赤い雪

水面あお

第1話

 南国に暮らすわたしは、雪というものを見たことがない。

 雨はよく見るけれど。


 雪は空から白くひらひらと舞うように降ってくるらしい。

 ホコリみたいな感じなのかな? でも、みんな綺麗だって言う。

 

 なんだか、想像できないや。


 暖かい国は穏やかで平和だ。

 わたしは毎日学校へ行き、友達と遊び、家に帰れば農作業を手伝うのんびりとした日々を送っていた。


 


 でもそんな日々は続かなかった。

 


 戦争が始まったみたい。

 

 どうして同じ人間同士で戦い合うのだろう。

 悲しみが生まれるだけなのに。


 

 そう遠くない街で爆弾が落とされて、家が燃えて、人がたくさん死んだ。


 わたしは今まで通りに生きられなくなった。


 家族と一緒に、遠くへ逃げることになった。


 知らない道を通って、みんなで移動していく。


 進んでいくごとにどんどん寒くなった。

 

 少ない食料を分けて食べ、身を寄せ合って眠る。少し前まで想像もつかなかった毎日。


 でも、戦争が終わってくれれば大丈夫。

 悲しみしか生まないんだもん。きっと早く終わるはず。


 そんなわたしの願いは叶わず、戦争は激化していった。


 もう、住んでいたところからずいぶん遠くへ来たのに、ここにも戦争の被害が出てきた。

 

 わたしはどこへ逃げたらいいんだろう。


 怖い。


 死にたくない。


 怯えながら過ごす日々は、一日がとても長く感じられた。


 


 食料をもらいに行く途中のことだった。


 大きな音がなって、空飛ぶ鉄の鳥がたくさんやってきた。


 みんな、なりふり構わず逃げた。逃げたところで逃れきれないんだろうとわかっていたけれど、ひたすら逃げた。


 わたしも逃げた。

 

 いつの間にか両親とは、はぐれていた。

 

 空飛ぶ鉄の鳥は、爆弾をたくさん落としていった。

 

 家も、人も、空も、燃えた。

 

 視界が赤く赤く染まった。


 

 わたしの身体も赤く染まった。


 痛くて、苦しくて、どこかの家の壁に背中をあずけて座り込んだ。


 意識はぼんやりしていた。


 わたし、死んじゃうのかな。

 いやだな……。


 焼きつくような痛みをこらえながら、赤い空を見上げていた。


 


 ふいに、ひらりひらりと空から何かが降ってきた。


 雪だ。


 わたしが住んでた地域には雪なんて降らなかったけれど、ここは降るんだ。

 

 たしかに、寒いもんね。

 

 ずいぶん遠くまで来ちゃったなあ。

 


 でも、雪は白いって聞いていたのに。

 

 

 すごく赤いなあ。

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