手に職(しょく)が最強だって? いいや! 手に色(しょく)が最高だ!!

しょうわな人

第1話 オっサンいらねぇってよ

 草臥くたびれたオッサンが俺たちの後ろから歩いていた。俺の名前は斉藤さいとうまさる。俺の隣にいるのは彼女の細木ほそき茉優まゆ。俺の前を歩いているのは親友の加藤かとうさとし。その横にいるのは加藤の彼女である松川まつかわみなとだ。

 そして、俺たち四人の後ろから俯いてトボトボ歩いてついてきてるのが俺たちの奴隷、山河やまかわ美帆みほだ。


 俺たち五人は同い年で十九歳。全員が国際大学であるレーメン大学日本校の学生だ。


 俺とさとしの二人を呼ぶ時は名前をモジッて勝利しょうりと呼ばれる事が多い。偶にダブルふじなんても呼ばれるが。


 俺とさとしは幼稚園からの付合いで、互いの彼女を交換(スワッピング)する仲でもある。そんな俺とさとしが目を付けたのが後ろを歩いている奴隷、美帆だ。

 見た目は地味だがマユやミナトよりも元が良い。それに身長も百五十三でチビ好きな俺やサトシの好みにピッタリだ。

 胸もCランクで俺の好みだしな。

 

 ミホがなぜ俺たちの奴隷とこれからなるのかと言うと、ミホは両親がおらず叔父夫婦の世話になっている。その叔父夫婦の経営する会社と主取引してるのが俺の親父の経営する会社とサトシの親父が経営する会社だ。


 実際には俺やサトシの親父はまともな思考を持ち合わせていて俺やサトシが何を言おうがミホの叔父夫婦の会社との取引を停止するような事は無いのだが、俺がちょっと一言こう囁けば簡単に騙されやがったんだ。


「俺が一言、親父に言えばお前の世話になってる養父の会社との取引は無くなるんだぞ」


 この言葉を簡単に信じたミホは今、こうやってラブホ街に向かっている俺たちに黙ってついてきてる訳だ。


 が、あの草臥れたオッサンはどこまで俺たちに着いてくるつもりなんだ?

 

 そう思った時に俺たちの足元が光った……




 俺の名前は佐々原ささはらしぼる、五十二歳。加藤工業に勤める社畜だ……


 と言っても会社が悪いのではなく俺の上司である部長が諸悪の根源なのだが……

 部長は【俺の成果は俺のモノ、部下の成果も俺のモノ】というジャイ◯ン思考の持ち主で、いつも専務にいい顔をする為に部下の俺たちをこき使うのだ。無茶な納期の仕事も当たり前のように取ってきて言い渡される。


 部署で課長職の俺は家庭持ちの部下たちを早めに帰してやる為に一人残って作業をする日々だ。勿論、部下たちも用事がない日は残って作業してくれているが、それでは追いつかない量の仕事を受けて来やがるのだ。仕方なく俺は毎日午後十時まで残って作業をし、休日出勤をして作業をしていた。


 そんな俺に転機が訪れた! その時は本当にそう思った。が、しかしそれは俺を嵌める罠だった。


 まさか専務までグルだったとはな……


 俺は会社からクビを切られ無職となった。幸い独り身で家族も居ないし、社畜だったせいで貯金はそこそこあった。なので今すぐ生活に困る事は無かったが……


「はあ〜、もうどっかに勤めるのは嫌だな。婆さんが残してくれた畑を本腰入れてやってみるか!」


 部署移動してから呑んでなかった酒を呑み、ほろ酔い気分で家に戻っていた俺。

 帰りながらそんな事を考えていた。俺の前には大学生らしい五人が歩いている。


「俺は大学なんて行ってないけど、行けるならば行った方が良いよな。まあ、そんな事を言っても仕方がないが……」


 前を歩く若い五人を見ながらほろ酔いでそんな事を呟く俺。だが、一番後ろを歩いてる女の子は俯いたまま歩いているけど大丈夫か? 前のカップルが急に止まったら気づかずにぶつかるぞ。


 しょうもない事を思った俺の足元が急に光った!!


「うわっ!? 誰だ、道路にこんなイタズラした奴は! 眩しいじゃないかっ!!」


 で俺の意識はそこで途切れた……


 その日、佐々原が住む町では同時刻に三カ所で同じように突然道路が発光する現象が起き、その場に居合わせた人々は居なくなった。

 しかしながら、事件になることは無かった。人々の意識から、そして、公的な記録までもが消えた人々の分が全て消滅していたからだ。


 消えた人数は十七人。地球から十七人は最初から居ない者となったのであった……

 


 異世界【トルク】にて中央大陸にある五カ国のうち、三カ国で大規模召喚魔導が行われたのは奇しくも同日同時刻であった。

 その内の一カ国、ハサン王国に召喚されたのは、佐々原たち六人であった。


「ハッ!?」


 佐々原は気がついた。


「やっと起きたぜこのオッサン」

「早く説明してもらえますかね?」

「アタシ〜、早くホテル行きたいんだけど〜」

「もう、楽しみにしてたのに!!」

「…… ……」


 佐々原は自分の側にあの前を歩いていた五人がいる事に気がつき、立ち上がり周りを見渡す。そこには甲冑を身にまとった者がいる。その少し後ろに偉そうな壮年の男と金髪碧眼の美女がいた。


「全員起きたようだな。では話をさせてもらおう。諸君らは余が召喚した。ここは諸君らのいた世界ではなく別の世界となる。余はハサン王国第十二代国王サグレス·ヴォン·ハサンである。諸君らには余の為に働いて貰う。何か質問はあるかね?」


「ちょっと待てよ、いきなり連れて来られて仕事しろって言われてハイそうですかってなるわけないだろうが!! 仕事の内容や俺たちが元いた世界に帰れるのかとかもっと説明する事があるだろうが!!」


 激昂する若い男を見ていた佐々原は心配した。あまり逆らうと粛清されるぞと。


「お待ち下さい、ここからはワタクシが説明させて頂きます。お父様、せっかく来ていただいた勇者様方に今の言いようはあんまりですわ! ワタクシはハサン王国の第一王女でユリアナと申します。申し訳ございません勇者様方、皆様を元の世界にお戻しする方法はございません…… 召喚の魔導は一方通行なのです…… けれども我が国での快適な生活を王族としてワタクシが保証いたします。ですのでどうか我が国に力をお貸し下さい! 邪悪なる竜を屠る為にどうか、どうか……」


 最後の方は涙ながらにそう言う王女様を見て若い四人は押し黙り少し絆されているようだ。けれども佐々原ともう一人の若い女性は何の感銘も受けなかったように見える。


『あ〜、この、アレだ。営業課のマドンナって言われてた百合ちゃんと同じ人種だね。自分の武器を心得ていて異性に働きかけるのが上手い娘だ』


 佐々原は内心でそう思っている。若い女性の方は何も考えてないようだ。


「その邪悪な竜をヤるって言っても俺たちは元の世界でただの学生だったんだ。戦いなんてした事がないぞ」


「それについてはご心配なく。皆様は我が国に転移される際に異界の力をその身に宿しておられる筈です。ですので先ずは皆様のお名前をお教え下さいませ。それから皆様の能力を調べさせて欲しいのです」 


 さっきまで泣いていた王女様がほがらかにそう言うとその笑顔にヤられたのか名乗りだす若者たち。


「俺は斉藤さいとうまさるだ」

「俺は加藤かとうさとしだ」

「アタシは〜、細木ほそき茉優まゆだよ」

「私は松川まつかわみなとよ」


「…… 山河やまかわ美帆みほです」


 若者五人が名乗ったので一人だけ名乗らないのも大人気ないかと思い


佐々原ささはらしぼるだ」


 最年長の佐々原も名乗ったが、内心ではこの王女様を信用しないと心に固く誓っていた。


「皆様、有難うございます。それではマサル様からこちらの水晶に手を置いていただけますか? こちらの水晶で皆様の手職しゅしょくを調べさせて下さい」


「しゅしょく? 主に食べるモノを聞いてどうするんだ?」


「いえ、食べ物ではございません。皆様の世界に同じ言葉があるのか分かりませんが、ワタクシたちの世界では【手に職を持つ】といいまして、その人の職は手に現れるのです」


「ああ、そうなんだな。この世界では実際に手に職が現れるって訳だ」


「はい、ですのでよろしくお願い致します」


 王女様の説明に納得したのかマサルは手を水晶に置いた。


 手を置いたら水晶から光が出て壁に文字が映し出された。知らない文字なのに何故か読める。


聖剣手せいけんて?」

「素晴らしいですわっ!! マサル様! まさか聖剣手せいけんしゅの職をお持ちですとは!?」


 マサルの読み間違えをサラッと訂正しながらも興奮した様子で王女様はマサルに抱きついた。

 マサルの鼻の下がこれ以上ないぐらいに伸びている。


「ちょっと!? アタシの彼氏になに色目使ってるのよ!!」


 見かねたマユがそう叫ぶと今気がついたという様にパッとマサルから離れるユリアナ王女。


「失礼致しました、マサル様、マユ様。聖剣手の職をお持ちの方が現れたのが五百年ぶりですのでつい嬉しくて…… 申し訳ございません」


「いやいや、ユリアナちゃんは何も悪くないぞ! マユもこの程度で怒るんじゃねぇよ!」


『若い男ってやっぱり美人な人に弱いよな〜。まっ、俺には関係ないけどな……』


 シボルは内心でそう思いながらユリアナの大根劇を見ていた。


「それでは、気を取り直しまして次にサトシ様、お願いできますか?」


「ああいいぜ」


 そう言うとサトシは無造作に手を水晶に置いた。壁に映し出された職は


「まあ!? まあまあまあ!! サトシ様も素晴らしいですわ!! まさかこちらも五百年ぶりに見られるなんてっ!!」


 【真槍手しんそうしゅ】であった。


 そして興奮したユリアナが今度はサトシに抱きつく。


「おいおい、俺、やっちまったか? マサル?」


「へッ! サトシ、お前のは聖なるものじゃないだろ? つまり俺よりも劣るって訳だ」


 いつもの掛け合いのようでそうでない事は本人たちが一番に分かっていた。既にこの二人はどちらが先にユリアナを抱くかという考えになっている。

 この時点で二人の頭の中にはミホの事は既に念頭に無かった。


「次は私で良いかしら?」


 ミナトはマユのように怒ることも無く冷静な態度でユリアナに言う。


「あら? ワタクシったら、またはしたない真似を…… 申し訳ございませんサトシ様。それでは、ミナト様、こちらに手を置いて下さいませ」


 ミナトに声をかけられてパッとサトシから離れるユリアナ。サトシはかなり残念そうだったが素直に後ろに下がった。


「利き手で良いのよね?」


「はい。普段お使いになる手を置いて下さいませ」


 そう言われ左手を置くミナト。


「まあぁーっ!? 素晴らしいですわ! ミナト様、まさか千年に一人と言われる【治癒手ちゆしゅ】だなんて!? 【治療手ちりょうしゅ】は数多くおりますが治癒手は文献によれば八百年前にお一人おられただけなんですよの!」


 ここでまたもミナトに抱きつくユリアナ。しかしミナトは冷静に言う。


「私は女性が恋愛対象じゃないわ。だから抱きつくのはやめてくれるかしら?」


「あら、失礼致しました。つい嬉しくなってしまいまして」


 言われて直ぐに離れるユリアナ。そして


「じゃあアタシの番だね〜」


 マユが前に出てきて無造作に水晶に手を置いた。


「まっ、まっ、【魔導手まどうしゅ】!! マユ様、あなた様はありとあらゆる魔法をご使用出来るスペシャリストでございますわっ!! 【魔術手まじゅつしゅ】【魔道手まどうしゅ】は数多くおりますが魔導手もここ数百年、出た事がない職でございますわっ!!」


「イェーイ! アタシも遣り手だよ、マサル〜」


 抱きつかれる前に素早くマサルの元に行きハイタッチを要求するマユ。マサルもそれに応じた。


「それではミホ様、よろしくお願い致します」


 言われたミホは無言で進み手を置いた。壁に職が出たその瞬間に周囲がざわつく。


「なっ! 【白手はくしゅ】!?」

色手しきしゅだと! 何と不吉な!!」


 そしてユリアナは叫ぶ。


「下がりなさい!! この汚らわしい色手めっ!! 衛兵! 直ぐに拘束しなさい!」


 ユリアナに命令された衛兵がやって来てミホを拘束する。見かねたシボルが言う。


「おいおい、どんな事情があるのか知らないが説明ぐらいしてくれよ。ミホちゃんの職の何が悪いって言うんだ?」


「シボル様、その前にシボル様も確認させて頂きます。手を置いて下さいませ」


 叫んだ時とは違い冷静になってそう言うユリアナに逆らっても得策ではないと判断したシボルは水晶に手を置いた。


「二人続けて色手だとっ!!」

「しかも【黒手こくしゅ】!!」

「更に不吉なっ!!」


「衛兵! この男も拘束しなさい!! そして王宮から、いいえ、この国から直ぐに出て行かせるのです! 大魔の森に放り捨てて来なさい!!」


「ハッ! 畏まりました!!」


「ハハッ、草臥れたオッサンはいらねぇってよ!」

「マサル、そう言ってやるなよ。まあミホまでとは思わなかったが意外にお似合いかもな!」

「サトシくん辛辣〜。アタシはあのオジサン、そんなに草臥れてないと思うけど〜」

「後で私たちになぜ追放するのか教えて貰えるのかしら?」


 四者四様の言葉にユリアナは少し考えて二人を連れて部屋を出ようとする衛兵を止めた。


「そうでしたわね。皆様は異世界から来られた方でした。理由ぐらいはお教えしておくべきでしょう。このお二人の職はいろを表しております。色手しきしゅと言って我が国並びに両隣の二カ国においても役立たず、不吉な職として言い伝えられております。というのも五百年前にこのシボルという方と同じく黒手こくしゅを得た者が魔王となり人々を脅かしたからです。また、その時に魔王の配下となった者たちも全てが色手の職の者たちでした。その際に魔王を打倒したのがマサル様と同じく聖剣手の職を得た英雄様だったのです。その五百年前以降、我が国を含む三カ国では色手の職を得た者たちは奴隷とするか、大魔の森、邪悪なる竜の支配する土地に放り出すかのどちらかをしております。二人は奴隷とするよりかは大魔の森に放逐して、力の弱い内に魔物か魔獣によって始末される方が危険性は少ないと判断致しました。なので、衛兵! 直ぐに行きなさい!!」


 説明を終えたユリアナは有無を言わさず衛兵に命令を下した。奴隷と聞いてマサルとサトシの目が光ったが、今はユリアナの方に強く惹かれているのでミホに執着する事はないと二人とも判断したようだ。


「ハハハ、オッサン、頑張れよ〜」

「英雄気取りでミホを守ろうなんてせずに自分が生き残れるように立ち回るんだな」

「オジサン、生きてたらまた会おうね〜」

「ご愁傷さま」


 四人からの言葉を無視してシボルとミホは大人しく衛兵に連れて行かれる。


 というのも小声で衛兵が喋りかけてきたからだ。


「悪く思うなよ。命令だから仕方なくなんだ。とりあえず王宮の外に出よう。馬車を用意してある。馬車の中で少し話をするから黙って大人しくついて来てくれ」


 そう言う衛兵に従う事にしたのだった。王宮から出ると馬車に乗せられる。二人をここまで連れてきた衛兵も一緒に中に入る。

 口を開こうとしたシボルにまだダメだというふうに首を横に振る衛兵。


 王宮の外、更に王城の敷地外に出てから衛兵が喋り出した。


「さてと、ここまで来れば大丈夫だ。先ずは我が国の王族が君たち二人に下した判断を謝ろう。済まない。我々としては本当に申し訳なく思っているんだ。いきなり見知らぬ場所に連れて来られて職を調べられ、それが自分たちにとって都合の悪い職だと分かれば直ぐに追放だとか…… 人としてどうかという所業だが…… 我々も命令を遂行しないと明日をも知れぬ身なのでな…… 本当に申し訳ないと思う」


 その言葉にシボルは言葉を返した。


「いや、それはまあ良いよ。アンタの所為じゃ無いしな。それよりもこれから連れて行かれるだろう場所について教えてくれないか?」


「あ、ああわかった。あんたは取り乱さないんだな。今までに来た者たちは大半が怒り、俺たちを罵ったものだったが…… まあそれよりも大魔の森についてだな。俺も我が国の伝承しか知らないが、魔竜山と呼ばれる山が中央にあり、その麓に広がる森が大魔の森だ。森は深く、魔物や魔獣が多く住んでいる。基本的に魔物や魔獣は人を見れば襲ってくるが、森の浅い場所ならばあんた達でも倒せる程度の強さだ。その為の武器や防具も用意してあるからな。それと、野営道具もこの鞄に一式入れてある。それらを活用して何とか生き延びて欲しい。それとコレは噂なのだが森の奥に住む者がいるらしい。そこまでたどり着ければ更に生存出来る可能性があると思う。先ずは森の入り口付近で経験を積んで、それから奥を目指してみると良いだろう。方角としては魔竜山に向かって進めば良いとしか分からない。不確かな話で申し訳ないが……」


 衛兵が指し示す場所にはシボルやミホでも使えそうな小剣や革で出来た鎧などが置いてあった。その横には何の変哲もない鞄が二つ置いてある。


「あんな小さな鞄に野営道具一式が入ってるのか?」

 

 シボルの質問に衛兵は答えた。


「ああ。心配するな。アレは容量としてはこの馬車ぐらいと小さいが魔術鞄だ。時間停止機能は無いが時間遅延にはなっている。そうだな…… 一日で腐る物を入れておいても十日は持つといえば分かるか?」


「そうか、そんな鞄がこの世界にはあるんだな。しかし一つ聞こう。何でアンタは俺たちみたいなのにそこまで手を貸すんだ?」


 シボルの問いかけに衛兵は


「そうだな…… 一つは恩返しだ。以前、六年ほど前にあんた達と同じように召喚された者がいた。そいつは白手はくしゅという職だったんだが、その当時、医者も匙を投げた俺の妻の病を癒してくれたんだ。その頃は追放ではなく奴隷として俺たちに下げ渡されていたんでな。俺がそいつを奴隷として引き取ったのは偶然だったんだが。で、今は奴隷から解放しているぞ。そいつがどうしても大魔の森に行きたいと懇願して来たからな。なので俺は死亡届を国に出してそいつの好きなようにさせてやったんだ。出ていく時にそいつから頼まれたのが、自分と同じような者が召喚されたなら力を貸してやって欲しいという事だったんでな。だから俺はあんた達に出来る事をしているって訳だ」


「その人から何か連絡とかは今でも来るのか?」


「いいや、何もない。が、何もないからこそ俺は約束を守っているんだろうな。もしもまた出会った時に胸を張って会えるようにな」


 衛兵の答えにシボルは分かったと返事をしてからミホの方を向き話しかけた。 


「ええっとミホちゃんだったよね? ちゃんって呼んでも大丈夫かな?」


 シボルの言葉にコクリと頷くミホ。


「そうか、有難う。俺はシボルって言うんだがこんなオっサンと一緒は嫌かも知れないが、それでも一人よりかは二人の方が生存出来る確率は高いと思うんだ。嫌だろうけどオっサンも何とか安全が確保出来るように頑張るから、一緒に行動してくれるかな?」


 もしも結婚していたならば自分の娘であっても可怪しくない年齢だろうミホに優しくそう言ってみるシボル。


「はい。よろしくお願いしますシボルさん。私も頑張ってみます」


 その時になって初めてミホが言葉を発してシボルに微笑みかけた。年甲斐もなく少しドキドキしてしまうシボル。


『勘違いするなよ俺! これは異世界に放り出されて頼れるのが俺しか居ないからだからな!!』


 そう内心で言って気を引き締めるシボルだった。


「そうだ、鞄の中にはこの世界で普通に着られる服も入れてあるからな。あんた達の服は高値で売れるから休憩場所に着いたら着替えると良い。いま着ている服は大切にしておけ」


 衛兵にそう教えられて頷く二人。それから二日間、馬車に揺られて旅をする間に武器や防具の装備の仕方を教わったり、剣の扱いも学んだりした。付け焼き刃でも何もしないよりはマシだと考えたからだ。

 ハサン王国の両隣の国についても教えて貰ったりした。


「するとこういう事か、ナチ。ハサン王国だけじゃなくてカルガ王国やラーグン公国でも召喚を行っているのか?」


「ああ、そうだシボル。そしてあんた達と同じように色手の職を持つ者はそれぞれの国の大魔の森に接する場所に放逐される事となっている筈だ」


「そうか…… まあ放逐された者が協力的とは限らないからな。出会うにしても慎重に行動しないとな」


 シボルはいい事を聞いたと思いナチに礼を述べた。 


 そして二日後、遂に大魔の森の入り口にたどり着いた。


「ここでお別れだ、シボル、ミホ。こんな事しか出来なかったがどうか頑張って生きて伸びてくれ」


「いいやナチ。何度も言うがアンタの所為じゃない。それにここまで色々と教えてくれて有難う。二人で何とか協力して生き延びて見せるさ」


「ナチさん、有難うございました」


 二人はナチと別れて先ずは野営場所の確保だと森の周囲を探索する事にしたのだった。

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