第3話 オっサン巫女さまに会ったってよ


 朝食を食べ終えて後片付けを済ませ魔竜山に向かうシボルとミホ。相変わらず道なき道を進む二人だが、魔獣や魔物に一切出会わないのが幸運だと思っていた。


 歩きながら木の実を見つけるともぎ取って魔術鞄に入れていくシボル。野営出来る場所に着いたら毒見しながら食べれるかどうかの判断をするつもりであった。


「シボルさん、林檎みたいな木の実が有りますよ」


 ミホも時々頭上を見上げて木の実を見つけて報告してくれる。シボルは長い枝を利用して器用に高い場所の木の実をもぎ取っていく。


「その取り方もお爺さんに教わったんですか?」


「うんそうだよミホちゃん。ほら、先を少し割って削ればちょうど挟み込むようになるだろ? これを差し込んでクルッと捻れば……」


 実演しながら説明するシボル。見事に林檎のような木の実が枝先にあった。すると……


「あっ!! シボルさん、アレって?」


 ミホが何かに気づいたように前方にある木をゆびさした。そこに居たのはリスのようでリスにはない翼を持った小動物である。体長は知っているリスより一回り大きいようだ。

 その小動物はシボルが取った林檎のような実を見つめている。


「あ〜、あのリス擬きの食べ物だったか。どれ試しに…… おい、やるからコッチに来てみろ?」


 リスのような恐らくは魔獣と呼ばれるものに木の実を差し出しながら話しかけるシボル。そうしたのには祖父からの教えがあったからだ。

 自分の餌を取られたと思った野生動物は襲いかかってくるか、悲しそうに見るかのどちらかの反応が多い。しかしまれにだが期待した目を向ける野生動物がいる。


『良いかシボル。そん時はそっと取った物をその場において少し離れてみろ。そしたら食べにやって来るもんだ。中には呼びかけたら警戒せずに近寄ってくるのも居るけどな』


 そんな祖父の言葉を思い出しながらリス擬きの目を見たシボルは期待してる眼差しだと考えて呼びかけてみたのだ。すると……


「わっ!? こ、こっちに来ましたよシボルさん!!」


 リス擬きの魔獣は翼を広げてパタパタとシボルたちに向かって飛んできた。シボルが差し出した木の実の前で器用にホバリングしてとまっている。


「ほら、ちゃんと来たんだからこれをやるよ」


 そう言ってリス擬きの手に取りやすいようにその手を動かしたシボルの手から両手を差し出してリス擬きは木の実を受け取った。


「クルルーッ!」

  

 鳴き声を上げて頭を下げるリス擬きにミホはもうメロメロになっていた。


「かっ、可愛いーッ!! さ、触ったらダメですよね、シボルさん!」


「ああ、野生の動物は人から触られるのは嫌うからね。人の匂いが着くと仲間から警戒されてしまうから」


 シボルは祖父から聞いた話をミホに伝える。途端にションボリしてしまうミホ。


「うう…… そ、そうですよね『一撫でで良いから触りたかった……』」


 そんなミホの前にパタパタと飛んで移動したリス擬きはミホの右肩にまで行きそこにとまった。


「えっ!?」

「おいおい!?」


 ミホとシボルの驚きを他所にリス擬きは両手に木の実を持ったままその頭をミホの頬に擦り付けた。


「うきゃーっ!? て、天使の羽毛のような感触がわ、私の頬に!?」


 ミホの喜びの声を聞きながらシボルはミホの印象が変わった。


『こっちが素のミホちゃんなのか? いや、さっきまでのミホちゃんもミホちゃんなんだろうな。可愛い見た目の小動物が好きなんだろうから、それが近寄ってきてくれて懐いてくれたからこの喜び様なんだろう』


「シッ、シボルさん! この子、飼っても良いですか? いえ、もう離れるなんて出来ませんっ!!」


 断言するミホだが現実を告げるシボル。


「ミホちゃん、今からオっサンが言うことをよ〜く聞いてくれよ。それだけ人懐っこいならひょっとしたら誰かが飼育しているかも知れない可能性が一つ。それか、欲しかった木の実をくれたお礼に頬擦りしてて、終われば自分の住処に戻る可能性が一つ。とまあそんな可能性が高いと俺は思ってるんだ。だから取り敢えずそのリス擬きが俺たちと一緒にいる間は構わないけれども、もしも何処かに行きたそうにしてたら引き止めずに行かしてやると約束できるかな?」


 噛んで含めるようにシボルが言うとミホは悲しげな顔になりながらも言う。


「うう…… そ、そうですよね。こんなに可愛いんですもの。誰かが既にお世話してる子かも知れませんよね。そ、それでも一緒に居てくれる間は一緒に居たいですっ! ちゃんと私たちと違う方向に進もうとした時には涙を呑んでお別れしますっ!!」


 覚悟を決めた顔でそう言うミホにシボルは微笑んで


「良し、約束だ! お前もそれで良いか?」


 リス擬きにも確認をしてみた。なんとなくだがこっちの言ってる事を理解してるような気がしたからだ。リス擬きはシボルの言葉にミホの右肩の上でコクンと頷いた。


 そしてパタパタとミホの右肩から飛ぶと、残念そうなミホの方を向いて


「クルル?」


 と鳴く。


「えっ!? 何かな?」


 ミホが驚いて聞くとちょうどシボルたちが向かおうとしていた方角を向いてからまたミホの方を向いて鳴いた。


「クルル?」


 再び鳴いた声は、「こっちに進むのか?」と聞かれてる気がしたのでミホは素直に頷いた。


「うん、そうだよ。そっちに向かおうと思ってるの」


「クルルー」


 今度は分かったと言うように鳴いてミホの右肩に戻るリス擬き。


「あっ、戻ってきてくれた! 嬉しい! ちょっとだけ、頭を撫でても良いかな?」


 戻ってきたリス擬きにそう聞くミホ。


「クルッ!」


 聞かれたリス擬きはミホが撫でやすいように頭を下げた。


「ああ〜、これが天国というものなのね〜」


『いや、ミホちゃんそれは違うと思うよ……』


 内心で突っ込みながらもシボルは「それじゃ進もうか」と一人と一匹に声をかけた。


「ハイッ!」「クルッ!」


 仲良く一人と一匹から返事を貰って苦笑しながら先頭にたって進み始めるシボル。その後ろを右肩にリス擬きを乗せたミホが続く。

 そこで不思議な事にシボルが少し方角がズレそうになるとミホの肩のリス擬きがパタパタとシボルの前に飛んでいき、


「クルルー」


 とズレを直してくれる。


「う〜ん…… ひょっとして魔竜山に住んでるっていう人がお前の飼い主なのか?」


 シボルはそう思い聞いてみたが、リス擬きの返事は


「クル?」


 だったので違うようだ。一時間ほど進んで休憩をして、また一時間ほど進む。


「ミホちゃん、疲れてないか? ハァハァ」


「まだ大丈夫です!」


『これが若さというものか!? 俺なんて今すぐ休憩を入れたら五秒で寝る自信があるのだが……』


 ミホの返事を聞きながらそう思うシボルだが、リス擬きが


「クール、クール、クール!」


 と何だか「アンヨは上手」みたいなノリでシボルに鳴き声をかけてくるので根性で立ち止まらずに進むシボル。

 そうして三十分ほど進むと、目の前の藪が突然に開けた。


「クルルーッ!!」


 リス擬きは「あと少しだよ!!」と言ってるように聞こえたのでシボルはなけなしの体力を振り絞り歩く。五分も歩くとこじんまりした家が見えた。


「おやおや、リッスナーの鳴き声が聞こえると思って外に出たら何年ぶりかの人のお客さんさね。かなり疲れてるみたいだね。中にお入り、お客さんたち」


 家の前に立っていた四十代に見える色気の凄い美女にそう言われて思わず顔を見合わすシボルとミホ。その美女はミホを見た時に少しだけ目を見開いて驚いた様子だったが二人ともそれには気づいてなかった。


「あの、リッスナーっていうのはこのリス擬きの事ですか? それにあなたはここに住まれている方なんでしょうけど、俺たちみたいな得体の知れない者を招き入れても大丈夫ですか?」


 シボルの問いかけに美女は大声で笑う。


「アーハッハッハッ、久しぶりに聞いたさね、リス擬き! ヤマトも同じ呼び名でリッスナーを呼んでたよ。それともう一つの質問にお応えしようかね。得体の知れない者は自分でそうは言わないもんさね兄さん。それにアタシも人を見る目はあるさね。だから遠慮せずにお入りな、兄さんもお嬢ちゃんも」


 正直に言えばシボルはもはや体力の限界であったので家の中で休ませて貰えるのは有難いのだが、余りにも色気たっぷりなお姉さん(四十代前半に見える美女はシボルにしてみれば十分に年若いお姉さんだ)なので少し躊躇う気持ちがあった。けれどもリス擬き改めリッスナーが警戒していないのを見る限り悪い人では無いようなので、言葉に甘える事にした。


「すみません。それじゃ家にお邪魔させてもらいます。あの、コイツも大丈夫ですか?」


 再びミホの右肩にとまったリッスナーを指さしながら聞くと、お姉さんは


「勿論さね。お嬢ちゃんは随分とリッスナーに気に入られたんだね。ひょっとして【白手はくしゅ】かい?」


 いきなり核心を突く話題を持ち出した。


「ああ、ああ、今は答えなくて良いさね。家でゆっくりと話を聞くよ。さあ、お入り」


 再び促されて「お邪魔します」と言って中に入る二人。中は玄関があり靴を脱ぐようになっていた。思わず驚く二人に


「ヤマトが教えてくれたのさ。家の中では靴を脱いだ方が寛げるってね」


 と先ほどからヤマトという名前が何度も出てくるのでシボルは聞いてみた。


「あのヤマトさんっていう人はどなたなんですか?」


「おや兄さん、案外と鈍いんだね。ヤマトも兄さんたちと同じで無理やりこの世界に召喚された者さね。と言っても五百年ほど前の話になるけどね」


 サラッと物凄い年数を言われて頭の中が混乱するシボルとミホ。その表情を見てお姉さんは言う。


「まあそこら辺の話もちゃんとするさね。先ずはこっちに来るといいさね」


 案内された場所はダイニングキッチンになっている部屋だった。


「そこにお座り二人とも。今、お茶を入れるからね」


 言われた通り素直に座って待つ二人の前に日本風の茶碗に入れられた紅茶が出された。


「カップがそれしか無いからね。我慢しておくれよ。さてとそれじゃ先ずは自己紹介をしようかね。アタシはこの神竜山しんりゅうさんに住まう神竜様の巫女をつとめているナリアという者さね。神竜様の寵愛を受けているから当年取って千と二百四十一歳になるさね。まあ、この見た目も四十一歳に寵愛を受けてから変わってないからね。見た目よりは年寄りなのは確かさね」


 色々と聞きたい事が多すぎて何から聞けば良いのか頭の中を整理するシボル。そして先ずは自分たち自身の話をするべきだと判断して話を始めた。


「その、俺は佐々原ささはらしぼると言います。こちらの子は山河やまかわ美帆みほちゃんです。俺たちは他に四人の人間と共にハサン王国という国によってこの世界に召喚されました。そこで、俺たちは手職しゅしょくというものを調べられて、色手しきしゅという王国の者にとって不吉だとされる職を得ていたんです。そこで俺とミホちゃんは魔竜山の麓の大魔の森と彼らが呼んでいるこの場所に追放されました。そんな俺たちを少しでもと助けてくれる衛兵も居まして、この魔竜山に住んでいる人も居るという情報を頼りにここまでやって来ました」


「なるほどね。兄さんたちの話は分かったさね。先ずは幾つか訂正させてもらうさね。ここは魔竜山ではなくさっきも言ったように神竜様の住む神竜山さね。麓の森はハサン王国、カルガ王国、ラーグン公国に住む人族にしてみれば確かに魔獣や魔物の住処すみかに見えるかも知れないが、こっちから言わせて貰うならば縄張りに入ってくる奴らの方が魔物さね。神竜山を中心に麓の森までが神竜様の縄張りで、そこで自由気ままに住んでる獣や人種純粋な人じゃない種族を奴らは魔獣や魔物と呼んでいるさね」


 そう聞かされてシボルは考える。そういえば自分やミホを襲ってくる者はここまで居なかったなと気づいてナリアに聞く。


「しかし、それなら俺やミホちゃんも縄張りに侵入した不審者という事になるんじゃ? だけど森に入ってからも、山を歩いている時も襲われる事は無かったけど、それはどうしてなんですか?」


「それはだね、兄さんもお嬢ちゃんも色手しきしゅだからさね。ここに住む人種ひとしゅは全てが色手しきしゅの者たちで、同じ色手しきしゅを授かる者を見分けられるのさ。そして、人族であってもこの森に来る色手しきしゅは追放された者たちだって知っているから、襲ったりせずに、むしろ危険な獣たちをあんた達二人から遠ざけていたと思うよ。獣には人が色手しきしゅだろうが職手しょくしゅだろうが関係ないからね。まあ、中にはそのリッスナーのように白手はくしゅの者に懐く獣もいるけどね。お嬢ちゃん、ミホって言ったね。少なくともあんたはリッスナーやウッサーヌからは敵意を向けられる事は無いよ。ああ、ウッサーヌって言うのは…… えーっとヤマトは何て言ってたかね? そうだっ!! 角ウサギって言ってたね!」


「ウサちゃんにも触れるんですか!?」


『いやミホちゃん食いつくのはそこじゃないから……』


 シボルはそこでミホに代わってナリアに聞いた。


「えっと何で白手の者はそのリッスナーやウッサーヌに懐かれるんですか?」


「おや? 分からないのかい? ああ追放されたんなら自分たちの能力を知る方法を教えて貰ってないんだね。それじゃ、二人とも頭の中で能力値表示って思ってごらん」


 言われてシボルもミホも脳内で能力値表示と唱えた。



名前∶シボル

性別∶男性

年齢∶五十一才

種族∶優人ゆうじん

色手∶左【黒手こくしゅ】右【虹手こうしゅ

位階∶二(上限十)

体力∶380

魔力∶890

攻撃∶130+25(小剣装備補正)

防御∶70+30(革鎧装備補正)


黒手こくしゅ

 ※その手を土に翳せば翳した部分の土は栄養価を高く蓄えた良い土となる。

 ※食べ物に翳せば人体にとって有害物がある場合にはそれを取り除く事が出来る。

 ※空間に翳せば自分だけの異空庫を開く事が出来る。

虹手こうしゅ

 ※せき·とう·おう·りょく·せい·らん·の七つの色手しきしゅの力を持つ【最高】の手色しゅしょく

 ※こうこうにも通じ、鉱石を産み出す事が可能。

 ※またこうこうにも通じ、手を翳すだけで土地を自在に耕せる。

 ※またこうこうにも…… ……


『えっと、何だかとてもヤバそうな感じなんだが……』


 自分の両手を見つめながら頭に浮かんだ説明を読んでそう思うシボル。ミホもまた



名前∶ミホ

性別∶女性

年齢∶十九才

種族∶優人ゆうじん

色手∶左【梅手ばいしゅ】右【白手はくしゅ

位階∶二(上限十)

体力∶470

魔力∶550

攻撃∶110+25(小剣装備補正)

防御∶60+30(革鎧装備補正)


梅手ばいしゅ

 ※こう·はく·とうの三つの色手しきしゅの力を持つ最強の手色しゅしょく

 ※ばいばいにも通じ、倍にする事が可能。

 ※またばいばいにも通じ、呪いを浄化する事が可能。

 ※またばいばいにも…… ……


白手はくしゅ

 ※その手を作物に翳せば太陽光よりも効率的な光合成を行える光が出て成長を急促進させる。

 ※その手を水に翳せば聖なる水となり、病を癒し怪我を癒す。

 ※その手からは梅手の白も重なって常に優しい光が出ており、ありとあらゆる獣たちはその光に心惹かれて懐いてくる。


『モフモフ!! モフモフパラダイスが私の目の前にっ!? ああ! 神様、素敵な色手しきしゅを私に授けて下さって本当に有難うございますっ!!』


 ある意味シボルよりも脳内が花畑パニックになりかかっていた。  


「どうだい? 二人とも、ちゃんと出てきたかい?」


 ナリアの問いかけにハッと正気を取り戻す二人。


「ああ、ナリアさん。ちゃんと出てきたよ。それにハサン王国では分からなかったけど、色手しきしゅって両手に授かるんだな」


 シボルの言葉に今度はナリアが驚いた。


「何だって! 兄さん、両手に色手しきしゅが出てるのかいっ!?」


「あの、私も両手なんですけど?」


「お嬢ちゃんもかいっ!? こりゃまた驚いたことさね!!」


「? 普通に両手に授かるんじゃないんですか?」


 ナリアの驚きように確認するシボル。


「普通は利き手に一つだけさね。両手に色手を持つなんて五百年前のヤマト以来さね。それでもしも良かったらどんな色手を授かってるか教えてくれないかね?」


 ナリアに聞かれて言っても大丈夫だろうかと思いながらシボルは答えた。


「俺は左手が黒手こくしゅで右手が虹手こうしゅです。こうにじですね。なので……」


「なんとっ! 兄さん、六色ろくしょく持ちなのかいっ!!」


 そこでナリアがそう叫ぶがシボルは不思議そうに訂正した。


「いえ、せき·とう·おう·りょく·せい·らん·七色ななしょくですよ。虹は七色なないろでしょう?」 


「何だって!? 七色!? そうか、アタシらの世界とは違う世界から来たから…… う〜ん、兄さんが言うならそうなんだろうさね。しかし虹手こうしゅとはね…… 兄さん、なろうと思えばこの地の王になれるさね。神竜様もお認めになるだろうさね」


「いや、俺はそんな器じゃありませんよ。それにこれまで元いた世界では馬車馬のように働かされていたから、せっかく違う世界に来たならノンビリと過ごしたいと思ってます。幸いにも黒手こくしゅは農業に向いてるみたいですしね」


 シボルの言葉にウンウンと頷いて同意している様子のミホ。ミホも農業をするつもりなのだろうか?


「それで、お嬢ちゃんは白手はくしゅともう一つは何だったんだい?」


「はい! モフモフパラダイスです!!」


「へっ?」

「えっ?」


 ミホの返事にナリアだけでなくシボルまで唖然としている。そこで言い間違いに気づくミホ。


「あっ!? そのスミマセン。嬉しすぎてつい…… そのもう一つは梅手ばいしゅでした。うめの字が当てられていて、こうはくとうの三色の色手しきしゅの力を使えるそうです」


「はあ〜…… 魂消たね。お嬢ちゃんまで数色持ちではくは被ってるのかい。そりゃあリッスナーが懐く筈さね…… この森の獣は決してお嬢ちゃんを襲う事は無いさね」


 とここまで話をした時にシボルに限界がやって来た。


「ナリアさん、スマン。俺はもうげ、ん、か…… zzz」


 机に突っ伏して寝てしまうシボル。


「おやおや、よほど疲れてたらしいね。そりゃっ」


 ナリアが掛け声をかけると寝たまま宙に浮くシボル。


「えっ!? えっ!?」


 驚き慌てるミホにナリアは微笑み言う。


「安心おし。兄さんを机に突っ伏したままにしとくのは可哀想さね。この奥に客用のベッドがあるさね。そこまで連れて行くだけさね。抱えて運ぶにはアタシは非力だからね。魔法で運ばせて貰うさね」


「あ、有難うございます!」


「お嬢ちゃんも休むといいさね。続きは寝て疲れをとってから話し合おうさね。客用のベッドは同じ部屋に三つあるから好きなのを使うといいさね。勿論、この兄さんと同じベッドでもアタシは構わないさね、フフフ」


 言われてボンッという音が聞こえそうな程に瞬間的に顔を真っ赤にするミホ。


「いえ、あの、その……」


 モジモジとするミホを見て笑いながらナリアは言う。


「アハハ、冗談さね。お嬢ちゃんはまだ若いからね。この年の兄さんだと親みたいなもんだろうし、まあアタシの見立てだと、お嬢ちゃんより先に起きたからって襲うような男じゃないさね。だから安心して同じ部屋で寝るといいさね」


「はい。私も休ませて貰います」


 そうして、魔法で運ばれて魔法で装備を外して貰ったシボルと、自分で歩いて自分で装備を外したミホと同じ部屋で、しかしベッドは別々で休ませて貰う事に。リッスナーも当然のようにミホのベッドに潜り込んだ。


「ゆっくりと寝ていいからね。起きたらさっきの場所においで。アタシはたいていあそこに居るからね。おやすみ」


「はい、おやすみなさい……」


 部屋の扉を閉めてからダイニングキッチンに戻ったナリア。そこに、


「ナリア、二人は休んだようだな」


 それまで微塵も存在を感じさせなかった男がいつの間にか居た。


「ビックリするさね。神竜様、来られるならいつも通り来て欲しいさね」


 と驚いた風もなく言うナリア。そんなナリアに神竜は言う。


「それで、思い出したのかミサキ?」

「ええ、あなた。随分と長く持たせてしまったわね、ごめんなさい」


 今までと違う口調で話し出すナリアにも驚かずに神竜は目から涙を零した。


「良いんだ。思い出してくれたなら。良かった、良かったな。またミホにこうして会えて。神の言った事は嘘じゃ無かった」


「ええ、そうね。それに、私は無意識とはいえちゃんとあなたと結ばれていたわ。それもとても良かった事だと今は心から感謝してるわ」


「ああ、そうだな。だけど…… まだミホには打ち明けられないのが心苦しいな。それに、何だってあんな草臥れた男に惹かれてるんだ!? あれなら俺の方が男前だろうっ!!」


「あなたったら! もう! ダメよ。あの子が選んだのなら尊重するって約束したでしょ!」


「クッ! しかし俺よりも年上だぞ!」


「愛に年は関係ないのよあなた。今世の私たちがそうでしょう? あなたは二万五千四十七歳で私は千二百四十一歳よ、年の差はあの子たちより大きいわよ」


 そう言われてもまだ苦々しげな顔をしている神竜。どうやらこの二人にも秘密があるようだ……

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