第3話 回答/バトルスタイル
理論上可能。昔から、そんな言葉が好きだった。
極限まで重ねられたバフ、針穴に糸を通すような操作技術。
たった一つのロマンの為に、数百時間もの間理論と実践を続ける。
そんなイかれたプレイを続けていたら、いつしかこう呼ばれていた。
出現したキーボードの挙動を確認する。
基点はリングを装着した左腕、左腕を動かすと同じだけ位置が変化する為、左腕との相対位置は常に一定。手首を動かす分には、キーボードは動かない。
配列は一般的なUSキーボードと同じ。
大丈夫だ、これならギリギリ全てのキーに指が届く。
ロボットの大群が迫る。
ゆっくり交代しながら、剣で攻撃を捌く。
受け流す。逃げる。タイプミス。
突き刺す。逃げる。タイプミス。
受け流す。逃げる。タイプミス。
斬り裂く。逃げる。タイプミス。
拳を喰らう。吹き飛ぶ。視界がまた赤に染まる––––––––
『
赤い魔法陣から放たれた炎の矢が、一度に三体のロボットを貫く。
感覚は分かった。
これなら勝てると、笑みが溢れる。
「ハッ……ハハハハハハハ!!!」
魔法発動。斬撃。タイプミス。
タイプミス。タイプミス。刺突。
魔法発動。
魔法発動。
タイプミス。
魔法発動。
魔法の弩と鋭いサーベルが火花を散らす。
ロボットが次々に塵と化す。
ロボットの小隊が消え去るまで、そう時間はかからなかった。
「は〜……あー……っしゃああああ!!!!!」
荒野に倒れ伏し、力の限り叫ぶ。
当然だが、キーボードは動き回りながら片手で入力するものではない。かつてない集中のせいか脳が焼き切れそうで、気持ちが緩んだ瞬間に疲労が襲ってきた。
それでも、楽しかった。勝利は心の底から嬉しかった。
魔法剣士なんてベタな戦い方が、ここまで大変だとは思わなかったが……
このゲームでの俺の
立ち上がって服に付いた砂を払い、戦利品を確認する。
手に入ったのは『ダイダロス式回路基板』が23個、『ダイダロス式合金』が10個。
集団討伐ボーナスとして手に入った『ダイダロス式エネルギーコア』が1個。恐らく、かなりの希少素材だ。
そして、ボーナスも合わせてマニーが1247。
経験値がない世界なせいで、ちょっと苦労に見合わない気もするが……
初戦闘にしては、上々の成果だろう。
* * *
荒野を歩いて目に付いたエネミーを倒しながら、エテルに纏めてもらったチュートリアルを読む。アシスタントAIはシップに乗船している時にしか反応してくれないらしく、少しだけ寂しい。
この世界はワープ技術が一般化した遥か未来で、全ての人間が宇宙を放浪しているのだとか。全ての惑星は不思議な力により一定周期でリセットされる為、定住しようにも家を作る事すら不可能らしい。
とはいえこの現象もデメリットだけではなく、リセットの度資源が復活する為、この世界の人類は資源不足と無縁の生活を送っている。
プレイヤーの目的は、自分の住む
一定以上シップを発展させる事で『ゲームクリア』となり、この世界の英雄として未来永劫名が刻まれる……らしいが、この『ゲームクリア』条件は極秘らしく、これ以上の事は書いていなかった。
そしてここが最重要なのだが、プレイヤーが強くなる方法はとても限られている。
レベルやステータスの概念はなく、エネミーから入手した素材でより強い装備を作り、一惑星に一つしかないユニークアイテムを探す事で強くなれるらしい。
ユニークアイテムの入手条件は惑星ごとに違い、どれも秘匿されているが、基本的にはシップが総力を挙げてようやく入手できるくらいの難易度だそうだ。
だが、まだシップ運営が決まっていない現状、出来ることはただ一つ。
強くなってレートを上げ、シップ運営の座を手に入れんと努力する。
それだけだ。
ああ、そうそう。
リッターのレートもちゃんと纏めてくれていたよ。
レート2197、堂々のランキング一位だとさ。
何時間をこのゲームに注ぎ込んだのか、聞いてみたい気持ちと聞きたくない気持ちが半々だが、一旦見なかった事にして俺はエネミー狩りに戻った。
そうして彷徨う事、一時間。
所持マニーが20000を超えた辺りで、俺はシップへ帰還した。
「ワープ時の光って抑えられないのか、エテル」
『お帰りなさいませ。光を抑えるのは残念ながら不可能ですね。フィードバックを送信しますか?』
「そんな事まで出来るのか、凄いな。よろしく頼む。ところで……装備の作成はどこで可能なんだ。案内してくれ」
『二件のリクエスト、承知いたしました。どうぞ、私に付いてきてください』
導くようにふわふわと飛ぶ薄緑色の光を導に、艦内を巡る。
多くのプレイヤーが集うラウンジを抜け、よく外の宇宙が見える長い長い廊下を歩き、巨大な螺旋階段を上る。
そうして辿り着いたのは、八畳ほどの個室だった。
簡素な白い床と壁、家具はベッドのみ。
入り口付近の壁には、タブレットのようなものが埋め込まれている。
『こちらがバーリトゥード様の自室、マイルームとなっております。こちらの埋め込み式タブレットを使う事で装備の作成や素材の出品が可能ですから、どうぞご活用ください。また、マイルームに到達した事により、艦内のワープの可能となりました』
「そうか、ワープは極力使用しないがありがとう。さて、装備装備……」
壁に埋め込まれたタブレットに触れ、装備の作成と書いてある項目を選ぶ。
素材からの逆引きも可能らしいから、とりあえず希少そうな『ダイダロス式エネルギーコア』で作れる装備を見てみる事にした。
最初に手に入れた1個しか持っていない素材だ、大事に使わないと。
装備の種類を絞り込む。
魔法を使う為の装備、
両手が塞がると魔法が使えなくなってしまう為、両手武器も除外。
残ったのは……三種類。
片手剣の『ダイダロス制式軍刀』、短剣の『ダイダロス制式短刀』、そして槌の『ダイダロス制式小型破城槌』か。
どれも作成素材は変わらず『ダイダロス式エネルギーコア』1個と、『ダイダロス式回路基板』が100個、『ダイダロス式合金』が50個、それと20000マニーだ。
今の俺でも、ギリギリ一つなら作れる。
俺は迷わず『ダイダロス制式小型破城槌』を選択した。
ゲーマーってのは、ゴツそうな名前の武器が大好きな人間なんだよ。
作成を押すとタブレットから帯状の光が溢れ、空中に武器が構築されていく。
金属製の長い持ち手の先には、黒く大きな
排気口のような穴が空いた片側からは、絶えず青い雷が溢れている。
剥き出しの配線が持ち手へ絡みつく様は、あのロボット達を彷彿とさせる。
「気に入った、最高だ。エテル、シップマスター権争奪戦ってのはどこからエントリーできる?案内してくれ、こいつの威力を試したくて仕方ない」
『了解しました、バーリトゥード様』
初期装備のサーベルの代わりに新しい武器を担ぎ、意気揚々とマイルームを出る。
目標はただ一つ、このシップの頂点だ。
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武器名:『ダイダロス制式小型破城槌』
ランク;B
属性:打撃
効果:『機構暴走』
三回攻撃する度、次の攻撃が強化される。
エンチャント(ランクに応じた数がランダムに付与されます)
『怒り』
ダメージを受けると、一定時間攻撃力が上昇する。
『力任せ』
攻撃の速度に応じて、衝撃力が上昇する。
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