第2話 オっサン生存術しってるってよ

 探索を始めて一時間。小休止を取りながらシボルはミホに言った。


「ナチが教えてくれたけど飲水は五日分ぐらいは鞄に入れてくてるらしい。それでも水がいつでも手に入るようになってないと俺は不安だからさ。川か池、湖なんかを探したいんだ。でもこの入り口周辺では見つけられそうに無いから、出発地点に戻ってそこから森に入ってみようと思うんだ。良いかなミホちゃん」


「はい。私もそう思ってました。森の中は危険でしょうけど、慎重に行動して探索しましょう」


 今のところ二人は魔物にも魔獣にも遭遇していない。それには理由があるのだが、その理由はもう少し後になって判明する。


「良し、それじゃ戻ろうか」

「はい、シボルさん」


 シボルとミホはお互いに気を遣いあっていた。まだ出会って間もないので仕方がないがそれでもぎこちなさが出ている。


 シボルはなるべく言葉を選んで、何かを決断する時にも必ずミホの意見を聞くようにして、ミホはシボルの意見に逆らわないようにしていた。


 ナチに連れてこられた地点まで戻った二人は一呼吸おいてから森へと足を踏み入れた。貰った魔術鞄の中には方位磁石も入っていたので入る前に魔竜山の方角は確認してある。出発地点からは東に位置する魔竜山を目指してシボルとミホは森へと分け入った。


 辛うじて道と言える場所を選んで進む二人。前をシボル、その後ろ二メートル離れてミホが進む。それを決めたのはシボルであった。


 シボルに何かが襲いかかってきてもミホが逃げれる距離であり、ミホに何かがあった場合にシボルが直ぐに対処出来る距離である。


『まさか爺さんに持ち山で教わった事が役に立つ日が来るとはな……』


 シボルは小学生〜高校一年まで祖父母に育てられた。父母は二人揃って海外出張で居らず、しかも中学三年の時に間違いで銃で撃たれて死亡した。


 高校一年の時には祖父も心筋梗塞により亡くなり、祖母も高校卒業前に亡くなった。


 けれども両親が間違いで撃たれた事による慰謝料と、祖父母が受取人をシボルにしてかけていた生命保険があり未成年後見人も祖父の友人であったまともな思考を持った人だったのが幸いして生活してこれたのだ。


 そんなシボルは軍人経験のある祖父により持ち山で生存術サバイバルを仕込まれていた。それが今の探索に役立っているのである。


 ところどころで立ち止まり耳を澄ませるシボル。遂にその耳が水の流れる音を捉えた。


「ミホちゃん、あっちから水の流れる音が聞こえる。魔竜山とは方角が違うけれどもそっちに向かってみようと思うんだ。良いかな?」


「はい。シボルさん。分かりました。どれぐらい方角が違いますか?」


 ミホは分かったと言いながら方角の違いを確認する。


「うん、魔竜山は東だからこの方向だよね。でも水の流れる音はこっち側、約九十度ズレた方角になるね」


 現在位置から南方面を指してシボルが言うとミホは頷いて鞄から羊皮紙を出してメモを取る。そのメモを見せて貰うと


「すごいなミホちゃん。森に入ってからの時間と凡その距離まで書いてあるなんて。オっサンはそこまで考えて無かったよ」


 自分の歩幅を五十センチとして計算した凡その距離まで書き込まれた簡易的な地図を見て素直に感嘆するシボルに照れたようにミホは微笑んだ。


「いえ、今はもう亡くなったのですが父に気になる事はメモしておけと言われて育って。それで何かの役に立つかなと思って私なりにメモを取ってたんです」


「十分だよ。これならまたこの場所にまで戻って来れる可能性が高くなるからね。有難うミホちゃん」


 そう言って礼を述べるシボルを見て顔を赤らめるミホ。お互いに少しずつだがぎこちなさも無くなっていってるようだ。



 一方その頃、王宮に残った四人はユリアナ直々に職についての説明を受けていた。


「お一人ずつ説明をさせて頂きますね。先ずはマサル様の聖剣手せいけんしゅから説明を致します」 


 そう言って語りだすユリアナ。


「聖剣手はこの世界にある聖なる剣と神より認められた剣を自在に操る職となります。聖剣の力を引き出して邪悪なるモノを倒す聖なる職です。我が国にある聖剣【デュークフリート】をマサル様にお使い頂きます。その力を全て引き出したならば、如何なる邪悪も斬り裂くと言われている聖剣でございます。けれども聖剣の力を全て引き出すにはマサル様ご自身も位階いかいを十まで引上げる必要がございます」


「うん? その位階っていうのは何なんだユリアナちゃん」


 聞き慣れない言葉に質問をするマサル。

 

「そうですね、皆様がご存じの言葉で言うとレベルといえば分かりやすいでしょうか? 人の位階は十が上限となります」


「へえ、この世界じゃレベル十が上限なのか。それじゃ強い魔物なんかには負けてしまうんじゃないか?」


 思っていたよりも余りに低い数値に思わず不安を口にするマサル。けれどもユリアナは動じることなく話を続けた。


「いいえ、マサル様。凡人ならば確かにそうでしょうが、マサル様たちは違います。先ずは魔物や魔獣の位階レベルの上限は五です。また種による強さも加算されますが、例えば一対一の場合で言うと位階五のゴブリンは位階二のウルフに負けます。今のマサル様は位階一ですが剣を持てば位階五のウルフにも余裕で勝つ事が出来るでしょう」


 ユリアナの説明を聞いて理解したマサル。


「つまり俺のレベルが十になって聖剣を持ち、その力を全て引き出す事が出来れば邪悪な魔物や魔獣に負ける事は無いって事か?」


「そうです、マサル様。しかしながら魔竜山にいる邪悪なる竜は少し違います。位階は五ですがその力はとても強大でマサル様が位階十になり聖剣を持っていても勝つのは難しいでしょう。何故ならば邪悪なる竜はこれまで挑んで討死した英雄たちの残留魔力を己の体内に取り込んで通常の位階五よりも大きな力を得ているからです。けれどもご安心下さいませ。マサル様、サトシ様、マユ様、ミナト様の力を合わせれば必ず勝てます」 


 ここでユリアナは嘘を吐いた。この四人が力を合わせてもユリアナたちが邪悪なと言っている竜は倒せない事は分かっていたのだ。そもそも邪悪な竜と言っているがそれも嘘なのである。

 しかしマサルたちがそれに気がつく事は無かった。


「そうか、俺たち四人が力を合わせればな…… 頼むぞ、三人とも」


「フッ、マサル。心配するな、完璧にやってやるよ」

 

「アタシもマサルの為なら頑張るよ〜」


「私も出来る限りの事はするわ」


 四人の会話を聞きながら内心でほくそ笑みながらも顔では笑顔でユリアナは言う。


「さすが選ばれし職を授かりし英雄さまたちですわ! これで我が国の長年の悲願も達成される事でしょう!! それでは説明を続けますわね。次はサトシ様の真槍手しんそうしゅについてですわ」


 ユリアナがサトシの職について説明を始める。


「真槍手は槍のまことの使い手という職となります。聖なる槍は扱う事は出来ませんが、普通の槍、魔槍まそう神槍しんそうを扱えます。その中でも神の槍である神槍を扱えるのが大きな有利点なのですが、残念ながら我が国にも他の二国にも神の名を冠する槍はございません。なので魔槍がサトシ様が現時点で扱える最高の槍となります。魔槍といっても邪なるモノではなく、魔鉱石と呼ばれる鉄鉱石を混ぜて刃部分や柄の部分を強化した物ですのでご安心くださいませ。我が国にある魔槍【グレンタイサー】は刃部分に闇の魔鉱石、柄の部分に土の魔鉱石を混ぜて作られた最高級品にございますのでサトシ様ならばきっと使いこなせるようになられると思いますわ」 


「マサル、どうやら俺は神の力を使えるようだぞ。聖なる力とどちらが上だろうかな?」


 勝ち誇るように言うサトシにマサルは冷静に突っ込んだ。


「おいおいサトシ。使えると言っても肝心のその神の槍が無いからな。現時点では聖剣がある俺の方が上だろうよ」


 男二人のやり取りをニコニコとしながら見ていたユリアナはそのままマユの職についての説明を始めた。


「それでは、次にマユ様の職についてでございます。魔導手まどうしゅは魔術手、魔道手よりも上位の職でございます。この世界のありとあらゆる魔法を使いこなせる職でございます。但し、治療魔法ちりょうまほうはご使用になれますが、治癒魔法ちゆまほうだけは使いこなせません。治癒魔法は神の御業みわざでございまして、使えるのは治癒手ちゆしゅの方のみなのです。ミナト様は治療ちりょう治癒ちゆの両方の魔法をご使用出来ます。治療魔法で癒せるのは骨折ならば癒せますが、部位欠損は癒せません。止血は可能でございますが。また病も風邪や腹痛などの軽い症状であれば癒せます。一方で治癒ちゆ魔法ですと死以外の状態を癒す事が可能でございます。あら? ワタクシとした事がマユ様の職についてでしたのに、ミナト様の職についての説明もしてしまっておりますわ。どうかご容赦くださいませ」


 そこで一旦は言葉を切ったがまた話し出すユリアナ。


「それでは気を取り直しましてマユ様の職についてなのですが、まだ位階が一のマユ様は初級魔法だけ扱える状態でございます。位階が三になりますと中級魔法を、位階が五になりますと上級魔法を扱える事になりますわ。そして、位階が七になりますと最上級魔法を覚えられます。そして、位階が上限の十になりますと極大級魔法を覚えられます。極大級魔法は神をもほふると言われておりますの。そこまでになられましたらマユ様は魔法での戦いにおいて敵無しとなられる事でしょう。このままミナト様の治癒手について先ほどお伝えしてなかった事をお伝え致しますわ。治癒魔法は人の怪我や病を癒すだけでなく、壊れた武器や防具などにも有効でございます。もしも戦闘でマサル様の聖剣の刃が欠けてしまったり最悪の場合で折れてしまってもミナト様が治癒魔法をかければ聖剣は元通りとなる事でしょう。しかしながら、聖剣を治すほどの魔法を使うにはやはりミナト様ご自身が位階を十にする必要がございます」


「なるほどな。話は分かったよユリアナちゃん。それでその位階レベルを上げるには俺たちはどうすれば良いんだ?」


 マサルが職については理解したと言い、具体的に位階レベルを上げるにはどうすれば良いかをユリアナに質問した。


「マサル様、サトシ様、マユ様、ミナト様、先ずは皆様に訓練をしていただく必要がございます。マサル様は剣の訓練、サトシ様は槍の訓練、マユ様は魔法の訓練、ミナト様は治癒魔法の訓練を二ヶ月〜三ヶ月ほどしていただく必要があるのです。その訓練で位階を二に上げる事が出来る筈です」


「一つ上げるのにそんなに期間が必要なのか?」

「例えば三ヶ月で一つ上がるなら十まで上げるのに二年以上かかるな……」

「え〜、アタシそんなに長く訓練なんてしたくな〜い」

「私の訓練はどういったものになるのかしら?」


「皆様、最初はこの訓練で位階を二に上げて、その後は実戦にて位階を二から上に上げていく予定なのです。それにより一年と半年ほどで皆様の位階が十になるとワタクシは思っております」


「なるほど。先ずは実際に剣を使った事がないから基礎訓練だな。マユ、頑張ろうじゃないか。魔法を覚えて俺を助けてくれ」

「マサルがそう言うなら〜、アタシ頑張る!!」


「ミナト、頑張ろうな」

「ええ、私も出来るだけするつもりだけど、訓練内容は知りたいわ」


 ミナトは治癒魔法なので訓練内容を分からない。


「ミナト様には先ずは位階が一で使用できる治療ちりょう魔法で、騎士団員が訓練中にした怪我を治療して頂く予定でございますわ」


「なるほど、先ずは怪我人の治療をするのが私の訓練になるのね」


「はい。そうなりますわ。皆様、ここで皆様にお教えする事がもう一つございます。【ステータスオープン】と唱えてくださいませ」


「「「「ステータスオープン!!」」」」


 ユリアナに言われて素直に従う四人。四人の能力値が部屋の壁に全て映し出された。


【名前】マサル

【性別】男

【年齢】十九

【種族】人

手職しゅしょく聖剣手せいけんしゅ

【位階】一

【体力】500

【魔力】250



【名前】サトシ

【性別】男

【年齢】十九

【種族】人

【手職】真槍手しんそうしゅ

【位階】一

【体力】450

【魔力】300



【名前】マユ

【性別】女

【年齢】十八

【種族】人

【手職】魔導手まどうしゅ

【位階】一

【体力】200

【魔力】600



【名前】ミナト

【性別】女

【年齢】十九

【種族】人

【手職】治癒手ちゆしゅ

【位階】一

【体力】300

【魔力】500



「これが現時点での皆様の能力値となりますわ。武器や防具を装備いたしましたら、今は表示されてない【攻力】と【防力】も表示されますわ。その場合は装備した武器や防具の補正値込みの値が表示されますので、訓練の時に使用する木剣などを装備された際にもう一度ステータスオープンと唱えてみてくださいませ」


 ユリアナの言葉に素直に頷く四人は自分や他の三人のステータスの表示を見て、ユリアナが部屋に居た侍女に合図を出したのを見逃していた。

 合図を受けた侍女は後ろ向きになり、四人の能力値を羊皮紙に書き記している。


「分かった。じゃあ訓練の時にまた見てみる事にするよユリアナちゃん」


 四人を代表してそう答えたマサルに笑顔で「よろしくお願い致しますわ」というユリアナ。その内心では『フフフ、チョロい男たちで良かったですわ』と考えていらなど、マサルもサトシもマユも思ってはいなかった。

 唯一ミナトだけはユリアナを少し疑っていたが、それを態度にも表情にも出す事は無かった……



 ここでシボルとミホに話を戻す。


「あった! 幅は細いけどちゃんと小川が流れているよ。良かった、見つかって」


 シボルとミホは小川を見つけていた。そしてその周りを確認していく。小川の近くに淀みがありそこで小動物が水を飲みに来ている痕跡を見つけたシボル。


「ここは動物か魔獣か魔物か分からないけど水飲み場になってるみたいだ。ミホちゃん、今日の野営場所はここから離した場所にしよう」


「シボルさん、何でそんな事が分かるんですか? 私にはさっぱりなんですけど?」


 ミホに問われてシボルは説明をする。


「ほら、ここ。足跡があるだろ? それにこっち側を見てごらん。不自然に草が倒れてる。これはここを通って何かがこの小川に来てる証拠なんだ。ここを少し進めば糞なんかも見つかると思うよ。草の倒れ具合から見てそんなに大きな体じゃないって判断したけど、この世界の動物とかは知らないから何かまでは分からない。でも日本の動物で例えるならこのサイズだと野ウサギぐらいかな」


「凄いです! 足跡なんて気づきませんでした! それに草の倒れ具合から大きさまで分かるなんて。シボルさんは猟師さんだったんですか?」


 勘違いをするミホに苦笑しながらシボルは訂正した。


「ハハッ、違うよミホちゃん。オっサンはしがないサラリーマンだったよ。ただ小学高学年〜高校一年まで育ててくれた爺さんが山で色んな事を教えてくれたからそれが役立ってるんだよ」


 シボルの説明にミホの目はますます尊敬度を高めている。


「私一人だったら直ぐにここを野営場所に決めてました。やっぱりシボルさんは凄いです!」


 独身、童貞だが女性と話すのが苦手な訳じゃないシボルは年若く見た目も可愛らしいミホに褒められてかなり照れた。


「いやいや、褒めすぎだよミホちゃん。それよりも幅が狭いから小川を超えて向こう側を調べてみて、この淀みから離れた場所にテントを張ろうか。水を飲みに来る邪魔をしたら悪いからね」


 小川の幅は一メートルほどだったので二人は対岸に渡り淀みから三十メートルほど離れた場所にちょうど良さそうな場所を見つけた。

 大きな岩があり、誰かは分からないが古い焚き火の後もあったのだ。


「ここにしようか。かなり古いけれども焚き火をしたあともあるし、この大岩を背にすれば背後から襲われる事も無さそうだからね」


「はい! シボルさん。それじゃテントを張りますね!」


 すっかりシボルの言葉に素直に従うようになったミホ。そしてナチに貰った魔術鞄からテントを取り出してシボルと一緒に張り出したのだが、一つ張り終えてもう一つ出そうとしたシボルを止めるミホ。


「あっ、あの! シボルさん!!」


「ん? 何だいミホちゃん?」


「テントは一つの方が良いんじゃないでしょうか? 私はシボルさんを信頼してますし、そのシボルさんと同じ場所なら安心して休めるというか…… 『シボルさん、お父さんみたいでって言うと怒るかしら?』私と一緒が嫌じゃ無いならこのテントだけにしませんか?」


 顔を真っ赤にしたミホに言われて真剣に考えるシボル。


『う〜ん…… 年頃の娘さんと一緒というのはかなり抵抗があるけれども…… 俺も枯れてる訳じゃないし。でもミホちゃんはこんなオっサンを信頼してくれてるし。何かあった時には側にいる方が対処しやすいというのもあるし…… そうか、俺が火の番を外ですれば良いんだよな。良し、そうしよう!』


 内心でそう決断したシボルはミホに返事をした。


「分かったミホちゃん。テントはこの一張ひとはりだけにしよう。それなら何かあった時には直ぐに対処出来るだろうしね。ただ休む時もミホちゃんには悪いけど直ぐに動けるように装備品を着けたまま休んで貰えるかな?」


 装備品を着けたままという事はミホを襲う事は無いという宣言だと受け取ったミホ。内心でちょっと残念に思ってしまう。


『やっぱり私には魅力が無いのよね…… って、違う違う!! シボルさんはお父さん的な人なの! 好意を持ってるって言っても頼りになる人って事よね? そうだよね私?』


 残念に思った事により自分の気持ちが分からなくなるミホ。シボルがこんな状況で頼りになるのは分かったし、ミホが年若い女性だからと襲ってくるような男性じゃない事も分かっている。

 けれども心の中ではシボルになら襲われても良いなんて少しばかり思ってしまい自分の気持ちが分からなくなり動揺するミホであった。


「はいシボルさん。必ずそうします」


 という訳で心なしか少し元気がなくなったミホの返事にシボルは思った。


『うん、やっぱりこんなオっサンと二人きりなんてミホちゃんのように可愛いにすれば嫌だろうな。今日もそれに明日からも俺は火の番に徹する事にしよう!』


 こうしてお互いに微妙にズレた思考のまま、その日の夜は何の襲撃も受ける事なく過ぎていったのだった。


「ハッ!? っと、いつの間にか寝てしまったか。火は? 良かったまだちゃんとあるな。これなら少し足せば朝食の準備も出来る」


 シボルは自分で考えた通りにテントには入らずに外で火の番をして過ごした。短いとはいえ三時間ほど寝てしまったが、火が消えずに残っていたので安心する。


 魔術鞄の中から鍋と食料を取り出して小川で水を汲み、焚き火から少し離した場所に石で作った簡易竈に火を移して鍋を置き朝食の準備を始めるシボル。


 一方でテントの中でミホはシボルがいつ入って来るのか気になっていたのだが、気がつけば寝てしまっていた。慣れない環境に放り出されてやはり疲れていたのだろう。そして、目が覚めてテントの中を見回してシボルが居ない事に気がつくミホ。慌てて起きて外に出ると朝食の準備をしているシボルを見て飛び出した。


「シボルさんごめんなさい! 寝過ごしました!」


 そう言うミホにシボルは笑って言う。


「おはよう、ミホちゃん。良く寝れたかい? 疲れはどうかな? 疲れが取れてないようならもう一日ぐらいここで休んでも良いと思うんだが?」


 体感的な時間は午前六時ぐらいだろうと見当をつけたシボルは「寝過ごしてなんかいないよ」ともミホに言い再度体調についた聞く。


「体調はバッチリです。気がつけば寝ちゃってて…… その、シボルさんは休めたんですか?」


「うん、オっサンは大丈夫だよ。十分に体を休める事が出来た。それなら朝食を食べたら水を汲んで煮沸して魔術鞄に入れてから魔竜山に向けてまた進もうか」


「はい! 分かりました! あ、代わりますね」


 そう言うとミホはシボルが作りかけていた朝食を代わって作り出した。 


「それじゃ頼もうかな。俺は水を汲んでくるよ」


 シボルは魔術鞄から水入れにとナチが入れておいてくれた瓶を取り出して汲みに向かった。

 何気なく対岸の淀みが目に入るシボル。そこには日本には居ない角の生えた兎が水を飲みに来ていたのだった。


 

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