第2話 探索/チュートリアル
窓の外には宇宙。
部屋の中央には、何やらランキングのようなものを映し出している円形のパネル。
白いソファーには、まばらにプレイヤーが座っている。
ある者は身の丈ほどの大刀を背中に担ぎ、ある者は巨大なマシンガンを膝の上に乗せて静かに過ごしていた。
かと思えば、ラウンジの端の方では何名かのプレイヤーが集まり、楽しげに笑い合っている。
VRMMOなんていつぶりだろうか。
何年経とうと、ゲームの世界観が変わろうとも、この雰囲気はあまり変わらない。な。ある種混沌としていて、それがどことなく心地良かった。
「とりあえず……チュートリアルを開始してくれ。基本的なやつから頼む」
『承知しました。このゲーム『スペース・ナイト・オンライン』は、各々が所属する
こうした所謂天の声、ゲーム進行を助けるAIアシスタントと会話できるのも、近年珍しい事ではなくなっている。とはいえ、薄緑色の光として周囲を旋回しながら話しかけてくるのは、大変珍しいが。
それにしても、最低1000人とは凄い数だ。この船には俺の他に大量のプレイヤーが乗船していると思うと心踊る。
『プレイヤーの目的は、自身が所属するシップの発展です。その為には、シップが探索権を所有する惑星へ降り立ち、戦利品を持ち帰らなくてはなりません』
「その戦利品ってのは、例えば?」
『エネミーの落とす素材や
「いいね、分かりやすくて最高だ。それらしいのを全部持って帰ればいい、と」
『その通りです』
ユニークアイテムの存在が気になるが、手に入るのは当分後になるんだろうな。
そんな事よりも早く惑星に降り立ちたい、戦闘がしてみたい。
「それで、どうすれば惑星に行ける?」
『メニューを開いて頂ければ、所属シップが探索権を保持している惑星へワープする事が可能です。今すぐにもワープする事は可能ですが、最後にシップマスター権争奪戦の説明をお聞きくださいませ』
「ああ、そういや言ってたな。気になる、教えてくれ」
『シップマスター権争奪戦とは、現在このシップ#6438内で開催されているレート式ランクマッチイベントです。ランキング一位のプレイヤーは、シップ#6438のあらゆる運営方針を決定できるシップマスターとなります』
天の声曰く、シップの命名権に他シップとの交易、決闘の申し込み、シップメンバーの管理にシップの詳細な模様替えや増築など、あらゆる事ができるのだとか。
ランキング二位から四位のプレイヤーもシップ運営として色々とできるらしく、今回のランキングで上位に食い込めた方がこのゲームを楽しめるのは間違いない。
問題は、あと一週間……正確には六日と三時間でこのイベントが終了し、シップマスターが決定してしまうという点。
俺に残された時間は、少ない。
「天の声さん」
『バーリトゥード様個人の為のAIアシスタント、エテルです』
「……エテルさん、後で読むから覚えておくべき世界観やシステムを纏めてメッセージに転送しておいてくれ。それと、リッターって名前のプレイヤーのランキング順位も、だ。よろしく頼む」
『承知いたしました。それでは、行ってらっしゃいませ』
空間を
すると、またもや視界は光で包まれる。
何度だって言おう。
フルダイブVRのワープ演出は、酔いやすくてクソだ!
* * *
目を擦る。瞼を開く。
眼前には、ほんの少しの雑草を除いて一面の砂が広がっていた。
不快という程ではないが、じんわりとした暑さを感じる。
フルダイブVR内で感じる様々な感覚は基本的にプレイヤーへ影響が出ない範囲まで規制されているが、それでも暑さを感じるとは。
下手したら気温が50度を超えているんじゃないか?
とりあえず荒野を進んでいると、何やら行進する軍団のようなものを見つけた。
あれは何だ。大きさは人間と対して変わらないが、その材質が人間のものでない事はよく分かる。
大きな楕円状の頭、剥き出しの配線、うっすら匂う錆の匂い。
黄土色の人型ロボットが数にして二十体ほど、一列に並んで進んでいた。
「ハローハロー、こんにちは……聞こえてないか。俺の存在自体バレてなさそうだ」
こっそり最後尾に付き、行進に加わる。
敵ではあるのだろうが、あまりにも攻撃してこないせいで、友好的な存在なんじゃないかという可能性が脳裏をよぎる。
しかし。
こうも背中が無防備だと、魔が刺してしまっても仕方がないだろう?
腰に下げた鞘からサーベルを抜き、ロボットの背中に突き立てる。
一撃。
ロボットはその場に倒れ伏し、塵となって消えた。
戦利品は、42マニーと『ダイダロス式回路基板』という素材アイテムだった。
『異常を検知。敵性存在を検知。排除を開始』
問題があるとすれば、今の行動で残りのロボットが全て敵対した事だろうか。
隊列が一斉に俺の方を向き、頭から赤いランプを光らせている。
ロボットが一斉に拳を構える。
砂埃が舞う。
来る。
「––––––––ッ!」
一体目の拳を弾き、返す刃で頭を叩き斬る。
間髪入れずに飛んできた二体目の拳が腹に命中。
俺は鈍い音と共に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた先にもロボット。
急いで立ち上がりながら斬り上げてなんとか討伐し、距離を取ろうと走る。
視界が赤くぼやけてきた。
咄嗟にアイテムボックスから回復用の注射器を取り出し、足に刺す。
すると注射器は塵となり、視界もクリアに戻った。
なるほど、回復はこうして行うのか。
顔を上げる。ロボットの軍団が走ってこちらへ向かっていた。
剣だけで捌ける量じゃない。かといって、悠長に魔法を打ち込む余裕もない。
ロボットが迫る。考える時間はない。
このままでは死ぬ。デスペナルティが何か分からない以上、死にたくない。
どうせ最初に行ける場所なんて余裕だろうと高を括っていたのが間違いだった!
––––––––心臓が高鳴る、極限状態にて。一つの答えに、辿り着く。
「理論上可能なら、
指を鳴らす。
右手に剣を、左手にはキーボードを。
人間の手は二本ある。ならば、二つのことまでは同時にできる。
幼稚園児でも分かるくらい、簡単な理論だろう?
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