第2話 プレゼンをしよう

都内某所の集会室にて。


集会室は白板と向かい合うように三人掛けの長テーブルが並べられていた。

それだけならよくある会議室の風景だが、そこに居るのは少々浮いている者達だった。

白板の前に立っているのは先日の事故現場で赤子の魂を回収した男。

彼の対面に並べられたテーブルには一卓毎に計三人の少女が座っていた。

その三人の少女は街中で出逢えば誰もが視線を奪われそうな端整な顔立ちの持ち主。

可愛いと言うよりは、美しいという言葉のほうが似合いそうな美少女達だ。


「これよりダンジョン計画について話したいと思います!」


彼は宣言すると、キュッキュッと黒マーカーで白板にダンジョン計画と、ちょっとクセ強めの字で書いた。


「……?」

「ほほーぅ」

「はぁッ?」


三者三様の反応。

なお、上から、身長145cmで白髪白肌赤目のアルビノ少女。

身長152cmで薄い桜色の髪と金と銀のオッドアイの少女。

身長136cmで黒髪赤目で一番小さいながら一番偉そうに腕組みしている勝ち気な少女ようじょだ。


人の姿をしてはいるが少女達は人間では無い。

古くから人類と共にある伝承の存在、既に語られることも殆どなくなってしまった妖怪。


「やはり、百々ももが一番反応良いな」

「んー。そだねぇ。君の考える事は面白そうな事が多いからねぇ」


百々と呼ばれた薄い桜色の髪の少女はニッコリと親しみ易そうな笑みを浮かべて答えた。

彼女は魂魄の妖怪であり、その体は人形であり数多の本体の一つ。


「うぅ。私だって意味が分かればちゃんとお義兄様に賛成しますのに」


アルビノの少女がほんのりと頬を膨らませて言う。


「ハハッ。詳細はこれから説明するよ。白姫しらき

「はい。お願いします」


白姫と呼ばれたアルビノの少女は、今度はほんのりと頬を淡く染めた。

彼女は吸血鬼の妖怪であり、高潔なる女王。


「全然わからない……」

「これからちゃんと説明するよ。おそらく三依みよりが一番気に入るんじゃないかな?」

「ふぅん」


三依と呼ばれた黒髪の少女――一番背が低いためどちらかというと幼女――は、頬杖を突きながら興味の無さそうな返事をする。

彼女は鬼の妖怪であり、最恐の戦闘狂。


「詳細は、冊子にもあるが……。口で説明した方が早そうだな」


彼はそう言うと、白板の真ん中に円を描いてその中にダンジョンと記入。

その周囲に、人類、蝕、コアと書き込んでいく。


「封印されている蝕を解放して、ダンジョンという場に解き放つ。それを人類に倒してもらう。それがダンジョン計画の概要だ」


ダンジョンという円の中に、それぞれ人類と蝕のところから矢印を引く。


「あの。お義兄様?」

「何かな白姫?」

「その。今の人類では蝕に太刀打ち出来るものは僅かも居ないと思いますが……」

「そだねぇ。蝕からしたら鴨が葱を背負って来るみたいなものじゃない?」

「くだらない。私が戦えば良い」

「それは問題無い。そのためのダンジョンだからな。後、三依。地球は広いんだ。一人で世界中全ての蝕の相手をするつもりか? それも誰も死なせずに?」

「むぅ……」


三依はプイっとそっぽを向く。

戦うのが好きな彼女からしたら人類という有象無象など気に掛ける対象では無いからだ。

頬を膨らませた三依の姿に苦笑いを浮かべつつ、彼はコアという文字を丸で囲んでダンジョン円へ矢印を引いた。


「このコアによって、ダンジョン内へ解き放った蝕を細分化しモンスターという人類が親しみ易い形へ変換する。また、ダンジョン内に入った人類にはレベルを与えてダンジョン内ではレベルに応じた強化が施されるようにする。これで人類と蝕の力の差を埋めていくわけだ」

「はいはーい。先生質問です!」

「何かな。百々くん」


手を挙げた百々に、彼は手に持った黒マーカーをビシッと向けた。


「コアって何? そもそもそんな事って可能なの?」

「ではまず最初の質問のコアについて回答しよう。ずばり、これだ」


彼は空いている方の手を伸ばすと掌を上へ向ける。

そこに出現したのは先日回収した赤子の魂。


「先日、近所で交通事故があったんだが、その時に回収した魂をコアにする」

「わぉ。これは……」

「そんな……」

「お前以外にも居たのかよ……」


その魂を見た三人が三人とも驚いていた。


「血族の魂。それも覚醒遺伝体だ。生後間もない故に純真無垢でダンジョンを制御するコアに最適だった」

「了承は取ったんだろうね?」


鋭い目つきで百々が問う。


「ああ。お話合いの末。了承してくれたよ」

「ふぅん。ま、揺らいで無いからそうなんだろうけどね」


魂魄の妖怪である百々は魂の扱いに対して人一倍――この場合は妖一倍厳しいのだ。


「では次の、そんなことが可能なのか? について答えよう。すばり神様にお願いして技術供与をして貰うので問題無い」

「そこは神頼みなのかよ……」


自信満々に言い切った彼に対して、三依は頬杖をしながら呆れるように呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る