのものを薄っすらと発光させるか?」


人類にモンスターを倒させるのが目的のダンジョンである以上、灯り無しで視界の確保が出来ないと言うのはストレスでしかない。

文明の利器? そんなもの壊されてしまえばただのガラクタでしかない。

ダンジョンへ挑むのは選ばれた者ではなく、老若男女誰もが挑戦出来るよう間口は広くする必要があるのだ。


テスト用ダンジョンは第10層まで製作してあり、最後の第10層にはボスまで配置したというのに、いきなりの改善案件だった。

なお、魔法については未実装である。

大系は完成しているがセントラルコアによる概念形成が終わっていない。

なお、アルファテスト中には実装予定。


地下洞窟をイメージしたテストダンジョンはじっとしていると若干の寒さを感じる程度の気温だった。

移動するのに身体を動かしたり、モンスターと戦えば丁度良いかな。等と思案しながら彼はヘッドライトの灯りを頼りに進んでいく。

碁盤目構造なので迷う事は無いと思っていた彼だったが、それが大きな間違いだと直ぐに気付かされる事になる。

適当に右折左折を繰り返していたら現在位置が分からなくなったのだ。


「ま、迷った……」


ヘッドライトの灯りしかないという事もあるが、それ以上に空がなく何処を向いても同じ光景というのは単純な構造であればあるほど方向感覚を失い迷うらしい。

RPGで言うところの神の視点というのは恐ろしく合理性があったのだと思い知らされる。


「仕方ない。――マップ表示。それから俺の現在位置を緑点で表示」


左手の上に碁盤目構造のダンジョンマップが立体的に表示され、彼の位置が緑点で示される。


「――ん? 立体表示はリソースを食う? なら頭の中で処理するようにするか。変更出来るかな?」


突然、誰かと会話を始める彼。

しかし、彼の周りには誰も居ない。

その相手はセントラルコアのminoriだ。

minoriはセントラルルームで彼の行動をモニタしているので、マップ表示について意見してきたのだ。


「それなら直ぐ可能? よろしく頼むよ」


彼の左手の上に表示されていたマップが消え、今度は頭の中に直接マップが表示される。


「お。これは見易くて良いな。両手も使えるし」


頭の中に表示されたマップを頼りに進んで行く。

しっかりと彼自身を示す緑点が移動し位置がズレていない事も確認する。

それから彼は虚空から剣を取り出し装備した。

この剣は、アイテムボックスに収納していた物だ。

このアイテムボックスはダンジョン製作時の副産物だ。

位相空間へダンジョンを設置するという考えが結果的に物理的な制約の多く払拭した。

その際に某4次元○ケット的なのも作れるのでは? と思い付いたので試してみたら出来た。出来てしまった。

ただし、アイテム効果を考えた場合、人類にとっては希少アイテムにしないと駄目だろう。

手を使わずに収納と取り出しが可能で見た目以上の容量があるというのは今の人類からしたら魔法の箱以外の何物でも無い。


「とりゃッー!」


剣を振り上げてダンジョン壁を斬る。

しかし、ダンジョン壁は何のダメージも無く欠けもしない。

続けて、斧やメイス、拳銃や手榴弾、無反動砲等で試すが、武器の刃が溢れたり、跳弾が彼の頬を掠めたりしただけでダンジョン壁は全くダメージを受けていなかった。


「よし。耐久値は問題無いな」


傍から見れば凶器で壁を破壊しようとしている変質者だが、これも大事な試験である。

ダンジョンの壁――つまり、ダンジョン構造体が人間やモンスターに壊されては意図せぬ不具合を起こしかねないからだ。


彼は一通りの武器を試して満足したのか、第2層へ続く階段を降りて行った。

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2024年12月29日 12:00
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現代ダンジョン運営記録 @shinori_to

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