戦闘狂共のVRMMO〜争いに飢えたゲーマー集う、何でもアリの『宇宙船対抗』対人戦〜
不明夜
シップマスター権争奪戦編
プロローグ
第1話 はじまり/キャラメイク
ゲームの主流がフルダイブVRへと移り変わり、あらゆるゲームに枕詞として『無限の可能性』が付け加えられる程人工知能も発達した昨今、一部のゲーマー達は争いに飢えていた。
というのも、協力メインで対人戦要素のないフルダイブVRMMOが一世を風靡して以降、あらゆるゲーム会社は二匹目のドジョウを狙わんと似た様なゲームばかり開発してきたのだ。
その結果生まれた、対人ゲー不人気時代。
他プレイヤーから略奪できるようなVRMMOはこの世に存在せず、ボク達のような若いゲーマーにとって殺伐とした世界は伝説上のものになってしまっていた。
だがしかーし、そんな日々も一週間後には終わるんだよ––––––––!
とは、俺のリアル幼馴染にして半端じゃなく血と争いに飢えたやべーゲーマー、リッターの談である。
「だからさ、とりあえず始めてみよ?ボクがお金は出すからさあ。ねーえ、お願いだって、やっぱボク一人で新しいゲーム始めるのはちょっと心細いんだよ〜」
リッターは俺の肩を掴んでぐわんぐわんと揺らす。
悲しきかなここは現実、ゲームと違って頭が揺れれば普通に気持ち悪い。
黒髪ショートの美女が自分の部屋に!と言えば大変聞こえがいいが、実態としては
セキュリティの脆弱性を放置している俺にも非はあるが、だからって遠慮も無しに上がり込んで新作ゲームのプレゼンを始めるのはおかしいと思う。人として。
「ここまでで突っ込み所が数点あるんだが……いいか?」
「おかしいな、ボクの説明に不備はないはず」
「……若いゲーマーを自称できるほど若くないんだ、俺たちは」
え、そこ?とでも言いたげなリッターを無視し、続ける。
「それにな、俺は会社員なんだ。平日にも休日にも仕事があるんだよ。昔みたいに二人で対人戦へ打ち込めるほど、暇じゃない」
「それは……まあ、そっか。そうだよね。……もし余裕が出来た時一緒に遊べるように、事前登録だけでもしといてよ。招待コード、後で送っとくからさ」
足早に自分が食べた菓子のゴミを片付け、リッターは俺の部屋から去っていった。
リッターが今日プレゼンしてきたのは、既に事前登録が2000万人近くまで到達したという超大規模対人戦特化VRMMO『スペース・ナイト・オンライン』。
最低でも1000人以上のプレイヤーと同じ宇宙船に乗り、一つの巨大なギルドとなって他の宇宙船と貿易したり、惑星の所有権を巡って決闘したりするゲームとの事だ。
正直興味は唆られるが、時間がない以上は遊べそうにないな。
昔のままだったら後先考えず飛び込み、単位を落としそうになって二人で冷や汗をかいていたのだろうか、なんて。
数年前とは大きく変わった環境と、あまり変わっていない関係になんとなく思いを馳せながら、遊べそうにないのに事前登録をする。
そんな、なんて事のない冬の日。
その日は珍しく仕事に呼び出されない休日だった。
次の日は珍しく風邪をひいた。
あまりにも治る気配がなかったので、半分ヤケで溜まっていた有給を消化して一週間休んだ。
……その間、デジタルデトックスでもしようかとあらゆる電子機器の電源を切っていたのが本当にまずかった。この情報社会で情報を断つのは死と同義だ。
次出社した時には会社が倒産していたし、夜逃げした社長の尻拭いで地獄の様になっていましたとさ。
ちゃんちゃん。
ちゃんちゃらおかしいよ。
「あーあ……この *表に出せない罵詈雑言とネットスラング* !!!!!」
その後、何やかんやあって未払いの給料を請求する事はできた。
なんやかんやの内容はヤケ酒しながら除夜の鐘を聞いている内に忘れてきたし、正直思い出したくもない。
幸いな事に、一年ほど無職でもなんとかなる程度の貯金はある。
ついでに、働ける精神状態ではないという医者からのお墨付きもある。
ならばもう、やるしかあるまいて。
正式サービス開始から早三週間、よく分からないが絶賛盛り上がっていると噂の『スペース・ナイト・オンライン』を!
それも、リッターには内緒で!
時間に余裕が出来た結果、昔のような悪戯心が戻ってきてしまったのだろうか。
昔と同じ名前でこっそり初めて、こっそりランク上位に食い込んだらとても愉快なんじゃないか、そんな考えが頭をよぎって仕方ない。
急いでソフトを購入し、自前のフルダイブ用ヘッドセットへとダウンロード。
先に煩わしいアカウント周りを確認し、先に設定できる項目は終わらせておく。
それから数時間かけてダウンロードを済ませた俺は、ヘッドセットを被ってベッドへ横たわるのだった。
時刻は、午後九時。
* * *
|––––––––––––––––––––––––|
アカウント:Valetudo_sasaki3
表示名 :バーリトゥード
サーバー :Andromeda
シップ :#6438
|––––––––––––––––––––––––|
フルダイブ酔いでぼやけていた意識が鮮明になると同時に、少しずつ周囲に表示されたウィンドウや、アナウンスが理解できる様になる。
そんな瞬間こそが一番気持ちいい、なんて変な主張をする人間も一定数居るが、個人的には普通に不愉快なだけだと思う。
『はじめまして、
どこか機械的な女性の声が、白一色の空間に響く。技術の発展と共に機械音声の機械感なんてものは取り除かれているので、この声がどことなく機械的なのは開発者の趣味か、そうでなければ世界観的なヤツだろう。
音声案内に従い、先に公式サイトで作ったアバターを適応する。
黒のショートアフロと初期装備の少しテカった白コートが最高に似合うナイスガイだ、いつぞやにネタで作ったキャラと似たビジュアルで毎回作ってしまう。
『最後に武器をお選び頂けば、アバターの作成は終了です。どうぞ、心ゆくまでお試しくださいませ』
アナウンスがそう告げると、何もなかった空間に大量の武器が乗った黒い机と、赤色の人型マネキンが5体ほど出現する。
肝心の武器は大小様々。
小ぶりなナイフ、巨大な斧、腕にはめる謎のリングや、イケてるリボルバー型の銃器だってある。
この中から好きなものを二個選べと言われても、本当に悩む。
数十分間試し切りをして気に入ったのは、長くて軽い薄刃の軍用サーベルと、例の腕にはめる謎のリング。
このリングの正体は、驚くべき事に––––––––
キーボードだった。或いは、慣例的に杖と言ったほうがいいか。
リングを左手にはめ、軽く指を鳴らす。
すると、キーボードとウィンドウがホログラムで映し出され、俺の手の付近に追従し続ける。
なんともSF世界のスーパーハッカーになったみたいで気分がいい。
しかし真骨頂はここからだ、ウィンドウに書かれた使用可能コマンドを見ながら入力する。
「……『
前方に赤色の魔法陣が現れ、マネキン目掛けて炎の矢が飛翔する。
マネキンの腹部が抉れる。
十分すぎる威力だ。弾速こそ遅いが、初期魔法にもかかわらず当たればプレイヤーだって倒せるだろう。
「気に入った、キャラメイクは終了だ」
『それでは、行ってらっしゃいませ。バーリトゥード様の旅路にどうか、抱えきれないほどの栄光がありますよう』
視界が光で包まれる。
昔から、一つだけ思っている事があるんだ。
フルダイブVRのワープ演出は酔いやすくてクソだと––––––––!
* * *
目を開くと、そこは。
窓からは宇宙が見える、宇宙船の巨大ラウンジでしたとさ。
『シップナンバー#6438へようこそ。現在、シップマスター権争奪戦が開催中です』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます